超進化アンチテーゼ

悲しい夜の向こう側へ

空洞です/ゆらゆら帝国

2011-11-14 19:20:52 | 音楽(名盤レビュー)





またも1ヶ月ぶりの名盤レビューです。今回はゆらゆら帝国の「空洞です」を7回目として。




このアルバムが出てから4年経ちますけど、4年も経つと心身も身の回りの状況も
それなりに変わったり
変わらなかったり経験も良くも悪くも重ねて、色々と感受性の違いもあの頃と比べて出てきますけど
特にこのアルバムは初めて聴いた時と今では印象が全然違っていて
当時はものめずらしい作品っていうか
変り種って感覚で捉えてたものが
今ではすっかり「身に沁みる」アルバムになってしまった、というか
それは言い方を変えると心が擦れてきた、って事なんでしょうけども(笑)。ただまあ、どう考えても
ある程度年代を重ねた方が歌詞の意味も分かってくるから経験してる事が殆どになってくから
その意味じゃ音楽って歳を重ねてからが本番なのかもしれないですねえ。
若い時は若い時の捉え方があるんでしょうけど
それもまた比較出来て面白い事には間違いないですね。

哀しい音楽に楽しい音楽、愛のある音楽に怒りを露わにした音楽・・・そんな感情表現が
音楽の大きな醍醐味って言うならば
このアルバムは哀しくもないし楽しくもない、愛もなければ怒りもない、完全なる空虚だとか
空しさの塊のような音楽で、その中間っぷりだとか、どこにも当てはまらない感覚っていうのは
正にオルタナティヴ以外の何者でもないんですが
そんな暖簾に腕押し感覚だったり
心に渦巻く虚無感や
色々な感情を諦めて放棄する気持ちだったり、
他では得られない独特のカタルシスが詰まってるのがこのアルバムであり
Syrup16gとはまた違ったやるせなさだったり空っぽな感情の移ろいが表現されてるのが
この「空洞です」っていう名盤なんだと今は感じます。
無気力無感情無感動その他諸々
ここまで究極的に空虚で素晴らしい音楽っていうものは他にはないとあくまで経験上ですが断言出来ます。
本音を出せば無条件に軋轢を生む日常なだけに
本音だらけの世界に浸るのが快感みたいな。そういう風に形容はしつつも、結局は音楽は
音を楽しむものでしかないので、結果的に楽しんでいるのは間違いないと思う。
行き場のない気持ちをここまで表現し尽くした音楽は貴重ですからね。



「何も求めず 何も期待せず
 全てをあきらめたあとで まだまだ続く」 (おはようまだやろう)

「適度にフリーな奴隷が俺だよ お前だってそう」 (できない)

「楽しみもなく 悲しみもなく
 なんとなく夢を 求めている」 (なんとなく夢を)

「純粋なクソがいい」 (美しい)

「意味を求めて無意味なものがない」 (空洞です)


このアルバムの中で特に好きなフレーズたち。
やりきれない感情や
ただ思うだけで変わらない事実、全部どうでもいいやって思う気持ち
投げやり・自棄・諦め・放棄・思考停止その他諸々
全ての無力感を詰め込んで
一まとめにして
その代表格とも言える作品を作り上げたポテンシャルは見事。こういう音楽が何をもたらすかって言うと
感情の発散、行き場のない気持ちの行き場、一時的な精神の拠り所、そこからまた次に向かう気持ち。
マイナスやゼロが聴き手に与えるものって
実はプラスになってると思うんですね。
マイナスをマイナスにぶつけて相殺され
ゼロにゼロを加えると
そこに何かが生まれる、っていう。その何かは人それぞれですけど、そこで得たものは大きくて
音楽の中で本音でぶつかれた事は大きくて、それが生きがいになって生きていける、という。
所詮娯楽だと言われればその通りですし
事実娯楽だとも思いますが
それが受け手に与える力は時に大きく、時にはヒントになり得て・・・そういう生き方も感じ方も悪くはない。
何もかも捨てたい、目の前の持ち物をぶちまけたいって思うのは
ある種何かを強く願う気持ちがあるからでして・・・。

