田中ユタカの新刊「好きでいっぱい」読了。
私は昔から田中ユタカさんの漫画が大好きで・・・
彼の漫画を集める事が何よりも至福でしたし今まで出された作品群を眺めてるだけでもニヤニヤしてきます
そこに新しく加わるこの作品は形式といいタイトルといいなんだか90年代の短編集を彷彿させるようで
そこが往年のファンとしてはまず嬉しかったりするんですが、今回も漏れずに傑作ですね。
微妙に「好きなんだってば」に近いタイトルなような気もします。
この新刊は携帯コミックで発表された作品群を一挙に紙の本としてまとめたものです
個人的に紙で読む方が好きな上にようやく単行本化された、って事で喜びもひとしおですね
ちなみに携帯コミック用と言っても特に紙で読んでも不都合はないので
その辺は心配せず自分と同じような往年のファンの方にはじっくりと作中観に浸ってもらいたいです
田中ユタカ王道の少年少女の機微を描いた作品からちょっと大人層に向けた作品、
各々のプレイに於ける意義と心証を描いた作品まで結構幅広い内容でバランス良く楽しめると思います
昔ながらの純愛ものから近年培われた深い愛情を感じる感動出来る漫画まで新旧のエッセンスがてんこもりです。
それにしても田中ユタカ作品は今も昔も真っ直ぐに性愛の素晴らしさ、尊さを信じ切っていて
読んでいると成年漫画とは思えぬ「爽やかさ」とか「潔さ」を感じられるのがとてもお気に入りです
逆に言えばそういう行為に対して後ろめたさなんて本来不要なものですからね
その意味では正し過ぎるくらいに正しい漫画を今回も描いています
そこが大好きです
読んでいて心が浄化される感覚
太陽に照らされて心がポカポカと温かくなる感覚・・・を
全編通して味わえると思います こういう感覚は間違いなく田中ユタカさんの漫画から得たものであり
成年漫画自体を見つめなおすきっかけ、入口になった事を読んでいて思い出しました
成年漫画「でしか」出来ない表現を描きつつ普遍的な感情も同時に表現出来る、というジャンル自体のタフさ
それが今作でも遺憾なく発揮されてるので古参でも新規でも関係なく手にとって感じてもらいたいです
個人的にはこの新刊を読んで
「多分この先いくつになっても田中ユタカの作品を読み続けるんだろうなあ・・・」と
素直に思えて、そう思えた事がファンとしても一番嬉しかった、そんな変わらない良さと
今だからこその表現が織り交ぜになっているずっと愛せる類の作品集だと感じ取らせてもらいました
酸いも甘いも純愛もコメディもプレイの意義も感動も官能もいっぱい詰まっている極上の作品群。
これを読めて良かった。とスッと思えたのが今回も凄くよかったですね。
まだまだ田中ユタカの存在感と力量は健在だと思います。
■真夏の果実
これこそユタカ先生の王道ですな(笑
読んでてこしょばゆくなっちゃうくらいの純愛っぷりに拍手
ちょっと大胆な格好にドキドキするのは今も昔も男子の特権ですな。
最後の幸せそうな表情がまたいい。
■ランチタイムの恋人
「トラウマひとつ あっさり消えた」って表現には流石のものを感じます
これは結構年を重ねた二人の物語ですけど、
そんな二人がまるで少年少女みたいに初々しくて情熱的な恋愛を繰り広げてる様にグッと来ますね
でも色気に関しては確かに大人の色気に仕上がってる部分を含めてやはり大人ものの良さが滲んでます。
オチも本当に胸が温かくなってニヤニヤしちゃいますねー(笑
でも多分20代後半か30代前半辺りだろうから「爆発しろ」とは言いません。
むしろそのまま幸せになって欲しいです。本作でも凄く好きな作品。
こういう言葉にせずともキャラのバックボーンが伝わって来る漫画が上手いですね。やっぱ。
■素肌の休日
「裸メガネってすごく萌える」
「バカ・・・」
ちょっと女性読者意識してるようなシーンが新鮮でした(笑
でも確かに可愛いな。変な意味じゃなくて。女性の目から見た男性の可愛さというか。
内容もずっと愛し合いたい女性の可愛いわがままが如実に出てて幸せな出来栄えになってます。
最後の涙目になりながら満足気に微笑むフミカの表情が堪らなかった、と同時に
言葉でなく表情で語る表現技法にもまた痺れさせてもらいました。
ずっと二人はラブラブだ!
