超進化アンチテーゼ

悲しい夜の向こう側へ

THE NOVEMBERS「paraphilia」全曲レビューその6「mer」

2013-02-28 22:59:52 | THE NOVEMBERS 全曲レビュー













今回はしとやかで情感溢れるバラッドです。













6.mer











この曲は、人と人はそれぞれ同じようで全く違う生き物だけど
そういう差異を感じざるを得ない中でも一生懸命受け入れるべき部分は受け入れて
重ならない部分はそのままで、しっかりと先を見据えながら歩いて行こうとする決意表明のような一曲ですね
大抵は片方の偏執的な問題で決別だったり軋轢というのは存在するんだと思いますけど
自分に譲れないポイントがあるように
相手にも譲れないポイントというのは確実に存在する
けど、現実的な見方をすると全部が全部一致する事なんてあり得ないし
どこかでそれを我慢しなければいけない、相手が吐き出した思想を飲み込む勇気や努力が必要なんですよね
とは言っても、それが口でいうほど容易い事ではなく結構に忍耐力を問われる事だったりもするんですが
始めから頑なに受け入れ態勢を拒否していたら「先」には絶対に進めない
そこでその自分のとは全く違う思想や言葉を飲み込めるかどうか
理解したいと思えるかどうか・・・が個人的にはこの歌で歌われている重要なテーマだと思っています
何も全部を全部曝け出さなくても、ぶつかり合いを自ら選んで行う必要もなく
触れてはいけない部分は敢えて一切触れずに
時には目を瞑りながら穏やかにたおやかに生きていこう・・・という物凄く地に足の付いた詞世界になっていて
人それぞれでいい、っていう奇麗事は一切存在せず
その考えすらも甘い
その「それぞれ」を飲み込む必要性があるんだ、という事実を
しっかりと真心を持って聴き手に問いかけてくるような優しくも厳しい一曲
個人的に絵空事のような希望の歌よりも、こういう現実に根ざした楽曲の方がやはり好きだな、と
多少後ろ向きな部分もありつつも最終的には目的を持って共に進もうとする、
その変遷の描き方にもカタルシスを貰える一曲。
最後の「これからどこへいこうか」のフレーズも先をしっかりと意識出来てる能動性があってとても好みです。


同時に、どんなに頑張っても「他人」にはなれない悔しさなんかも個人的には感じられたり
理解したくても自分の感覚では絶対に届かないポイントは存在していて
それに対するルサンチマンのようなもの・・・に
触れるのも自分の想いとシンクロするようでとても糧になる一曲だと思います。
みんな口では達観してるように見せかけても内心は結構揺らいでる生き物ですから。












「君が吐き出したものを僕が食べる
 どうしてそれがわからないんだろう」

・・・ねえ?




THE NOVEMBERS「paraphilia」全曲レビューその5「para」

2013-01-17 19:33:47 | THE NOVEMBERS 全曲レビュー












久々ですが。











5.para










【あたりまえだけど】


個人的な感覚として、正論だけを受け入れて生きてきたという感覚は全くなくて
むしろ全てが「正しい」だったり「整理された」「統合された」と感じると正直息苦しい
これはあくまで私個人的な感覚には過ぎないのですが
きっと全部が全部正しく回っていく事は無理に等しい、
必ず未整理の部分があったり
未完成のエリアが存在するのがこの世の常であって
でも、だからこそ「正しい」に入る事が出来ない人達が生きていけるのだと思います

ただ、そうはいってもいつもいつでも自由気ままに、思い通りに生きていく事は不可能に近くて
結果的に泣き寝入りや去勢を甘んじて受け入れなければいけない時も出てくる
というかある意味日常茶飯事だとは思うんですけど
でもそこで「これが人生だよね」って
そういう大人しい達観が出来ない時、狂気に巻き込まれて成す術もなく、弱者に当て嵌められて悔しい気分になり
感情の置き場所に困ってしまってどうしようもなくなった時に響く曲・・・というイメージですね
自分の中では。

あくまで「自分の中で」当たり前でないものを受け入れなければいけない
それを経て前に進む事を余儀なくされる時というのは理屈では納得出来ず心が軋むものです
そういう気分の時に小林祐介が放つ逆ギレのような原始的なボーカルは
有無を言わさず心にグッと迫ってくるし、
燻った感情を溶かしてくれます
勿論そんな意図はないんでしょうけど、私的にはこの曲を聴くとそういう風に作用してくれます
別にアンチ精神云々ではなく、単に精神的な軋轢から生み出される唸り声のような、だからこそ切実な一曲。
悲しみを背負ったり我慢をするのが美徳だし、所謂「当たり前」ではあるのですが
そういう理屈では納得し切れない感情も幾つかあるとは思う
精神が歪んでしまう事だって
別に指標でも、意思でもなくそんな感情で満ちている時の処方箋のような一曲
治まるか治まらないかは別として、確実に響いてくれる楽曲だと思ってます。



