超進化アンチテーゼ

悲しい夜の向こう側へ

Syrup16g全曲レビューその53「ex.人間 」

2012-05-10 11:01:50 | Syrup16g全曲レビュー






Syrup16g全曲レビュー、その53「ex.人間」です。







ex.人間                アルバム「HELL-SEE」収録






大名盤「HELL-SEE」を代表するミディアムバラッド。歌声の求心力も声の伸びも素晴らしい一曲ですが
そこまでドラマチックな感触はなく、むしろ日常を淡々と歌っている
その日常こそが大切だと歌っている、そんな感触が私の中ではある一曲なんですが
なぜ日常が大切なのか?っていったら
何も出来ない無力な人間だから、誰かを救う力なんてないから、静かに日々を生きよう、っていう
そういうシビアな面から紡ぎだされている日常ソングで。
自分で自分の精神をダメにする意味なんてない
それよりは、美味しいお店を見つけたり、些細な幸せを探したり
結局はそこに行き着くしかないって歌われてるような現実性があるのと同時に
自分の幸せを追求するのに何の躊躇いも言い訳も必要ないって歌ってくれてるような曲でもあって。

生きてると過去の嫌な経験だったり長いサブリミナルで捻じ曲げられた心だったりで
いつの間にか純粋に生きれなくなり、自ら精神を病む事も大概ですが
そんな彼や彼女らに向けて
身体の中に挿れてしんどく生きてるような人々に向けて
シビアにも、優しくも歌いかける渾身の名バラッド、そんなシンガーとしての逞しさと
きれいごとの一切ない詞世界にこの楽曲自身を信じてみたくなるようにも素直に感じれるような。
そんな心の奥の燻ってる気持ちを溶かして昇華させてくれる確かな名曲の一つです。
高校生の時この曲にすっごくハマってる時期があって
狂ったように聴いてたのを思い出しますが
人間は醜い云々と言われてるのに対して、醜くても生きても良いんだってメッセージ性も感じられる真摯で
本当に大切に聴いていきていきたい楽曲の一つにもなっていて。有り体な表現ですが
五十嵐隆の魂が実直に楽曲に反映されてるって思える
そんな曲の一つではあるかと。その放出に心掴まれる一曲です。






【道だって答えます 親切な人間です
 でも遠くで人が死んでも気にしないです】

このフレーズ以上に正直なフレーズなんて数えるほどしかないと思う。
ここまで嘘偽りない本音が出てると安心するのと同時に
誰もがきれいごとや偽善を使う中で
こういう本音の本音をダイレクトに歌にして出せる勇気は凄いなあ、と。

実際誰もがそうだと思うんですよ。
ぶっちゃけ一番大事なのは自分の身で
はっきりいっちゃえば名も知らぬ誰かが息絶えても
気にする必要性はないし、というよりも何も感じないのがある意味真理だとは思うんですよね。
それに対して罪悪感を受ける繊細な心があるからこそこういう詞を書くんだと思うけど
そこで重要なのは自分の感じなさや薄情な部分を嘆くのではなく
だからこそ自分はちゃんと楽しんで生きた方が
幸せを追求して生きていった方が
それがある意味誰かの悲劇で受け取った、受け取れた「何か」の証になるんじゃないか、だとか。
そして、感じるとしたら結局そんなものでしかないんだけど
それを否定してるようで肯定しているのがこの曲の肝だとも思う訳で。
この曲もまた素直に生きる為に、下らない人間のまま生きる為に、前に進む為の曲にちゃんとなっていて
そんなシリアスさと共に、周りの誰かにちょっと優しくなるような気持ちだったり
要するに八方美人や建前に対してのアンチテーゼにもなってるような。
そういう雰囲気も感じられる本気で聴き手の人生に作用してくれるような真剣さが宿っています。

去年の震災で大勢の人が亡くなって悲しいムードに包まれてる中で
さて周りの人間が気にする事といったら番組の中止だ延期だとかそんな話題ばっかが目に付いて
正直な話「結局は大勢の死よりも自分の幸せの方が大切なんだなあ」とか
そういう風にも感じた自分も居た訳ですけれど。
でも、それも一つの真理で
誰がどうなろうが知っちゃこっちゃないっていうのを去年間近に感じられたからこそ
この曲の説得力も上がっているっていうのは皮肉な話ではありますけど
でも、言ってしまえばそれもまた正解ですから。誰も間違ってないし、そこに悪意なんて決してないから。
そこまで自分の心を犠牲にする必要もなく、



【少し何か入れないと 体に障ると彼女は言った
 今度来る時電話して 美味しいお蕎麦屋さん見つけたから】

本当に大事なのは、自分の周りを気にする些細な気持ちだったり
そこから生まれるいたわりの気持ちだったり
散々捻じ曲がって挫折を繰り返しても、まだ自分の幸せや楽しさ、人生を諦めない気持ちだったり
偽善や体裁よりも、もっと大切なものや大事にするべきものは身の回りにあって。
聖人になれなくても、八方美人になれなくても、真顔で嘘を付く仮面を被らなくても良い
本当に大事なのはそんなものじゃないんだって
もっと別のものだよって
そうやって教えてくれてるような、間接的に伝わるような。正に聴き手に解放を与える一曲というイメージで
未だに一つの大きなビッグ・バラッドとして自分の心の中に居座っている大切な名曲の一つです。
きっとこれからも何度も感化されて何度も沁みて入ってくる曲なんだと確信してます。







【これは僕の作品です 愛すべき作品です
 誰に何を言われても 恐いものなどありません】

今も昔も「個」の存在を許さずに
誰もが共通の価値観に誰かを当て嵌めたがる世の中だと感じます
そんな時に堂々と「個」である事を主張してる、この曲には結構に勇気を貰ったりします。
とてもとても大好きな曲です。個人的に。