■好きのあそび
ありそうでなかった束縛もの。
でも、田中ユタカが描くとラブラブを演出する為の小道具と化すっていう(笑
しかしこれはマンネリ打破に効きそうですな。
■しあわせの胸
とにかく「胸」に焦点を当てて掘り下げた意欲作
大きな胸に興味ない振りをする丈くんが滑稽で可愛い(笑
正直男なら無条件降伏が基本だと思うんですが・・・よく頑張った。
「たっぷりあってよかったって思う!!」
自分の胸で男を何度でも幸せに出来る喜び、、、という
これまた誰かが描いてそうで描いてなかった印象の着地点を描ける田中ユタカはやっぱり凄いと思う。
ある種カップルの理想形だよな~、と思いつつ女の子で男子が何度も復活出来るのもまた真理でしょうな。
「生きちゃおうね」ってセリフがあまりに素敵過ぎる。
■好きの方法
これもヤバいなあ(笑
Fのテクニックのページに付箋してるのを偶然見つけて・・・っていう
限りなくコメディちっくで修羅場から始まってんのに容赦なくラブラブモードに入れるスゴさよ。
感じてないわけじゃなく、照れていただけ、という心情がいかにもウブでいいですね。
今作は「男のいじらしさ」に関しても描かれてるので女性にも薦めたい。
本気でニヤニヤ出来る。
「ただただ いっぱいの 好き」
■愛を待つ
これは大人もの、であると同時に他とは毛色が違いますね
限りなくネガティブなモードから始まるこれはこれで「らしい」とも思える作品
正直敗れた時の無力感はかなり伝わって来て感情移入してしまいましたが
そんな彼女が最後には笑顔でベッドの中にいるのを観て「ああ、良かった」とも思えました
必要とされなかった人は、また別の誰かに必要とされている・・・という事を描いているようにも。
■「好き」
人間何でも理屈で考えてると結果的には損するだけだよね、って話に思える
そんな事をうだうだ考えるんだったら理屈を振り払って真っ直ぐに飛び込んだ方が良い。
ちなみにこれは男性のがスペックが高いですね。確かに笑顔がステキだ。
普段真剣な表情が多い分行為の時の「熱さ」にグッと来た。
人間らしい。
■おクチでLOVE
Fという行為をここまで神聖に描ける作家はユタカ先生以外にいないのでは?
本当にその行為自体が神々しいもののように思える演出力が凄まじい。
その表現力に純粋に感動してしまった作品。
セリフ回しにも脂が乗っているのを感じます。もう約20年のキャリアを持つベテランなのに(笑
本当に面白いものなあ・・・。
うーんそれにしても「純愛」そのものだ。疑いようもなく。
■恋するふたり
これは物凄く90年代作品の匂いがします
こういう作品を今でも描けるんだ!ってのがまずファンとして嬉しかった
いじらしい女の子と勇気を出す男の子っていう構図は往年のユタカ作品を彷彿とさせますね
接していく内に出すべき「勇気」の種類が変わっていく~というテーマ性が実に良い。グッと来ます。
こういう限りなく初々しさを追求してるようなユタカ作品が大好きだった。
昔から、そして今も・・・。大切な一作。
■恋人のキス
言葉にならないからこそ、何度でも何度でも、っていう
正に最後には相応しい総括的な意味合いを持つ作品
今作では胸、クチ(F)、キスに焦点を当てた作品があったりして
最後のあとがき通り本当に新人に戻ったかのような初々しさが存在してるのが素晴らしいと思います
内容も実に根源的なものが多くこの作品もまた一つの理想形、って感じもしますね
今回も本当に素晴らしい作品をありがとうございました。心からの言葉。
もうタイトルと形式、表紙からして「あの頃」の作品と地続きな感覚もあって
田中ユタカ作品の大ファンとしては非常に堪らない一冊でした
きっとこの先もずっと私はユタカ先生のファンで居続けると思います。そう確信出来た一冊。大好きです。
特にお気に入りは「ランチタイムの恋人」「素肌の休日」「しあわせの胸」「好きの方法」
