中年の2年ぶりの単行本が発売されまして、先週からそれをずっと読んでいます。
ずっと読んでいても全然飽きないクオリティ。
と、空気感、雰囲気の良さ。
それに加えて、今作ではある重大な事実、というか告白が巻末にあって、
それもこの作品をますます鮮明な、
忘れられない作品として頭に刻み付けられるようなものにしていると思うんですけど
でもそれってある意味失礼な見方だと思うので
あくまで一つの傑作選として読んだ方が作者にとっても全然良いだろう、と。今はそう思いつつ読んでます。
てか、そんなもんに頼らなくても素晴らしい作品ですからね。
個人的にはかつての田中ユタカの、作者の思いがそのまま作品に反映されているような
そこまでのカタルシスを感じただけにコンスタントに発表出来なくなってしまう、
ってのは非常に残念ではありますが・・・。
それについては後ほどちょっと。
で、前置き長くなりましたけれど
今回は発売を記念して全作品レビューです。
どの作品も個性的なものばっかなんで書くのが楽しいですね(笑)。
ちなみに成年漫画なんで年齢とか苦手とか注意。
では以下。
■田舎に泊まろう!
タイトル通り、田舎娘をフィーチャーした話。
方言による可愛さの演出が素晴らしいのは当然なんですけど
親戚一同が集まってガヤガヤやってる感じが非常にリアルで面白いです。
ちょっと昔を思い出す感じですか。
これに限らず中年はノスタルジックな要素の演出に長けているような気がします。
んで口が悪いのも往々にして良い感じですね(笑)。
「都会人めー」とか「今さら来られてもわしが願い下げじゃい!!」等個人的にツボに来るフレーズ沢山
口ではそういってても・・・ってのもお約束ですが、描き方が良いので気持ち良く読めます。
しかしコタツで体操服ってセンスは改めて凄いなあ。
言葉とか雰囲気はいなたい印象がある茜ですが、時折見せるビックリする位色っぽい表情が素敵です。
それでいて和くん大胆すぎ(笑)。
煩悩払い落しをそのまま実行するとか、普通思いつかない、ついてもやってないよなあ。
当人たちにとっては一生記憶に残るような会合になったのでは。
ちなみに表紙と口絵カラーも飾っております。
何気に藍さんもドSだな! 「入りまーす」じゃあねえだろ。
■ゴッドオネイチャン
これもドSの姉が登場、しかもメイン。
こういう記号的な設定の作品を敢えて避けてきた中年だけに
リアルタイムで読んだ時は少々安易過ぎないかい?とちょっと思ってしまったんですが
今読むとああ、これもちゃんとひねくれてるなっていうか
それでいてドラマチックさもちゃんとあるな、っていうか。
あとタイトルも嫌だったんですけど、流石に2年も経つと、そんなに。
しかし何だかんだいってずっと尻に敷かれそう、弟くん。
アイス買出しのところは流石に酷い(笑)。
でも本人が幸せって事はやっぱり本当は受け体質なんだろうなあ。総合的に。
■おまえにチェックアウト
今作の中で最も写実的な一作。
中年お得意のモノローグによる盛り立ても功を奏していて、冒頭の部分からグッと来ますね。
なんか、こういう思春期の感じ、良いじゃないですか。
それでいてすっごくウブ。
個人的にはそこに至るまでの過程が一番好きです。
愛の化身になったような本筋もとろけるような出来ですけど。
「幸せを貪る」って表現がものすごく好きです。
納得、って感じで。
男も女も偉い。
でもオチは正直笑ってしまいました。
「一時間たってまだやってたら突入する」って・・・(笑)。バレバレやん。
「70時間に及ぶ~」ってのも考えなくても凄すぎ、って思う。
これも一生記憶に残るでしょう。
■うしろのメガネ太郎
なんでしょう、この作品だけヒロインの描き方が違う気がする。
タッチからして違うというか・・・。いつもよりも少女チック?