それが証拠に、このアルバムには前述の形容に当てはまらない曲が2曲ほど入っています。
「まだ生きている」と「ひとりぼっちの人工衛星」。
前者はそんな自分でも
まだ感じれるものがある、受ける印象がある誰かの声も響くと
そんな残り物に歓喜するような歌で
後者は「静まれ暴力 静まれ意味のない争い」と現状からの脱却を願う曲で
それもまたリアルっていうか
空っぽの状態だったとしても、まだ捨て切れてない部分があるのがとても人間らしくて
素敵なスパイスとして効いてるとも思います。
完全に空っぽな人間なんていないけど
そうやって孤独や無意味に苛まれた時にこそ、心に強く作用するような・・・
そんな唯一無二の効能がとてもいとおしく、頼りにもなるアルバム。って事をここ最近聴いてて強く思いました。


ファンならご存知の通り、このアルバムで完成してしまった為に、事実上のラストアルバムになった訳ですが
その時のファンの反応を一通り当時チェックしてたら納得する意見が多数のように見えて
自他共に認めるゆらゆら帝国の到達点だったんだなあ・・・と
当時も今もしみじみ思います。
同時に、表現に対して妥協のない、必要以上にストイックなその姿勢にもまた
音楽とは関係のない部分ですが感銘を受けるのでした。
オルタナティヴ・ロックのファンにも是非薦めたい、薦めなくても聴くかもしれませんが
個人的にはこういう音楽の良さもあるんだよ、って風にその他大勢の音楽ファンにも薦めたいような・・・
そんな完全にキャラクターの立っている、目的をやり切れた傑作アルバムですね。
ちなみに先行シングル「美しい」は
シングルでは大きくアレンジが違っていて、アルバムオンリーの方にも是非そちらも聴いてみて欲しい所ですね。
「なんとなく夢を」も同じく。
気持ちからっぽな時には劇薬のように作用する、そんなアルバムです。「空洞です」は。





ちなみに、これの前作のアルバム「Sweet Spot」も個人的には大好きなアルバム。
以前レビューも書いたので、興味があれば是非。
Sweet Spot/ゆらゆら帝国
特に「ソフトに死んでいる」は」名曲中の名曲ですね。



ベッドフォンタウン/PaperBagLunchbox

2011-10-31 03:33:47 | 音楽(名盤レビュー)






前回は1年ぶりでしたが、今回は1ヶ月ぶりの名盤レビューです。
時を経て自分に多大な影響を与えたと思われるアルバムを紹介するコーナーであります。

今回は、PaperBagLunchboxの「ベッドフォンタウン」です。





「ついさっきまであの娘の心震わせていた別れの歌も
 あっという間に あっという間さ」 (さよなら日和)


「ふらつく夜の散歩道 
 悲しい心のそばにはいつも誰もいない」

「すべてはぼくの勝手な一人
 誰かなら笑いとばせるはずの痛み
 なんて頼りない夜なんだろうか
 
 すべて忘れるまで
 ずっとそばにいてくれたあの子はいない そんな夜はどこまでも続くよ」 (ふらつく夜の)


「嵐のようにはしゃいだあとで
 何故だか妙に切なくなるんだ」 (partyはつづく)


「さみしいだけなんてうそだろ?
 楽しいだけでもうそだろ
 結構いい顔でわらう
 部屋ではひとりで何思う」 (オレンジ)


「ぼくにも何かできることを
 ぼくにもどこかいける場所を
 確かめようとしたら
 追いかけようとしたら

 すぐに消えてしまうんだけどね」 (夜明け)





いつでも元気で、精神的に健康で
いい夢を観て・・・なんて都合のいい風には出来てない自分と世界ですから
不安定な感情に弄ばれたり
どうしようもない虚無感に襲われる事も日常茶飯事な訳ですけど・・・
そんな時には劇薬のように作用する音楽です。
こういう歌は
はっきりいって本当に孤独な立ち位置にいる人にしか歌えないし、歌っても響かない。
サウンド的には浮遊感のあるアレンジとボーカルが印象的なリラックス出来るタイプの音楽なのに
詞に関して言えば
その間逆っていうか、人間の持つ不安や絶望、悲しみやルサンチマン、孤独、そういった
ある種のうめき声っていうか軋む音っていうか・・・そういったものを振り切れるまで表現した詞になってて
当然こんなものが売れたりマニア層に浸透する訳もないんですけど
その分
きっと不安定な人間や後ろ向きな人間が聴いたら
正直中毒になる可能性はめちゃめちゃ高いと思います。
癒しって言葉を使うのもあれですけど
逆にこういう言葉がヒーリングになってる感覚もあるんですよね。触れたくない部分に触れられると
泣きそうになったり、或いは素直に泣けたり・・・勿論それを初めから狙っているようなあざとさは皆無で
むしろ自然にこういう風になっちゃうんだろうな、って
人間性が高い次元で出てるのが
とても秀逸で、最高で、好きならばずっと好きで聴いていられるくらい思い入れのある音楽です。