「愛を待つ」「おクチでLOVE」「恋するふたり」あたりでしょうか でも、全部好きですね。
田中ユタカ「初愛3~はつあい~」読了。
田中ユタカさんは昔から憧れの作家さんです
憧れというか、様々な思想やキャラの生き方に影響を受けてきた感覚が私の中ではありますし
どの時代のどのキャラクターも昔も今も自分の中でしっかりと息づいています
それは田中さんが過去作の後書きで語っていた「戦車に踏み潰されても殺されないもの」の一つであり
ピストルを突き付けられても「YES」と答えられるくらいに強い強い感情であります
完全に影響を受け切っています
私はネット上でこういう風に作品のレビュー・応援をするのが好きな人間なんですが
いつも消えないくらい強い想いを、手前の永遠の感情を吐き出せるように、と思いながら書いてます
それは間違いなく田中ユタカ作品を読んで影響を受けたことで更に膨らみ強くなった感情です
人生に於ける様々なポイントで田中さんの漫画の台詞が浮かんでくるくらい好きです
どこまでも誠実で、無駄な達観がなくて、目の前の「好き」に無我夢中で。
そういう他者に対して「誠実であろうとする気持ち」がこの3巻にはたくさん詰まってるんですね。
お互いがお互いを強く想い合い、不安や恥じらいをものともせず「二人の幸せ」に邁進していく
成年漫画の場合「苦手な人は~」って前置きをたまに付けるんですが
正直この作品にはそういう文句は似合いませんね
というか、出来れば偏見とか捨てて素直に読んで感動してもらいたいくらいに心洗われる作品集になってます
大人になって失ってしまった初めての気持ちや誠実な感情の気持ち良さを再び取り戻せるような作品たち
「行為」そのものを深く掘り下げている方向性は独自性に溢れている上に原始的な良さがあります
もはや漫画というか、「田中ユタカ」っていうジャンルのようにも個人的には思えるくらい。
自然と襟元を正したくなるような純然たる愛情の結晶、
「誰かを想う」ということは掛け値なく素晴らしく豊かなことだと信じ切っているような姿勢に感銘を受けました
登場人物たちの「好き」って感情がこれ以上ないくらい強い形で伝わって来る作劇に何度も感動出来る
今回もまた珠玉の作品集に仕上がってるなと私的には感じましたね。色々と涙線に来ました。
全話レビューします。
■第1章 初愛しようよ
特別な間柄ではない
所謂幼馴染でも同級生でもない、運命の出会いでもない
とてもありふれていて普通の二人
でも、そんなありふれている境遇がどうでも良くなるくらいにそこには「好き」が溢れている
ドラマチックさや運命に負けないくらいに人は理屈じゃない幸せを感じる事が出来る、という好例ですね
相手がイケメンだとか凄い金持ちだとかそういう打算に負けない誠実で無償の愛情表現が大好きです
誰だって、普遍的だって、とてつもない幸せや豊かさを感じる事は出来るものなんだ
そういう事実が描かれているような気がしてとても好きな短編です
指で、口で、身体で「心」を相手に伝える~っていう表現もいいなあ、と思いますね
普段は見えないものだけど実は形にする事だって出来るんだ、という。
あとこの作品は二人とも多少はしゃいでる風に見えるんですが
その初々しさ、限りなく幸せな香りもまた読んでいて楽しかったですね
ラストの表情もまた美しくて、可愛いです。
■第2章 こわくない
あかりちゃん可愛いなあ・・・っていうのが第1印象ですね
あんまり田中ユタカ作品では見ないタイプというか新鮮な感じです
田中ユタカさんはキャリアはかなり長いですが未だに絵柄が古くなってません
それは常に研鑽を重ねてるからなんだろうなあ、とか思いつつ
あかりちゃんが可愛い以上に
あかりちゃんを宝物のように思うシロくんの気持ちに個人的には心打たれました
行為中の描写からも「いたわり」や「気遣い」がしっかりと伝わって来るのがいいですね