で、それがこのヒロインに対してはとっても効果的というか、高貴な感じを上手く出せていて
こういうタッチで良かったな、と思うようなものになっています。
それでストーリーも非常に良いんですよ。
不釣合いな恋人の話なんですけど、その不釣合い感とかギクシャクしてる感の描写が上手くて。
素晴らしい機微だと思いますよ、これは。
オチもこれまた良く出来ていて読後の気分はとてもスッキリとしたものでした。
こういう話を一般向けで連載してたらまた違った評価だったかもしれませんね。
それにしてもヒロインのまどかの表情は本気で可愛いものばかりですね。
「本気にさせてあげる~」は勿論、チョコを渡す時の表情も絶妙。
最も素晴らしいのは「高田ー・・・」のシーンですね。
よくこんな表情描けたと思う。
表情だけで全てが伝わってくる。どうやったらこんなん描けるんだろ。他で見た事ないもの。
凄い。
■二人は進行中
田中ユタカの傑作と比べても何一つ見劣りしないレベルの傑作。
そこまで派手ではないんですけど
この一作の中に自分が成年漫画に望むものが全て入っています。
愛情はもちろん、意外性、雰囲気、印象に残るシーンの描写、オチの付け方、流れ等。
ある意味お手本のような一作・・・ってちょっと絶賛しすぎでしょうか。
とにかくこいつは間違いなく傑作だと思います。
キャラの素晴らしさもありつつの。
とにかく今ならクーデレ、って言うんでしょうか、あやの表情があまりにツボ過ぎるんですけど
一つ一つの表情が丁寧に描かれていて、読む方としても感情移入しやすい、みたいなところもあって
特に「全部・・・たかゆき」のシーンは初見で思わず感動してしまいました。
そりゃあしこたま喜ぶべさ。こんなん云われたら。
だけど、このシーンすら超える描写が後々ありまして、
それは当然彼女が自ら動くシーンなんですけど。
凄く恥ずかしいし、バカだとは思うんですけど、ここ見ててちょっと泣きそうになってしまったんですよね。
お互いの思いやりって言うんですかね?それが直に伝わってきて・・・。
本当は苦しいだろうに、っていう。
オチも含めて、これはちょっと自分の理想に近すぎますね。
今この作品が改めて発表されるってのは大きいと思いますよ。純愛系好きな方には是非って言いたい傑作です。
私的には。
■うさぎとくま
これもまた凄まじい作品。
中年の特徴の一つとして「明らかに他にはいないキャラ、出来ないキャラをメインとして出す」ってのが
個人的にあると思ってるんですけど、この作品は正にそれを地でいっています。
正確には、全く新しいって事はないと思うんですけど
そう思わせてしまうだけの新鮮さと描写力の高さがあると思うんですよね。
端的に言うと面白いキャラを作るのが非常に上手い。
みすずなんて見覚えなさすぎてビックリしましたからね(笑)。
ここまでぶっとんでるのに、可愛いと思えちゃうところがまた凄い。
でも、「あそび」って言い方・・・というか、それをあそびって言っちゃうセンスっていうか
それは微妙に引くレベルなんですけど
どうやったらこんな関係が出来上がってしまったんでしょうか。
この話、もっと掘り下げて書いたら絶対に楽しくなりそう。
曖昧に描いててもすっごく楽しいですし。
なんとなく前作の「こまこ」を彷彿とさせるキャラですね。こっちのが多少考えあるかな(笑)。
にしてもアプローチのレベル高すぎ!
ところどころマジで反則級って言いたいくらい攻めまくってますからねえ・・・。
そんな中で「じゃあ去年はみすずの事だけで頭いっぱいになって~」の部分で不意に感動したり
最後の「永久しゅうしょく」を見て泣きそうになってしまったりも。
ここのセンスを突き詰めていっても面白かったかもしれませんね。復帰後でもいいから。
■覚悟のスズメ
「二人は進行中」と並んで、今巻随一の傑作です。
この作品はそこまで漫画として優れている訳ではないと思うんですけど、
それでも全体的に流れる優しい雰囲気がとても好きで、
ヒロインの素朴な可愛さもとにかく目を引きます。
それでいてギャグの部分でもツボを突く場面多し、一作品で色々とオイシイ作品に仕上がっていると思います。
タイトルはあからさまにパロディですけど(笑)。
とにかくヒロインのスズメがひたすらに健気で、見てて良い気分になれますね。
それと同時にすっごく滑稽でもあるんですけど
それも含めて良い、って印象です。
寝顔とかすげえ可愛いもんなあ。
徐々にクラスメイトと打ち解ける描写もかなり好き。
ただ、あれで寝てるってのは明らかに無理ありすぎ!実際にああだったら確実に相談レベルですよ。
それで、この作品は読切として完全に完結している部分も好きですね。
キレイにオチついたな、っていうか。
それでもまたこの二人の描写見たいですけどね。
頑張れスズメちゃん。
■よろしくジャンバラヤ
あまりにも有り得ねー(笑)。
や、過程の部分は全然アリなんですけど
部屋でパニックの部分は正直どうなのよ!?って思ったんですが
初めて読んだ時思わず爆笑してしまったので良し、とします。
しかし地味系?と思いきや何気にすごく可愛いですよね、このヒロイン。
顔が見えない状態のデフォルメ姿も良いんですけど
時々除かせる素顔が、また良い具合に恥ずかしそうで面白可愛いです。
絶対性格と言動が問題で