また、この曲は在り方自体も非常にオルタナティブな一曲に仕上がっていて
Aメロの歌詞をそのまんまそっくりサビにも引用し、なおかつ違和感や手抜き感がないという
物凄く不思議で、かつ面白い楽曲としても鳴ってますね
その構造の独特さには機会と興味があれば是非
流麗に鳴り響いたと思ったら荒々しい歪も同時に表現するダイナミックなギターサウンドにも注目
テーマ性もサウンドも真っ当にユニークで確かな意図を感じるタフな一曲かと
延々と繰り返し聴いても飽きない、
そんな創意工夫の楽曲構成に驚きと感心を貰える楽曲です。
割と激しい一面もあるのでガツガツ鳴らすタイプのナンバーが好きでも大きく気に入れる曲なんじゃないかと。
個人的にもかなりお気に入りの一曲です。








【うまく目を開けることが出来ない 耳をすませられない】

ここまでリアルで素直な心境を吐き出せるミュージシャンも珍しいなと
要するに取捨選択に長けてない、雑音を気にしない事が出来ないという事だと感じたんですけど
それも含めて非常に人間らしい楽曲だと個人的には思っています。
だから感情移入出来る。




THE NOVEMBERS「paraphilia」全曲レビューその4「chil」

2012-10-17 23:59:37 | THE NOVEMBERS 全曲レビュー







通算28曲目。








4.chil








【泡みたいだな】


まるでどこか遠くの異国の地を髣髴とさせる詞と浮遊感のあるサウンド
そして滑らかなボーカルとの調和がとても心地良い
部屋で聴いていながら別世界に旅立てるような素敵な一曲・・・なんですが
その一方で厳しい現実だったり皮肉が混じっていて、ただ単純にきれいな曲でも終わらない
幻想的でありながら現実的
ノベンバの良い部分がいい塩梅で反映されているキャッチーでもある名曲。
ライブで映える・・・といった楽曲ではない為、演奏される頻度こそ少なめですけど
それでも間奏の煮え滾るようなアンサンブルは単純に燃えるし
美しさも際立ってる
割とファン人気的にも高い楽曲なのでは・・・と
個人的には思っています。ラジオでも大体この曲がリードトラックとして流れていた記憶があるし。





ここからは個人的な解釈の話になるんですけど
誰もを疑って、寄せ付けない、信用も信頼もしないで頑なに自分を守り続ける
その結果すぐに関係が壊れてまた個の世界に舞い戻ってくる
「光のスープの冷たい表面」
本当は光に混じって一緒になれる素質を持ってるのに、分かち合える力を持ってるのに
その冷たさだったり、排他的な思想のお陰で元々持っている光を発揮出来ない
そんな自分自身を例えて

「泡みたいだな」、と

築いた関係も、積み重ねた努力も、嬉しかったあの時も、悔しかったあの時代も
全部が全部、泡みたいに消え去って跡形すらも残らない
喜びも怒りも哀しみも楽しさも
泡みたいに消える
消えてなくなる
それがどう、だとか、だからこう・・・ってよりは
ただただそんな様子を描いて、俯瞰しているような、冷静に物悲しさが伝わって来る楽曲に仕上がってて
直接胡散臭いメッセージ性を打ち出されるよりは、個人的にはこっちの方が好きだなあ、と。
そんな風に思える自己批判的な内容も多々含む考えさせられる詞世界になってて。



【与えなければ 奪わなければ キレイなままで 隠せるのかな】

何かと関わって、軋轢が生じて、結果的に疎遠になるのならば
きっと遠くから眺めていた方がマシだった
空っぽの方が純真でいられた。
そんな紛れもない事実を描きながら、それでも最後は「さわらせてよ」なんて歌ってしまう
そんなどうしようもない人間くささが、どうしようもなく突き刺さる楽曲
それもまたある種のロックンロール
転がりながら生きる人生を描いてる楽曲なのかな・・・と
散々考えても悩んでも、「さわらせてよ」って気持ちは尽きないし止められもしない
そういう感情は否定したくても出来ないものなんだ、って本質を伝えてくれる見事な楽曲に仕上がってる
その意味でも、ただ表面的に幻想的美しいだけでなく、きちんと芯のある曲になってるな、と
個人的にはそう思います。








後悔や内省に対する処方箋なのと同時に、
それでも自分にとってきれいなものや豊かなものを追い求めることは間違ってない
それは決して止めることなんて出来ないものだから、向き合うべきだと。
厳しくも、優しさが伝わって来る素敵な楽曲です。