このアルバムって
リアルタイムで聴いて、リアルタイムで好きになったんですけど
本当に心に響くようになったのって
ある程度歳食ってからなんですよね。
若い時に聴いても
ある程度感動するかな?とは思うんですけど、実際は何度も何度も聴いたり、色々な経験を積んだりして
その延長線上で聴いてみると・・・
ちょっと泣きたくなる位心に響いてしまう。
心の中の不安定な感情を全部掬われた気持ちになる。
ていうのは、これ歌ってる人そのものが不安定だし不安定な歌声って思うし、って事で
そのあまりの本音や心情の吐き出しっぷりに感動するのではないか、と。
しかも日本語で
伝わりやすい言葉で
情感たっぷりの歌声で。
やっぱりこういう音楽は、その国の言葉で聴いた方が全然強いなあ、とは感じる。
音響を組み込んだアレンジも荘厳で柔らかさもあって、様々な観点から琴線に触れてくる
そんな至高の孤独の音楽。
幸せじゃなくても
そこに救いが無くても
とってつけたような感動が無くても
それでも感動したり、泣きそうになる音楽ってなんて素晴らしいんだろう、って。
言っちゃえば、ありのままを
ありのままに描いているだけ。それなのに、でもそれがすっごく琴線を震わしてくる、っていう。
無名だし知名度無いけど
確かにこの音楽に何度も救われて来たんだな、って最近改めて聴き込んで、そんな事を思ってしまいました。
出来るだけ深夜に一人きりで、ヘッドフォンから大きな音で聴いて欲しい、そんな作品でもあります。


一押しは全曲なんですが(なんせ名盤って評価するくらいだし)
中でも詞の密度が恐ろしく濃く、虚ろなボーカルも絶品な「ふらつく夜の」、
他人とは感性が違っても必死に想いを伝えようとする様に心打たれる「5度」、
多分この中で一番情緒不安定な「オレンジ」に、
途中の轟音が壮絶な「藍時」、
唯一テンポ早めの「夜明け」の焦燥感も快感且つ沁みる、と出色の曲は多いものの
ほぼ全ての曲がミドルテンポ、バラッドなので当然若者向けではないのですが
そんな入り口の狭さを越えるくらい
心にダイレクトに来る曲がいっぱい並んでいます。神秘性も往々にしてあるので、その意味でも
他とは毛色の違う音楽にはなってて
全体的な統一感もまた素晴らしいアルバムに仕上がっています。
もう既に解散済みで
誰も知らない知名度のバンドだとは思いますが
この作品の凄まじさは機会があれば是非、って所です。あくまで個人的な評価ですけどね。





このアルバムの影響って言えば、
やっぱりこれを聴いた事で、ますます本音を出す曲を
精神にグッと迫ってくる曲を
そんな音楽をますます好きになれたかな、って気はつくづくします。
それも個人的な感性による判断でしかないのですが、このアルバムからは本音しか感じなかったので。
それが滑稽で、でも一番美しかったとも思う。




未完成/bloodthirsty butchers

2011-10-03 17:52:46 | 音楽(名盤レビュー)






久々に名盤レビューでも。ちょうど1年ぶりですね。





今回は学生時代にめちゃくちゃ聴いたbloodthirsty butchersの「未完成」です。
タイトル含めこの作品に励まされた人は何気に多いと思います。
ブッチャーズは「kocorono」が唯一そこそこ知名度のあるアルバムで、そればっかり取り上げられますが
その他のアルバムも本当に名盤揃いで
ファンとしてはあの作品だけを神格化されるのは真っ平ゴメン、って気持ちがあります。
特にこのアルバムは完成度って点ならば最高傑作と言って差し支えない出来だと思います。
日本語ロックの金字塔だとか
そんな大げさな形容をしたくなるくらい個人的には思い入れの深い作品ですね。

