声/夏の夜
ムンクといえば『叫び』というようにステレオタイプ化した私のような凡人にとって今回の西洋美術館の展示はこれまでのムンクに対するイメージを払拭し、新たな視点を提供してくれる画期的なものでした。この展覧会では彼が豊かな色彩感覚を持ち明るい側面をもっていたことを知ることができます。
会場内に入るとすぐにビデオが上映されているスペースが目に入りました。上映時間11分とあったので、これを見てみることにしました。
今回の展示は以下の7章に分かれているのですが
第1章〈生命のフリーズ〉:装飾への道
第2章人魚:アクセル・ハイベルク邸の装飾
第3章〈リンデ・フリーズ〉:マックス・リンデ邸の装飾
第4章〈ラインハルト・フリーズ〉:ベルリン小劇場の装飾
第5章オーラ:オスロ大学講堂の壁画
第6章〈フレイア・フリーズ〉:フレイア・チョコレート工場の装飾
第7章〈労働者フリーズ〉:オスロ市庁舎のための壁画プロジェクト
ビデオは「第1章〈生命のフリーズ〉」に次の4つのポイントがあると紹介しています。
(1)愛の芽生え
(2)愛の開花と移ろい
(3)生の不安
(4)死
展示されていた絵で私の印象に残ったものです。。
(1)
マドンナ
(2)
吸血鬼
(3)
不安
(4)
屍臭
ところで「フリーズ」という聞き慣れない言葉ですが「横長の帯状装飾のことで天井に近い部分に(高い位置に)部屋をぐるりと取り囲むよう設置されたものだそうです。」下の写真のように。
ムンクはこのフリーズ形式による自身の作品展示に強く取り憑かれたようで何度もチャレンジしています。実はこれが今回の展示のメインテーマであり、ムンクの新解釈といえるものです。
その中には、「これがムンクなのか」と思う作品が多々あって驚きます。
橋の上の女性たち
浜辺の木々
雪の中の労働者たち
一連の展示を観終えて、なるほどムンクは生涯かけてフリーズにこだわっていたことがわかります。しかし、その目論見は成就せずに生涯を終えてしまいました。上の「雪の中の労働者たち」はオスローの新市庁舎のために描きためたものの一つですが、市庁舎建設が始まった時にムンクは70歳を超えており右目の視力も失いかけていたのです。
愛や欲望、不安、死への恐怖などが強調されがちな一連のムンク作品ですが、今回見おえての率直な感想は、世紀末、第一次大戦、ロシア革命という当時の時代背景が彼の心理に色濃く反映しているということです。とりわけ労働者シリーズは意外でした。晩年にかけてのムンクの関心はもはや絶望や不安よりも新しい階層である労働者たちのエネルギーに向いていたようです。
おまけ
一瞬ゴッホかと思った作品。
星月夜
http://www.amazon.co.jp/%E3%82%A8%E3%83%89%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%83%AB%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%A0%E3%83%B3%E3%82%AF-%E3%83%91%E3%83%AB%E3%82%B3%E7%BE%8E%E8%A1%93%E6%96%B0%E6%9B%B8-%E3%83%9E%E3%83%86%E3%82%A3%E3%82%A2%E3%82%B9-%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%8E%E3%83%AB%E3%83%88/dp/4891943866/ref=sr_1_3?ie=UTF8&s=books&qid=1198818022&sr=8-3
このシリーズ、いろいろな画家がありますので、ぜひ読んでみてください。
太田省吾氏の「触覚と必要の画家」からの引用を
http://www.b-sou.com/tec-Munch.htmで読むことができました。
バックナンバーは一般の図書館には置いてなく国会図書館で確認。
http://opac.ndl.go.jp/Process?MODE_10100005=ON&SEARCH_WINDOW_INFO=06&THN=1&INDEX_POSITION=0&DB_HEAD=01&SORT_ORDER=01&SHRS=RUSR&QUERY_FILE=5221426238_8424780&TA_LIBRARY_DRP=99&DS=0&CID=2280589&SS=01&SSI=0&SHN=0&SIP=1&LS=5221426238
別途にさん知り合いの美術関係の教職員に問い合わせ中です。
まずはパルコの方を読んでみます。
いろいろありがとうございます。
オスロにムンクを見にいきたいと思っているのですが、北欧は物価が高く、なかなか実現できません。そのうち特集をつくりたいと思っているテーマのひとつです。