おまけにされてるだけじゃなくあかりちゃんからも求めて一緒にひとつになる感覚も良かったです
彼女も彼女で成長してるんだなあ、って感じがして。
シロくんのドキンドキンを受け止めてる時の表情がまた色っぽくてイイですね。情感たっぷり。
■第3章 ジャージな彼女
これ個人的にすごく好きです
男からみた女子というものが端的に描かれてるなあ、と
そして確かにジャージ姿もこれはこれでちんまりしてて可愛いんですよね
主人公が落ち込みながらキスとかしない~って語った後のせわしない反応が良かった。
決して記号ではない作中で生きているキャラクターがそこにいるような感覚が好き
「バカ者」ってセリフも印象的かつ可愛さの演出に貢献してるな、と
サバサバしてるようで実は彼想いなのが堪らなかったですね。
■第4章 たいせつなもの
悠紀さんも好きだなあ(笑)。
なんでしょうね、若々しいからこその初々しい恋愛模様も大好きですけど
逆に年齢を重ねた人間の初々しい気持ちに触れるのもなんだか微笑ましくて大好きです
助走が長かったからこそ、むしろ感動出来る感覚というか・・・
ようやく女になれた悠紀さんの様子を眺めてるだけでニヤニヤ出来ました
こういういかにも大人な女性が結構ウブ~っていうのに自分は弱いです。
それと、悠紀さんは結構おちゃめな部分が多々あってコメディ的にも面白かったですね
「女の子ですとも」の表情なんか個人的にかなりツボでした
女の子はどこまで行っても女の子
男の子もどこまで行っても男の子
若さ、は身体的な事だけではないんだなというのがよく分かる短編に仕上がっています
この作品も男側がすごく誠実で見ていてハッとさせられます
「選んでくれてありがとう」
「男として最高にしあわせ」
達観とか妥協とかいう言葉が馬鹿らしくなるくらいに「純」な感情が描かれてるのにグッと来る
個人的に読んでいてこれくらい誠実な人間でありたいな、と思えるのが実に素敵です。
これくらい互いが強く惹かれあうような関係性が好き。
■第5章 ママゴトみたいな
これもまた素敵な作品だなあ
最後の嬉し恥ずかしいようなベタな空気が好きです
個人的にこれまで生きていていちばんうれしかった、とか
そういう台詞回しにいちいちグッと来ちゃうんですよね
それが「当たり前」「順当」ではなく
心から喜んで大切な糧にするような清々しい感情に心が洗われた気分になります
「ふたりで一緒に朝の空をみたい」
二人で色々なものをみたい、
二人で色々な場所に行きたい
二人の幸せに関して自覚的でありたい・・・という
能動的な気持ちが垣間見れるのもまた読んでて心証良かったです
どっちかが素敵、ではなく、どっちも素敵、なのが田中ユタカ作品の良い部分ですね
観ていて晴れやかな気分にもなれます。
それにしても「好きな人のいのちが~」のシーンはこっちも泣きそうになりますね(笑
なんつーか、もう、健気過ぎて本気でいとおしい気持ちになってしまいます。
健気なのって手放しで素晴らしいことのように思える。
■第6章 愛し合ってるんだもん!!
読んでると男性器が神聖なもののように思えてきます
女性からみた男性器の心証・・・考えてみれば生命の源ですもんね
決してギャグで使っていいような代物ではない、と同時に
そこすら丁寧に掘り下げて昇華してしまうセンスに脱帽
男をイカせて不敵に微笑む彼女の笑顔は確かに官能的、だけど同じくらいキュートでした。
ラストのラブラブな空気もまた読んでて微笑ましいですね。愛し合うのに余計な邪念は必要ない。
■第7章 「しあわせ」と彼女は言った
これは傑作・・・ですが
この作品の中では唯一毛色が違います
もう既に亡くなっている恋人との思い出に浸っている話ですね
その様子は物悲しく過去の憂いを含んだ叙情的な作品に近い仕上がりで
昔からのファンはきっとこういうものも待っていたと思う
何より、既にこの世にいないからこそ
その時の繊細な手触りや表情、感情が蘇って読み手にも伝わって来る