このアルバムの何が凄いかって言うと
音が非常に生々しくて、演奏のダイナミズムが直に伝わってくるくらいに
その演奏能力の高さというか
レコーディング技術の高さというか
およそ3ピースの演奏とは思えないくらい一つ一つの音が逞しく、それでいて繊細。
泣きメロを歌わせたらブッチャーズの右に出るものは殆どいないんじゃないか?って思う位に
研ぎ澄まされた感覚と
そのストイックさが伝わって来る音楽です。
音楽だけに
吉村の言葉だけに集中出来るようなその感覚は
一人の音楽ファンとしては嬉しいし、頼もしいし、聴き応えも抜群です。
ドラムの音一つとっても逐一バシバシと来るくらい迫力満点で、オルタナロック
王道でもハードでもない、その中間地点が好きな人にとっては相当堪らないロックだと思うけど
その分どうしても「孤高」とか「人を寄せ付けない空気」っていう
そういう入り口の狭さも垣間見れるので
恐らく誰もが気に入る音楽にはなってないと思う
逆に言えばそこで気に入ってしまえば、多分ずっと愛聴していられるし
時を経て分かってくる部分も往々にしてあると思います。
もう10年以上くらい?聴き続けている私でも、半分くらいしか本当の意味って分かってないのかも
でもそういう部分含めて考えて聴くのも楽しいし
味わい深いし
心に深く突き刺さる音楽だとも思うし・・・有り体に傑作だな、と思えるアルバムです。


歌詞のもがいてる感が凄いというか
凄まじいというか
「どうにかして前に進んでやろう」
「どうにかして気分を晴らしてやろう」だとか
そういった前向きになろうとしてる姿勢に心打たれるといいますか
それは決して元々前向きじゃなく
後ろ向きだからこそ、そういう純粋な気持ちが痛いくらいに伝わってくるのだと思います。
っていうのは
私だって前向きな人間じゃないから
こうやって少しでも前向きになろうと足掻いている、そんな音楽が心に響かないはずもなく
ずっと噛み締めるように聴いていたくなる、私にとってはそんなアルバムです。

また未曾有のおセンチ感も相当のものでしてね
なんとなく気持ち空っぽな時に聴くと
「プールサイド」等に見られる繊細な情景描写が今の心情と相俟って
相当な度合いで
切ない気持ちを溶かしてくれるような、そんな効力があると思います。
実際溶かしてもらってる部分も大きいです。
こういう時に音楽の力ってすげえな、って直で実感しますね。
「ファウスト」「△」の人気曲は勿論のこと
「僕」の巨大なスケールで描かれる躁鬱感だったり
「灰色の雲」の圧倒的なメロディとサウンドの広がり、
「ソレダケ」の吉村秀樹の歌声はそんなセンチメンタル感覚を抜群に発揮してたり、
シングル曲以外のオーラもバリバリで
そんな「一曲も凄くない曲が無い」、っていうストイック感もきっとこのアルバムの評価を高めてるんだと思う。
一番メロディ的に泣けるのは「プールサイド」だったりと
そんな隙の無さもこのアルバムの強力な利点の一つだと思います。

でも、弱点が一つだけあります。
それは、全8曲で一時間越えっていう時間の長さですね(笑)。
最後の「△」はシングルだと短い曲なのにアルバムだと約15分の大曲になってて
こういう長丁場で魅せる作品に慣れて無いときついかもしれない
しかしそこを受け入れる事が出来たならば
このアルバムはきっと聴き手にとって大切な一枚になるんじゃないでしょうか。
精神的に落ち込んだときに何度も何度も助けられた思い出の一枚です。





このアルバムが与えた影響っていうと
きっと今のオルタナ勢(オウガ、ノベンバ)をすんなり好きになれたのって
やっぱブッチャーズの繊細なロックに触れていたのが大きかったんじゃないかって今考えると思います。
出来損ないでもいいから進んでやれってメッセージも
当時も今も強く心に残るものだと
そう感じています。




COPY/Syrup16g

2010-09-25 19:44:54 | 音楽(名盤レビュー)



「癒えない傷を負って頭は悪くなるばかり」 ((I can't) Change the world)




涼しくなったので、Syrup16gを聴いています。いや、いつものことですか?
でも秋が一番似合う気がするんだよね。
冷めてる季節だしね。

このアルバムも、もう9年前の作品なんですね。当時は学生でした。


「多分楽したいのです
 これからもしたいのです
 誰よりもしたいのです
 惜しみなくしたいのです

 世界がどうなってようと
 明日がどうなってようと
 僕は楽したいのです
 いつまでもしたいのです

 他人の事なんて知りません
 ここから逃げたいのです」 (パッチワーク)



