叶恭弘「鏡の国の針栖川」3巻読了。
全3巻で終了・・・って事で結構駆け足だったのかな?って思ってたら
実際は全然そんなことなかったぜ!っていう。
ぶっちゃけ、これは、単純に短期用のテーマで短期に終わらせた、ただそれだけの話ですね(笑)。
しかもそれが凄く貴重に感じられるんですよ。よくよく考えても凄い事ですよねこれは。
だって引き伸ばしでもなく、人気不振でもなく、ただ単純に終わるべき時が来たから終わるって言う
最も正しい漫画の有り方を体現してるんですもん。
これは支持せざるを得ないと思うし
ここまで自由に動いて自由に終わったジャンプの作品もそうそうないですよね・・・
流石叶さんならではのフットワークっていうか、作品っていうか、その媚びなさに惚れるっていうか。
一切の未消化も、遣り残しも存在してない完璧に終わった相当の秀作。
そんな風に解釈しているのと同時に、
ここまできれいにちゃんと終わってて未練も後悔もないなら
全然成功作に数えちゃっても平気な作品でもあるかな、と。なんせ終わる数週前にカラーもらってますからね(笑)。
だからそういう意味では円満作品よりも円満的な雰囲気が漂ってる
むしろこれ普通に円満だろ、って思えるような
それくらい素晴らしい着地を見せてくれた良質な恋愛コメディでした。
振り返ってみると、やっぱり設定がきちんと面白くて
今回もまたバレるかバレないかの瀬戸際恋愛コメディだった訳ですけど
そんな中でも上手く三角関係を作ったり、切ない設定の妙が光っていたりと
設定の達人ならではのユニークさや楽しさが往々に機能していて
しかもそれが
結果的に主人公を成長させるファクターになっていたのが最も面白かったんじゃないかなあ、と思います。
最終話での針栖川のセリフを読めば分かるとは思いますが、ある意味での教訓っていうか
言いたい事も言えないままにずっとモジモジしていた彼への罰というか
一種のしっぺ返しみたいな効果は確かにあって
その経験があったからこそ、堂々と想いを口に出せる人間になる事が出来た・・・っていう
単なる想いが結実するありふれたストーリーではなく、ちゃんと主人公の成長譚になり得ている部分
そこがこの物語の一番素晴らしい部分だったのかもしれない、と
読み終えてみて実直にそう思えた訳です。
かといって、ヒロインが告白を待つだけのお姫様みたいなお話にもなっていないし
それぞれがそれぞれに全力で動いた結果の物語という感じで・・・そこが非常に良いと思うんですよね。
巻数が短いと感慨も少ないのでは、って思ってたけどきちんと切なさもカタルシスもあって
やっぱり叶恭弘って物語を締めさせれば本当に抜群の手腕を発揮するなというか
今回はもう一切の心残りが発生しないくらいきれいに終わらせてて、
そこもまた過去作とは違う一面なのかな、と思ったりも。
今回の作品は元々長期連載する気もなかったように感じられて
本当に「作品の為の作品」という感じなので
無駄も色気もない訳ですが
だからこそ、この後一切の展開も出来ないようにちゃんと作品世界を畳んで終わらせてるんですよね。
多分、プリフェもエムゼロもやろうと思えば続編って結構容易に出来ちゃうと思うんです。
けど、この針栖川はそもそもがそういう色気のある展開とは無縁の作品なんで・・・
本当に綺麗に纏まった良質な短編作品って印象、かな?
引き伸ばしも、人気不振による駆け足も消化不良も全くうけなかった短期終了作品が
あのジャンプで生まれたって事自体が相当に奇跡的だと思えるんですけど(笑)。
砂漠の中のオアシス的な、東京の中の自然のような。
そんな正しくも潔い作品。逆に何一つの引っかかりもないというのは小奇麗って印象を与えるかもだけど
自分としてはここまできれいに後悔もなくきちんとまとまった恋愛作品が読めただけで幸せです。
ともすれば、ただ幸せなだけの作品で終わっちゃう可能性もあったと思うけど
最後はきちんと主人公が頑張る展開になって終わりを迎えたのが尚素晴らしかった作品かな、と。
ある意味ジャンプらしさとは距離を置いた優れた叶流ラブコメディでした。最高のラストをありがとう!
ちなみに番外編は未収録なので注意です。
短編集に載りそうですがね。
しかし、何気に針栖川の妹さん、可愛かったですね(笑)。
いつか妹コメディとか描いても面白そうだな~って思った事は胸の中にしまっておきます。
しばらくはまたこれで読切作家としてのターンになりますかね。
それもまた楽しみにしておきます。そして次の短編集も早く読みたい!