以下は 河合隼雄「『出会い』の不思議」P307~310より
「アメリカ・インディアン(先住民と今は呼ばれている)のジョシュア族には二人の創造主がいる。一人はコラワシと呼ばれ、もう一人は名前がない。コラワシは人間をつくったり、動物をつくろうとしたりするが、いずれも失敗してしまう。そこで名無し男が三日間煙草をすっていると、その間にひとつの家が出現し、そこから美女が一人出てくる。彼は煙草をすうことによって生み出したこの女性と結婚し、16人の子どもをもうける。この16人からアメリカ先住民のすべての種族が生じてくる。」
河合の説明:これはアメリカ先住民に伝わる創造神話であるが、「この創造神話でもっとも注目すべきことは、いろいろ努力を重ねたコラワシはすべて失敗し、三日間煙草をすい続けた名無し男の方が創造に成功している点である。そういえばアメリカ先住民では、煙草をすうことが重要な儀式として現在も残っているところがある。この神話の眼目は、真の創造というのものは、外見的によくわかるような努力からではなく、むしろ、徹底した無為から生まれる、ということである。古代の知恵がよく示されている。
続けて河合はアメリカの禁煙運動についても触れる。
「こんな話をした後で『今回の参加者はアメリカの方が多いようですが』と前置きしてアメリカでは現在、禁煙運動が非常に盛んであるというと聴衆の中に笑いが起こった。煙草は体に悪いというので、アメリカ人は禁煙に躍起になっているが『煙草をやめることに熱心になりすぎて“煙草をすう態度”までなくしてしまうと、それは人間のたましいには悪いのではないでしょうか』と言うと、これはなかなか受けたようである。」
「正しいことをしようとやっきになって努力しすぎると大切なものが失われてしまう。」
「それにしても、ちょっとアメリカ批判になりすぎたかなと思っていると、アメリカの女性がちょっと話があるとやって来た。また、何か“正しい”ことを言いに来たのかと思って身構えていると『お前の話を聞いて思ったことが、アメリカで禁煙運動がだんだん盛んになるのと青少年の凶悪犯罪が増加するのが、まさに並行して生じていることに気がついた』とのこと。このことに因果関係を認めるのは性急にすぎるが、面白い視点だと思った。」
「正しいことをしようとやっきになって努力しすぎると大切なものが失われてしまう。」
河合のこの考え方は、先日紹介した「推敲は文章を殺す」の「『完全』を狙って努力を続けているうちに生命力を失ってしまう」と同じように思える。
ちなみに河合自身は「子どものときから煙草をすったことは一度もない。」そうだ。
「アメリカ・インディアン(先住民と今は呼ばれている)のジョシュア族には二人の創造主がいる。一人はコラワシと呼ばれ、もう一人は名前がない。コラワシは人間をつくったり、動物をつくろうとしたりするが、いずれも失敗してしまう。そこで名無し男が三日間煙草をすっていると、その間にひとつの家が出現し、そこから美女が一人出てくる。彼は煙草をすうことによって生み出したこの女性と結婚し、16人の子どもをもうける。この16人からアメリカ先住民のすべての種族が生じてくる。」
河合の説明:これはアメリカ先住民に伝わる創造神話であるが、「この創造神話でもっとも注目すべきことは、いろいろ努力を重ねたコラワシはすべて失敗し、三日間煙草をすい続けた名無し男の方が創造に成功している点である。そういえばアメリカ先住民では、煙草をすうことが重要な儀式として現在も残っているところがある。この神話の眼目は、真の創造というのものは、外見的によくわかるような努力からではなく、むしろ、徹底した無為から生まれる、ということである。古代の知恵がよく示されている。
続けて河合はアメリカの禁煙運動についても触れる。
「こんな話をした後で『今回の参加者はアメリカの方が多いようですが』と前置きしてアメリカでは現在、禁煙運動が非常に盛んであるというと聴衆の中に笑いが起こった。煙草は体に悪いというので、アメリカ人は禁煙に躍起になっているが『煙草をやめることに熱心になりすぎて“煙草をすう態度”までなくしてしまうと、それは人間のたましいには悪いのではないでしょうか』と言うと、これはなかなか受けたようである。」
「正しいことをしようとやっきになって努力しすぎると大切なものが失われてしまう。」
「それにしても、ちょっとアメリカ批判になりすぎたかなと思っていると、アメリカの女性がちょっと話があるとやって来た。また、何か“正しい”ことを言いに来たのかと思って身構えていると『お前の話を聞いて思ったことが、アメリカで禁煙運動がだんだん盛んになるのと青少年の凶悪犯罪が増加するのが、まさに並行して生じていることに気がついた』とのこと。このことに因果関係を認めるのは性急にすぎるが、面白い視点だと思った。」
「正しいことをしようとやっきになって努力しすぎると大切なものが失われてしまう。」
河合のこの考え方は、先日紹介した「推敲は文章を殺す」の「『完全』を狙って努力を続けているうちに生命力を失ってしまう」と同じように思える。
ちなみに河合自身は「子どものときから煙草をすったことは一度もない。」そうだ。