初めて五十嵐の声を聴いたこのアルバム。
ベタですけど、「生活」からでした。 もちろん・・・某ミュージックスクエアから(笑)。
単純に言って、凄い、だとか、聴いた事ないよ、だとか
そんな感情が溢れてきて
後日直ぐに音源を取り寄せてもらったんですけど
それ聴いたら、「生活」以外にも凄いな、って思える曲がいっぱい入っててね。
それ以来自分の中で五十嵐の音楽は特別なものになり、Syrup16gは大切なバンドになり
この「COPY」というアルバムは宝物のようなアルバムになりました。

と、言いつつ最高傑作は「HELL-SEE」だと思ってるんだけど(笑)。
まあ、それを抜きにしても、このアルバムは素晴らしいって事を言いたいわけですよ。


とってもポップで、聴き心地のいいギターロック。
に、上記のような詞を乗せてしまうセンス。
そこがシロップの最も個性的な部分であり、第一に注目された部分であったと思います。
私的には
もっとみんな思ってる事素直に言えば良いのに、
って思ってただけに、こんなバンドの登場は嬉しかったし
こういう方向性の歌を、語感を重視した日本詞でやってくれた、ってのが何より嬉しかった。
 それは自分にとって一つの「音楽体験」でした。
syrup16gにとって覚醒作、とも言えるこの作品をリアルタイムで聴けた事は今でも本当に嬉しく思っています。

(関係ないけど、今だと神聖かまってちゃんなんかがこの五十嵐イズムを継いでるんじゃないかな、って思います。
「美ちなる方へ」って曲とか聴いてると。)


で、隙のないアルバムです。
どこを切ってもハイライトの連続。
一曲目から既に個々の原風景に切り込むようなノスタルジックな音楽。
そこから先は
性格の中にちょっとでも憂いがあるような人間ならば
思わず反応しすぎて、楽曲と即シンクロしてしまうレベルの音が続きます。
あまり人気はなさそうですけど
「デイパス」とか「君待ち」も相当な名曲だと思う。
また全曲レビューでも取り上げますけど、「デイパス」は冒頭のフレーズからして、言ってくれたな!という印象。
 当然「生活」「負け犬」等の代表曲群も今聴いても抜群の破壊力です。
「生活」は歌詞云々以前に、そもそもの楽曲自体が、凄く自分の理想に近い曲なんです。
適度にロック、適度にポップ、口ずさみやすい、メロディがキャッチー、そして棘もある、って事で。
ギターロックのお手本のような楽曲だと思いますね。

全曲レビューでも一回取り上げた「(I can't) Change the world」。
憂いをこんなに気持ち良く聴かせてくれるのは流石ですね。
気が付けばスッと沁みこんでく感じの。

改めて聴き込むと、「Drawn the light」がめちゃくちゃカッコいいね。
思わずギター弾きたくなるくらい。
前曲がメロウな曲って事もあり、この転換の仕方は中々にキれてると思います。

最後の構成も見事で
「パッチワーク」で一旦このアルバムが終わった感じもするんですよね。
あくまで個人的な感覚なんですけど。
一つ大きいのが弾けた、っていうか。
だからこそ、そこから更にまどろんでいくような感覚の「土曜日」も際立っています。

と、まあ全体的な流れに関して言えば、ほぼ完璧といっても差し支えない作り。
おまけに全10曲って事で、思ったより気軽に聴けるし
でも中身はむちゃくちゃ濃いし。
聴けば聴くほど深みにハマっていくし。
自身の感情とシンクロするし。
五十嵐のメロディーは美メロの宝庫だし。

こう、あらたまって聴くと、一枚目にして金字塔だとか、決定打と呼べるアルバムを作れていたんだなと。
ここからも沢山のアルバムを出すんですけど
それらは全てこのアルバムを基盤として作られてるような、そんな気がして。
このアルバムを発展させました、みたいな。
そういう意味じゃ、やっぱり最も入門編にふさわしいのはこれじゃないか、って今現在改めて思う次第であります。


見たくもない現実を叩きつけられるかのような音楽ですけど
そこに嘘は一切ない・・・
ってか最近の五十嵐の動向見てると、皮肉にもますますリアリティを増してるようにも思えますけど(笑)
すっごく潔良い本音が聴けるアルバムだと思います。
9年経った今でも頭の中でよく鳴ってるアルバムです。それくらい、個人的には思い入れの深いアルバムですね。

なんかねー、最近またSyrup16gの作品の再発があるそうじゃないですかー?
って事と、久々の名盤レビューって事で。
正直相当影響されたアルバムです。
人生において、ね。