そういう塩梅も非常に素晴らしい作品 確かに彼女はいなくなったけど
大切な思い出が今も自分を落ち込ませると同時に突き動かしてくれるのもまた事実
最後に立ち上がった青年の姿にもまた胸を熱くしてしまう最高の作品ですね
素敵な瞬間は記憶の中で永遠に生き続ける・・・
そんな事実がありありと届く作品です。
その思い出の美しさにこれまた涙腺揺さぶられる漫画。
えっちいのを純粋に悦ぶ姿とか、エロい笑顔という言葉の通りの彼女の表情がとても活き活きしてますね
悲恋だからこそ逆に活き活きとしたシーンを描くことにより寂しさが増す演出も優れてたと思う
今作の中で一二を争うくらいに好きで印象に残る作品です。
最後の台詞がまた気持ち泣けるんだな・・・。
きれいごとかもしれないけど、きっと彼女は側で泣いてくれてたんだと思います。そう信じていたい。
■第8章 生きていてよかった
珍しく男子がちょっとゴツめのサバサバした人でこういうのもまた新鮮ですし
何気に照れ屋な性格も見ていて有り体にニヤニヤ出来て素敵でした
告白をした方がドキドキするだけじゃなく、
告白された方も泣いちゃうくらい嬉しかった、っていう
今時信じられないくらい純な気持ちに感動しちゃいますね
自殺したいと思ったときもあった
幸せなだけの人生では決してなかった
でも今はこうやって誰かと愛し合う事が出来る
だから、生きていて良かった
この瞬間に立ち会えて良かった
これまでの辛さを忘れるくらいの多幸感に溺れる事が出来る豊かな気持ち・・・
それはこの本の登場人物全般にも言えることでありさり気にまとめになっている気もしました
「わたしは人を愛せます。」
「わたしは人を愛せます。」
「わたしは人を愛せます。」
愛されない、とか、孤独、とかじゃなくて
「愛せます。」という考え方がとても心にきました
なんだか「愛人」のイクルくんの台詞を思い出してそれにもまたグッと来ちゃったな
立派な部屋以上に生活の中で抱かれたい、という気持ちは「好きのリフレイン」を彷彿とさせます
「行為」に対する明確な答えを理屈じゃなく感覚で出せてるのがとても堪らない一作です。
色々書いたけど、結局はただ単に私はこの本が大好きで読み続ける、
それが言いたいことのすべてですし読めばこの作品の誠実さは必ず伝わると信じています
読み終えた後、少し優しい気分になれるような、心の擦れた部分が元通りになっていくような・・・
そういう掛け替えのないピュアネスが宿っている相応の傑作です。
出来るだけ、届いて欲しい。
今回もまた、少し泣いた。そんな田中ユタカの新刊のおはなし。
これまで何度も田中ユタカの作品を読んで涙を流したし、大切なものを沢山貰ってきた。
今まで自分がどれくらいこの人の作品で救われて来たのか・・・
今回の新刊を読んでその事実をふと思い返してしまった。
初めて読んだ彼の成年漫画で
涙が出るくらいに感動して、「愛人」を読み終えた時はいてもいられなくなって家を飛び出した
全力で外を駆け回って落ち付くまで戻らなかった(実話)
多分今まで読んできた漫画の中で最大級にでっかい衝撃だったと思う
墓場まで持っていきたいとすら思った
それ以降自分の中で田中ユタカの作品は絶対的なものに変化して行った
どれだけ新しい作家が出てこようと彼の漫画を読まない時期は出会ってから一回もない
恥ずかしい話新幹線の中で「初夜2」を読んで号泣した思い出すらある(笑
しかし、その絶対的なものというのは読む前から信頼を~っていうひいきのようなものではなく
どの新刊を読んでも、読む度に自分にとって大切な一冊になってしまうからであって
要するに結果的にどの作品も傑作名作だと思えた、という事で
だからこそ感想も毎回真剣に書く訳だけども
今回の新刊をじっくり読んで「傑作だなあ・・・」としみじみ感じている内に
読む度にこんなに清廉とした・・・まるで生まれ変わったような気持ちにさせてくれる
