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森羅万象 ~ 歩く印象派

 煙草をすう男 (河合隼雄「『「出会い」の不思議」)4

2008年09月16日 22時30分40秒 | 読んだ本・おすすめ本・映画・TV評
以下は 河合隼雄「『出会い』の不思議」P307~310より

「アメリカ・インディアン(先住民と今は呼ばれている)のジョシュア族には二人の創造主がいる。一人はコラワシと呼ばれ、もう一人は名前がない。コラワシは人間をつくったり、動物をつくろうとしたりするが、いずれも失敗してしまう。そこで名無し男が三日間煙草をすっていると、その間にひとつの家が出現し、そこから美女が一人出てくる。彼は煙草をすうことによって生み出したこの女性と結婚し、16人の子どもをもうける。この16人からアメリカ先住民のすべての種族が生じてくる。」

河合の説明:これはアメリカ先住民に伝わる創造神話であるが、「この創造神話でもっとも注目すべきことは、いろいろ努力を重ねたコラワシはすべて失敗し、三日間煙草をすい続けた名無し男の方が創造に成功している点である。そういえばアメリカ先住民では、煙草をすうことが重要な儀式として現在も残っているところがある。この神話の眼目は、真の創造というのものは、外見的によくわかるような努力からではなく、むしろ、徹底した無為から生まれる、ということである。古代の知恵がよく示されている。

続けて河合はアメリカの禁煙運動についても触れる。
「こんな話をした後で『今回の参加者はアメリカの方が多いようですが』と前置きしてアメリカでは現在、禁煙運動が非常に盛んであるというと聴衆の中に笑いが起こった。煙草は体に悪いというので、アメリカ人は禁煙に躍起になっているが『煙草をやめることに熱心になりすぎて“煙草をすう態度”までなくしてしまうと、それは人間のたましいには悪いのではないでしょうか』と言うと、これはなかなか受けたようである。」
「正しいことをしようとやっきになって努力しすぎると大切なものが失われてしまう。」

「それにしても、ちょっとアメリカ批判になりすぎたかなと思っていると、アメリカの女性がちょっと話があるとやって来た。また、何か“正しい”ことを言いに来たのかと思って身構えていると『お前の話を聞いて思ったことが、アメリカで禁煙運動がだんだん盛んになるのと青少年の凶悪犯罪が増加するのが、まさに並行して生じていることに気がついた』とのこと。このことに因果関係を認めるのは性急にすぎるが、面白い視点だと思った。」


「正しいことをしようとやっきになって努力しすぎると大切なものが失われてしまう。」
河合のこの考え方は、先日紹介した「推敲は文章を殺す」の「『完全』を狙って努力を続けているうちに生命力を失ってしまう」と同じように思える。

ちなみに河合自身は「子どものときから煙草をすったことは一度もない。」そうだ。



【事故米不正転売】複雑な流通ルート 隠蔽と価格高騰の一石二鳥

2008年09月16日 20時32分10秒 | 歩く印象派
09/16 22:57更新  産経新聞

 農水省の調べでは、三笠フーズの汚染された事故米は、50もの中間流通業者を経由し、消費者に食品として届いていた。次々に転売が繰り返されるうちに、汚染米という事実は分からなくなり、価格は何十倍にもつり上がった。コメを転がす“タンブリング・ライス”で同社が得た利益は少なくとも8000万円とみられる。多くの仲介業者が介在する業界の商慣習と複雑な流通経路が“事故米ビジネス”を許し、食の安全が脅かされることになった。

 「仲介業者で転売を繰り返すのは、昔からの商慣習。コメ業界に出回る“クズ米”をみんなで転がしていれば、出所が分からなくなるし、自然に値段が上がる」。米穀業界を担当する農水省幹部は、そう事情を説明する。

 食品用の米は通常、国内の米農家から買い取ったJAを通じて、メーカーや小売店などに届く。仲介業者が介在する余地は少ない。しかし、JAの段階で「食べられるが質が悪い」と判断されるなどしたコメは、通常の流通ルートから外され、多くの米穀会社や仲介業者の取引対象となる。

 こうした米は、次々に転売が繰り返され、加工などされたうえで、消費者のもとに届く。ある業者は「そのうちに、どういう経緯で流通したコメか分からなくなる」と実情を明かす。

「“やばい米”となんとなく分かっていても、みんなで転売を繰り返せば、責任逃れができる。われわれの検査も途中で止まると思っている。商慣習ができた背景には、業界のこうした集団心理があると思う」と農水省幹部は指摘する。

 不正転売では、「工業用」とは知らされずに悪意なく転売していた仲介業者が多く、その意味では被害者とも言える。しかし、悪意の有無はともかく、“タンブリング・ライス”のうち、消費者・需要者に届いた段階で政府の仕入れ値のうち40倍もの価格となったケースもあったという。

 三笠側が、こうした商慣習を逆手にとって、不正の隠蔽(いんぺい)工作を行っていたのも事実。農薬メタミドホスで汚染された同社の中国米418トンは、佐賀県の「マルモ商事」などを通じて転売されたが、この仲介取引は伝票上だけ。冬木三男社長は今月14日に公表した釈明文で「(同社の利益は)架空計上した」と認めた。

 三笠側は、この手法で1トン5000円程度で購入した汚染米を、食用と偽って90000円程度で転売。約3000万円程度の不正利益を得たとみられる。アセタミプリドの汚染米では、同様に1キロにつき82円の差益を得ており、598トンで4900万円に上る。

 不正利益は現在判明しているだけで8000万円近い計算になるが、さらに拡大が予想される。