超進化アンチテーゼ

悲しい夜の向こう側へ

MASTERPIECE/エレファントカシマシ

2012-05-31 06:11:16 | 音楽







エレファントカシマシのニュー・アルバム「MASTERPIECE」を聴いた。






「STARTING OVER」以降のエレカシの作品は基本一度目のブレイク時みたいな大衆に訴えかける
ポピュラリティの強いアルバム、の中に数曲ニッチな曲を入れてロックサイドのファンにもアピール、っていう
そういう流れが続いていたのですが、このアルバムはその流れから一旦反れたような感触の作品でした。
端的に言うと、ポップでもロックでもないんですよね。勿論「風」みたいなオルタナでもない。
所謂スタンダード・ナンバーばかりを集めましたって印象の作品で
要するに純然たる名曲集になっています、と。
どの曲にも日本人が昔から聴いていたようなメロディや素朴な雰囲気だったり
或いはオールディーズの匂いだったり極力シンプルに削ぎ落とした剥き出しのアンサンブルだったり
派手さも過激さもひねくれも抑えて、とにかく名曲クラスの楽曲、純粋にいい歌ばかりを集めよう、と。
実際にそういう方向性で作られてたのは定かではありませんが
とにかくこれは聴けば聴く度に味が出る
長く太く聴ける相応の名盤に仕上がったかな、と。このアルバムが好みじゃない人でも
マスターピースって付けた意味と思いは感じ取れると思うし、納得もある程度はするんじゃないかと思う。
それくらい堂々とした感触、佇まいのある種のバンドを代表するアルバムに仕上がっているっていう感覚ですね。

思えば、こういう作品ってありそうでなかった気がします。
少なくともここ10年くらいは「MASTERPIECE」みたいな作品って一枚も作ってないんじゃないかな。
攻撃的に立ち返った時期、そこからオルタナ路線に変化したり、そっからの再ブレイクを果たしてポップに
そんな方向性の転換の行き着く果てが「スタンダード」って選択は至極自然な選択って気もする。
思えばどういう方向性にしろエネルギッシュでパワーに溢れて、独特で
でもスッと聴けるフットワークの軽さは正直どのアルバムにも欠けてたかな、と。
勿論気軽に聴けない真剣さがエレカシの良さでもありますが
このアルバムに収められてる「Darling」とか「約束」を聴いてると、全く力んでないしナチュラルだし
狙ってる感じもしないしで、とにかく肩の力を抜いて伸び伸びと歌い奏でてる気がして
それ即ち今までのような覇気に欠けてるって見方もされそうですけど
これはこれで雰囲気も目的も方向性も何もかもがきれいに統一されてるので
全部聴き終わった後には、ここまでしっかりとスタンダード、ブルースを貫いてくれたならば満足かな、と。
少なくとも中途半端な作品になってないのだけはしっかりと断言出来ますね。沁みると思います。

当時のここでも感想を書いた前作のアルバムは、ぶっちゃけ高い評価をしてません。
それは再ブレイクを果たした後の大衆ポップ路線に若干の手詰まり感を受けていたと言うか
どうも「昇れる太陽」で絶頂を味わった為に物足りなさを感じたっていうか。
でも、前述の通りこのアルバムからはそういう中途半端な感じが一切しないんですよね。
凄く堂々としてるし、気負いもないし、でも楽曲の完成度はどの曲も高い。
再ブレイク後の過渡期を経て、再びロックバンドとしてもう一つ先のステージを上がったような・・・
そんな前作の手詰まり感を払拭するようなカタルシスをきちんと感じられた名盤に仕上がったと個人的には。
例えば、「絆」と「大地のシンフォニー」を比べても後者の方が圧倒的に素朴で素晴らしい。
そんな純然たる音楽愛が詰まってる王道アルバム、ファンであれば是非聴いてもらいたい一作ですね。







個々の曲としては、やっぱり「我が祈り」のどうしちゃったの!?ってくらいの荒々しさが好きですね(笑)。
音もグシャっとしてるしなんかインディーズバンドの音源みたいなガサガサ感。
こういう楽曲をブルース色の強い作品に平気で入れるセンスの凄さ。
あとは「Darling」に関しては自然と涙腺が緩んでしまうくらい確かな名曲だと思う。
エレカシらしい意味不明なパワーが楽曲の中で暴れまわってる「東京からまんまで宇宙」も好きです。
後は「世界伝統のマスター馬鹿」ってタイトルの行き過ぎ感もまた面白いですね。
そんなアルバムを締め括る「飛べない俺」の物悲しい感覚もまた好みです。