そんな漫画家は彼しかいないなと強く思えた
それがたまらなく嬉しくて、幸福で、尊いことなんだなと
個人的にはその事実に物凄い感慨深い気持ちになって、読み返してる内に思わず泣いてしまった
だから、もう言葉すら必要ないと思ってしまったんだけど、でもやっぱり
自分なりに言葉にしたい・・・という事で全話レビューやります
いつまで経っても憧れは憧れのまま
最高の田中ユタカが毎回読めるというのはファン冥利に尽きますね。
これもまた、ずっとずっと大切に読んでいくと思います。本当に大好きな傑作集でした。
■瑛理のぬくもり
目の前の出来事に夢中だなあ、若いなあって思います
でも、だからこそ感動的で微笑ましい気分になれるのっけからの真骨頂。
個人的にここまで相手に対して夢中になれるって凄いって思うんですよ。
と、同時にこれこそが今欠けてるものなんじゃないかな、とか。
格好悪いっていうのは
最高に格好が良い事でもあるんだと
そういう本質的なものが短いページ数の中に沢山詰まってるのが見事だと思いました。
二人とも、きれいだ。
■佳穂さんの初体験
登場人物がちゃんと自分の意思で、流されずに決断を告げる場面の数々が素敵です
この異様なまでの生真面目さこそ田中ユタカらしくて好きだなあ、と
それでいて本能的な衝動も描けている塩梅もまた粋ですね
オーソドックスですが洗練もされていると思います。
最後のやりとりも微笑ましくて好み。
■せのび
お互いがお互いを思い遣り少しでも嫌な気分にさせないように頑張っている
当たり前だけど、とても大切な想いの表現に心打たれました
繊細なテーマ性とは裏腹に
あなたが思っている以上に私は弱くない
そんな二人の変遷や結実がこれまた最高だったお話
今作の中では一番好きかもしれません。
人形じゃない、というのは勝手に自分自身の素質を決め付けないで欲しい
表面上の態度や形で全部理解出来るほど人は単純な生き物じゃない
だから、全力でぶつかってきて欲しい
そういう確かな彼女からのメッセージのような言葉と表現が個人的にはグッと来ました。
せいいっぱいの背伸びと、せいいっぱいの不器用な優しさ。
良い二人だなあ。
ほっこりするなあ。
そして・・・全力で生きてるな、と。
■恋なんて簡単
自身のコンプレックスを真っ向から肯定してくれる男の曇りのない優しさ。
傷を癒すのはいつだって自分ひとりでは出来ない。
諦めちゃってた朝香さんが
再び自発的に恋を頑張り始めた、受け入れ始めたラストが至高でした。
まあ、生きてれば色々ありますよね。ページから仄かに伝わって来る「経験」の匂いも特徴的な一作。
朝香さん、可愛いです。
■せんせい
大人になる事って難しい。
いい歳こいて悔しさに泣いちゃう事って恥ずかしい。
でも、そんな厳しい世界の中で年月的な意味でなく大人になれた二人の物語。
成長を遂げた分だけ、幸せの分だけきれいな涙を流す事が出来る。
それは泣き虫なんかではなく
満たされた、豊かになれた証拠なんだって。
そんな涙ほど尊いものもないですよね。
■あの夏の白い肌
鮮烈な憧憬以上に神々しいものもないですよね。
ある種の理想のような作品、だけどその分硝子のような繊細さが篭っています。
大好きな人と一緒に生きていける、自分だけの存在に出来る喜び。
そこに付随する感傷と多幸の表現に魅せられた一作。
■初愛なでしこ
うわ~客観的に観れば、ただ自宅で彼女を抱いてるだけの話なのに
こんなにも胸が締め付けられるような切なさにずっと支配されるのは何故なんでしょう?
誰かを強く「しあわせにしたい!!」と想う誠実で切実な気持ち
悲劇ではなく
喜びで涙腺を刺激出来るのはある種の技ですね
生活の重みを認めてくれるいたわり、全力を以って彼女を幸せにしようと尽くす情愛
完成度の高さでは群を抜いているものがあります
お嬢様風のキャラっていうのも新鮮でした。
衰え知らず、ですね!