それがなきゃ普通にモテてたんだろうなあ。惜しい人材ですな。
にしても妄想癖はいかにも、って感じですね。
突発的なプロポーズからの一連の流れは良く出来てると思いました。
こういうコメディに特化した作品でも
きちんといいシーン作れるのは流石ですね。
上手くいって欲しいなー、って思います。素直に。
■美化委員長
これもまた傑作ですね・・・。
思いの誠実さが上手く伝わってきます。
最初の内で潔癖症を散々アピールしたからこそ
後々のシーンの数々にグッと来るんでしょうね。
こういう風紀委員的なものって散々見てきてるのに
それでも新鮮な気持ちで読めるのは、やはりネームと人物描写の巧みさ、そして表情。
基本的な部分からして水準以上なので
ベタな話を描いても十分水準以上になる訳ですね。
てかこの作品収録してくれて本当嬉しいわ。
ヒロインが「Angel Beats!」のゆりっぺに似てる、という事である意味タイムリーでもあるかも(笑)。
結局また表情の話になっちゃうんですけど
キスシーンの時の「筒井・・・」とか
「ここ」のシーンとか
最後の「だーめ」のシーンとか、印象に残る表情がやたら多いです。
こっちの美化が~って上手い事言ったつもりか!(笑)
ついでに1ページ目で「ジャンバラヤ」のヒロインがモブとして追加。
こういうサービス嬉しい。
■屋上×欲情×お嬢様
本当お嬢様好きだねえ(笑)。
この話は今作の中だと一番普通といっちゃ普通って感じの話かな。
とはいえ、中年はそもそものネーム力が高いと思うので
その普通でも、きちんと楽しく読めちゃうんですけどね。
しかしお嬢様、あまりにもキャラ変わりすぎ(笑)。最初車で轢いたくせにっ!ずるい。
■8月15日
以前単体で記述→http://blog.goo.ne.jp/nijigen-complex/e/cb22ecce754c5ad2d12525bcd0cb3247
改めて書くと、
何気にヒロイン目線なのが珍しいなあ、とか
そういえば中年のヒロインでスポーツ系あんまいなかったな、とか。
それでいてコスプレネタで怪獣とかロボとかを持ってくるのがあまりにもひねくれすぎ(笑)。
気づいてみればこれ以上ないくらい中年らしい話ですね。
後裏表紙の漫画、ちょっとふざけすぎ!
やっぱ主人公が苦労するパターンなんだ。
■伊藤さん
初めて見た時はこれ問題作じゃないか?とか
ここまで振り切ってると逆に辛いかも・・・とか思ったんですけど
改めて読むとこれはこれでアリ。
これはこれで、どころか、むしろ新しいとこ行ってるような感覚にもなりますね。
作画の安定してなさがいささか惜しいですが、
それでもやっぱ伊藤さんの存在は可愛くて面白くて、怖いです(笑)。
極道と教師ものを一遍にやって、どっちつかずになってないところとか、相変わらず上手いなあって思う。
何気に構成力上がってるような。
見慣れた今となってはこの作品も他と同様に大好きな作品になりました。
ちゃんと愛があって、
そこが一番素晴らしいと思います。
とはいえアナログの中年ジャンキーの方はちょっと考慮した方が良いとは思いますけど。
あくまで個人的な感想なので。
えーさて、いつも以上に長ったらしい記事になってしまいましたが
もし最後まで読んでくれた方がいたら本当にありがとうございます。
でもここから更にちょっとした総括に入ります。
ジャンク的なタイトル、作者名、表紙とは裏腹に
末永く読んでいけるような、
自分の中で絶対的である田中ユタカ作品にも負けないくらいの読み応えを感じた今作。
それ故に、
あとがきで書かれてる内容が非常に悔しかったりするんですが。残念といいますか。
田中ユタカがこういう短編集を出さなくなった今、
中年に懸ける期待ってのは個人的に大きかった訳ですけれど
多分これ一番残念なのは本人だろうから
あまりファンとしてごちゃごちゃ言えないなというか、受け入れるしかないというか。
やっぱり「こういう作品を描けるのはこの人しかいない!」って作家が抜けるのは至極残念な事ですし
単純に替えが効かないので
色々と思うところもあるんですけど、
でもよくよく読めばそういう記述ばかりでもありませんからね。
ちゃんと「先」を見据えた記述も用意してくれてます。
過去の未収録作品も絶対出す!とのことですし。
自分は中年の一旦抜ける、という事実こそ受け入れますが
これで終わり、っていう展望に関しては受け入れる気はありません。
それは事実ではないですしね。
だからこそ、中年の言葉を信じて再起を待ち続けます。それこそ何年掛かっても。
多分熱心な中年ジャンキーならみんな待つのではないかな。
ファンはきっと待ってる。
だから、これからも応援、支持して行くことに迷いはないですね。
彼のことを忘れないように、たまに中年の漫画のことについても書いていこうと思います。
このまま消えていい作家ではありませんから。
ま、中年ジャンキーの方がこのブログを見てるか、って言えば微妙ではありますけどね(笑)。
それでもやっぱ、好きなんで。
こちらこそまた会える日を楽しみにしてますよ。って事で〆。一旦はお疲れさまでした。
・・・ちなみにこの記事、発売日からずっと構想してて
ようやく今仕上げる事が出来ました。えらい時間掛かった。そして文字数多すぎて本当ごめんなさい。