「時計壊れた 後の責任は放棄
 すべては
 ほら
 もう劣化されない」


思わず海に飛び込みたくなる。




Audity

2010-01-28 21:49:38 | 音楽(名盤レビュー)


昔の名盤と思えるアルバムを聴いていると
たまに「なんでこれが不発?」と少々疑問を持ちながら聴いてしまうことがあるのだが
Stereo Fabrication of youthの「Audity」は正にそういう作品である。
評価されるべきとか、認知されるべきとかそういう以前に
「あれっ、こういうのって普通に売れるタイプの音楽でしょ?」と思ってしまう、
日本のロック好きなら結構反応頻度高いだろうなあと思える音だっただけに
リアルタイムで聴いてた時はどうして売れないのかが不思議でありませんでした。
ってか今でもそう思うなあ。
逆に何がいけなかったんだろうな。


今って割と正統派のギターロックバンドが減少の一歩を辿っていて、割と変化球的なバンドや
ルーツミュージック的なバンドの音楽のが受けると思うんだけど、
そして自分もそういうバンドのが確かに勢いあるなーとか思ったりするんだけど
このアルバムを聴くと「ギターロックだって全然いけるじゃん」と感じれます。
 と、いってももう約7年前の作品で、しかもボーカル以外全員脱退してるんですけどね・・・。ダメじゃん。
残った一人もプロデュース業に専念しちゃってて、今や何がどうなってるのかも分かんない状態で。
一応解散はしてないみたいなんだけど、これからどうなるんだろうか。ってか実質ソロユニットだよなあ。


話が逸れましたがこのアルバムはメロディの作りと全体の構成の仕方がとても良くて、
勢いに満ちたギターロックから日本らしいミドルバラッド、そしてポスト・ロックの要素を感じさせる曲、
アングラっぽい尖った作りの曲まであって、とにかくよりどりみどりな作品で。
非常に器用なんですよね。バンド全体が。
 それ故に逆にどこがどう良いとか、ここが特徴的で~とかいう部分は正直語りづらいんだけど
まあ取り合えず聴けば分かるさ!と、
手放しで云えるくらいのソングライティングは余裕で出来ているアルバムだと思います。
どの曲もロックでありながらポップ、ポップでありながらロックと、
ポップさとロック色のバランス感覚がとっても良いんですよね。
どこを取っても気持ちが良い、というか。

個人的にはNUMBER GIRLとMr.Childrenを合体させたらこういうアルバムが出来るのかなあ?という印象も。

中でも好きなのは冒頭のギターロック3曲ですかね。
どの曲もパートごとにツボだったりクセになる部分がきちんとあって、単なる王道で終わってないのがミソです。
だけど王道的な気持ち良さもしっかりとあるし。
ドラムとかも何気にすごく上手いんですよね。バシッと決めてくれるから、聴き手としても気持ちよく乗れる。
 「1979」は日本のギターロックの名曲の一つ、と云ってもいいくらい振り切れてガツンと来る曲だと思っています。
マジでいいんですよ。

その他にはめちゃくちゃ切れ味が鋭い攻撃的ロックナンバー「妄想」と
オシャレな音作りと歌謡性の同居が面白い「異常な朝」って曲が一押しですかね。
 最後の「Everything goes around us」なんかは、90年代のJ-POPを上手い具合にギターロックに変換して鳴らしている感じが非常にツボで堪らないです。

そういう曲もありつつ、ひたすらにベタベタな「春夏秋冬」みたいな曲もあったり。こういうのも面白いポイント。



正直な話、Stereo Fabrication of youthって音楽的にはすっごく器用なのに、
世の中へと売り出していく部分に関しては逆に不器用だったというか、
あんまり恵まれないバンドだったな・・・。と今になっては思います。
だけれど、こうして残ってる音を聴くとやっぱり良いもんは良いなあって思うんですよね。
このままこの作品やバンドが埋もれていくのは惜しい気がする。
だからこそ、ソロユニットでも良いからまた活動再開して欲しいとか思ってしまいますね。
 ちなみにこの作品の後にも「ユリイカ」とか「sunrise」、「シリウス」等良い曲沢山発表してるんですよね。
これ以前の「戦場の遠距離恋愛」も名曲だし。
なんとかならないもんだろうか。



と、いう訳で久々の名盤レビューでした。 このシリーズも不定期ですが続けていきますよ。