■奇跡
「生命の味だ・・・」
これまた鳥肌レベルですなあ。
読み終わった後、何にも言えなくなってしまった。
それくらい人そのもの、生命そのもの、愛そのもの、そんな作品。
この瞬間が誰かの生命の誕生かもしれない
だから幸せでいよう
幸せを感じよう
ここまで神々しい表現を成年漫画で説得力を携えて表現出来る実力に感銘を受けた。
本当のことしか描かれていないこれまた完璧に近いレベルの傑作。
完璧と形容しないのは
きっといつまでも研鑽を重ねる作家さんだと思うから
しかしこの作品は一つの到達点のようにも思えたし、これが最後であったからこそ本自体も引き締まった
ファン的な視点で見ても新鮮でありがたさを感じられる傑作短編であったかと思います
何一つ間違ってないですね。
読み終えてしばらく余韻に浸っていたんですが
喜び、嬉しさ、悲しみ、憂い、情熱、涙、幸せ、悔しさ、格好悪さ、間抜けさ
劣等感だったり揺らぎ、見当違いの目配せや臆病な感情
全部含めて人間そのものを内包出来てる一冊だなと。
だからこそ実直に愛でる事が出来る。
成年漫画という枠組みの偉大さを感じざるを得ない至高の作品集に仕上がったと思います。
田中ユタカさん、今回も本当に素敵な本を心からありがとうございました。
心洗われる素晴らしい力作です。
田中ユタカの新刊「初愛~はつあい~」を読んだ。
正直、泣きました。委員長の話で。素晴らしい本だったと思います。
全部が全部、素晴らしかった。苦しい表情も不恰好な姿を含めて最高だったと思う。
私は田中ユタカが最も好きな漫画家とか言っても過言ではないくらいなので
こと信憑性に関しては薄いかもしれません。
それでも、正直これはたまんねえっすわ。単なる成年作品ではなく、愛情も繋がりもいたわりも、
何もかもがそこに存在していて過不足がない。最終的に感じられるのはやっぱり「人と人」って部分で。
久々の短編集って事もあって読み応えも新鮮さもバッチリ、
至福のひと時を過させて頂きました。
単純に新刊としても一年以上ぶりなので余計に嬉しくて嬉しくて・・・。
田中ユタカの作品ほどストイックな作品ってそうそうない。
個人的には読み終えた後、自分は真剣に生きれているだろうか?って思ってしまいます。
それはきっと自分に愛も繋がりも足りないからなんだろうけれど、
こと成年漫画でそんな事を思うのはおかしいのかもしれない。
でも、別におかしくても全然いいやって思います。自分の感動を棄てる気なんてさらさらないので。
凄まじいまでの密度と、愛情と、ぬくもりと、そこに付随する感情の諸々と。
読めた事に感謝がしたくなるような、そんな本でした。
去年の初夜2以来に全話レビューやりたいと思います。成年漫画苦手な方は注意して下さい。では以下。
■第1章「初愛~はつあい~」
いや~一作目から本気出しすぎですね(笑)。
シンプルイズベスト、とでも言いたくなるような完璧な初体験。
非日常が日常になっていく様が実に丁寧に、
でも実は日常ってそんな非日常的なドラマの連続なんじゃないかだとか・・・。
そんな風にも思わせてくれる最高のスタートですね。
「愛してる」をハモってしまった、ってオチがもうたまらんです。
■第2章「ファースト・デート」
これもヤバいなあ・・・。
セリフの一つ一つがいちいちグッと来て沁みこんでしまう。
ネットで知り合ってそのまま、って流れはいささか早計にも思えるけど
逆にそれで本当の愛を知った、っていう。
素敵な話だと思う。
それが例え夢物語であろうが、肉迫するリアルがあれば話は別で。
■第3章「最後の夜 最初の朝」
友達って関係が終わって
恋人と言う関係が出来上がるお話。
何をやっても上手くいかなかった二人のチャンス
ヒロインのセリフがいちいち突き刺さりますねえ。
田中ユタカの漫画にしては結構ガツガツした性格の彼女ですけど
新鮮さって意味でも緩急って意味でもここでこのヒロインを描いたのは正解だと思う。
多少じゃじゃ馬なくらいが可愛いっていうね。
生まれ変わるって概念が素敵です。
■第4章「さよなら、委員長」
これは傑作ですねえ・・・。
禁断の恋って呼ばれる教師と生徒、
でもその禁断を我慢して辿り着いた二人の恋。
考えただけで泣けてくる。
実際に少し泣いた(笑)。以前描いた「緑の旅」を更に深く掘り下げたような内容で
元々の愛読者的にも如実に表現の深化を感じれて嬉しかった。
心から祝福したい恋人たちだよねえ。
タイトルは鳥肌もの。
■第5章「夏の旅(ハネムーン)」
夏の恋ってなんでこんなに魅力的なんだろうなあ。
その情景だったり伝わってくる質感に
登場人物の感情や愛が溶け込んで唯一無二の感動を与える・・・。
慰みに対する肯定示唆なんかもあったりして
その点でも面白い作品です。楽園ではなく、理想郷でもなく、日常の中でっていうのは
田中ユタカ流のこだわりの一つなのかなとも思います。
勿論その逆もありますけどね。
■第6章「マキねえちゃんのオトコ」
本作の中でも異色ですねえ。
幸せの中から、ではなく不幸からの愛情の芽生え。
でも幸せになるのに遅いなんてないって過去作品でも描いてましたし。
その通りですよね。
幸せはいつだって望めばそこに。
いや、それは流石に青臭いですか。でも遠回りだからこそ思える気持ちも確かにあるんだよ、ってね。
■第7章「ヴァージン・プリンセス」
本作の中では最もオーソドックスなお話。
故に語る事もほぼないんですが
取り敢えず彼女がハイテンションだったのは怖さを和らげる為だったんじゃないか?とか
なんとなしに予想してみます。「温かい」、って表現が最高に温かいなあ。
■第8章「ふたりぶんのヌクヌク」
これを読んでると、いかに体験が神聖なものであるのか
或いはそう思わなきゃいけない事なのかってのを否応なく思い知らされる。
普段着の恋愛って感じで好感度はめちゃくちゃ高いですね。
逆に着飾ってないのが最高に興奮するって言う。
傍から見れば大した話じゃない、ありふれてるような二人の話。
でもそんな普通こそが最もドラマチックで、スペシャルな事柄で。
一人では孤独を和らげる事が出来ないけど
二人ならその孤独を少しでも、ほんの少しでも埋める事が出来るって言う。
それはある種当たり前の価値観かもしれませんが
そんな当たり前の事がもっとも尊いんです、っていうとっても真摯な話。クライマックスに至るまでの
繊細なお話の流れにも非常にグッと来ます。ストレートな意味でね。傑作だと思う。
■第9章「はじめちゃんの強がり」
これもまた緩急の一つ、ですかね。
今ではちょっと珍しくなった?学生同士のお話で
これが最後って言うのも中々オツなものですよねえ。
性格は若干強がりなんだけど
それがすっごく可愛く感じられるレベルっていうのがまた良い。
女性視点なのもまた新鮮ではあったお話、
感じてくれた事に対する感謝って何気に凄いと思う。
最後に、恒例のあとがき。
私にとっては田中ユタカは雲の上の人なので
気軽にメッセージを送る事がどうしても出来ないんですが
あの時twitterで自分の名前が挙がったことは本当に嬉しかった。
自分にとっては特別な事だったんだよなあ・・・と、あとがきのtwitter話を読んでて思いました。
同じようなものを磨き上げる、か。う~んこれまた一つ大事なことを教わった気がします。
今回の本も私にとっては最高の一冊でした。本当に、ありがとうございました。
田中ユタカ2年ぶりの新連載「初愛」がスタートした。掲載誌は「ドキッ」っていう古巣ですね。
表紙巻頭まで飾って、堂々と始まってるんですが
読むのに時間掛かってしまいました。
昨日ようやく雑誌買って来てじっくり読めたんですが
これはこれで新境地な感じもしますねえ。
まず絵がややリアル路線というか
なんかもう息遣いすら身近に感じられる印象で
その変化が大胆だな、と思うと同時に
今までやってきた事の延長線上でもあって。「うぶ」ってのは間違いないですよ。
ここまで自身のテーマを貫き通せるのは凄いですねえ。
単純に行為、といってもそこに至るまでのあれこれも重要なわけで
その観点からいくと本当に良く描けてるというか
描けてるってのも偉そうな言い方ですけど
ただなし崩し的にやるのではなく
きちんとドラマチックに煽ってからっていうか。アニメと原作の「初夜」を思い出す感じもありましたね。
些細な気の持ちようで景色なんていとも容易く変わる。
そんな風に感じられたシーンでした。
いつにも増して細かくなった表情のディティール、
温かさと痛みの混じった感情ライン
最後は当然幸せな結末で
いつも通りの、でも読み応えは必ず新しい田中ユタカワールドを味あわせて貰いました。感謝です。
久々の紙媒体での新連載、って事でブログでも毎号追っかけて行きたいと思う。
個人的には携帯コミックの方も書籍化して欲しいと思ったり。