THE NOVEMBERS「paraphilia」全曲レビューその3「keep me keep me keep me」

2012-09-01 23:25:32 | THE NOVEMBERS 全曲レビュー






9月最初の更新です。通算27曲目。








3.keep me keep me keep me






まず、「○」って形の人間と「△」って形の人間が居るとして
それらが共に行動したり、話をしたり、行きたい方向に目を向けると
確実に重なり合わない部分が出てきますよね。
見た目だけで違うんだから
何を考えてるか、何を思うのか、何をしたいのか、そのどれもが一緒なんて事はあり得ない
「○」の大きすぎる欲望や願いは「△」には受け入れられず
「△」の足りない、欠けた部分は「○」にとっては理解すら出来ない
だからこそぶつかって、不協和音が鳴って
一緒に歩く事が出来ない
言ってしまえば、ある種「分かり合えない」なんてのは最早事実であり当然の事象でもあるから
それに対して「なんで?」って思う事自体がその意味では不毛な行為だったりすると思うんですけど。


「間違いは持ちきれない
 償いは置く場所がわからない
 本当は誰も悪くないと
 誰かが言っていた」

そう、本当は誰も悪くないっていうのは一つの真理だとも思うんですよね。
だって、元々生まれ持った形なんて、物心が付く頃には自分の力で変えようもないでしょう?
「○」である自分を悲しむな
「△」である自分を恥じるな
それが確かな自分自身の形なのであれば
それを受け入れて進むしかない、削れる箇所や補填出来る箇所にも限界は存在する
ならば、持ちきれない間違いと、置く場所が分からない償いを抱きながら
あなたはあなたのまま進みなさい
結局、正しい選択ばかりをする事は出来ないし
生まれ持った形が違う以上誰も傷付けずに生きるなんて事も不可能で。

「割り切る」、、、ってのは御幣があるかもしれませんが、
時には納得する事も前に進む為には必要な事でして。
そうやってここまで生きてきた
から、そういう狭まの時間には、こういう曲が必要なのかもしれない・・・と
個人的には思います。
何かに懺悔する様な気分で聴きつつ
今までの自分の選択に何らかの意味があったと信じて、
迷いながらも
自分を保つ、という辛い道を選んだ
そんな愚かでありながら、芯を捨てなかった人間に捧げる精神の鎮魂歌です。
サウンドとメロディは淡々として、歌は囁くように優しく歌っている
多少地味目なナンバーではありますが
きっと歌詞の一つ一つにハッとする要素はあると思うので
じっくりと、部屋で出来ればひとりで浸って欲しい、そんな派手さはないながらも重要な一曲です。
間違ってても、間違ってはいない。というのは若干矛盾してるようですが
感覚的にはよく分かりますね。
確かに失ったものはあったけれど、
失った事で得たものもきっとあるはず。
そんな事を思わせるノベンバ流のヒーリング・バラッドです。







「もう大丈夫だよ 忘れにいこう」





THE NOVEMBERS「paraphilia」全曲レビューその2「dnim」

2012-03-03 23:02:29 | THE NOVEMBERS 全曲レビュー





THE NOVEMBERS全曲レビュー通算26曲目「dnim」です。





2.dnim




タイトルは「mind」の逆さ読みで心が吊るされてる状態を示していると思われる。
初っ端からザクザク切り刻むように鳴らされるギターリフやタフで重厚な演奏を聴かせるリズム隊
サビでは直情的な叫びを歌い散らかすボーカリゼイションを炸裂させる。
それと同時に、
何気に隙間のあるサウンドにもなっていて、メロディアスな部分も健在で
ノベンバの楽曲の中でも特にキャッチーでエモーショナルな魅力を秘めている一曲
単純に激しい曲ですけど
その中にも美しさを感じさせる雰囲気が漂ってたりで、
人間の悲鳴のような汚さと、それが与える耽美的な感覚を上手く融合出来てる印象の曲で中々に面白く
部屋で一人で聴いて盛り上がるのにも適している勢いのある名曲
勿論ライブで聴いても相当の迫力が滲んでいます。

特徴的なのは、叙情的なギターフレーズが鳴り響く中で歌い叫ぶボーカルとの対比といいますか
片方は美しい旋律を奏でているのに片方は赤子のように激しく泣き叫ぶ原始的な音を出している訳で
その心地の良い、オルタナティブなミスマッチ感がこの曲の最も強い魅力であり
ある意味ではノベンバの本質とも思える
バンドを象徴する楽曲の一つにもなってるんじゃないかと。
汚れの中にある美しさ
美しさの中にある汚れ。
そんな風に考えると余計に感情を込めて聴けるからそこも含めてオススメの一曲ですね。
感情的な部分は往々にしてあるんですけど、その実哀愁や儚さ、郷愁までも漂ってるのが秀逸な曲です。




【止まればつかまり 走れば落ちそうな】

立ち止まる事は許されないけれど
かといっても一生懸命走っても墓穴を掘るって言う
あまりの逃げ場のなさ
選択の余地のなさ。
頑張っても頑張ってもその度に限界にブチ当たって何のイメージも広がらず、
でも止まってりゃ不安だし生きられないしで
結局は苦しみを味わうしかないんだ、っていう根本的な事実が歌われています。
その真ん中でやり切れない気分に陥った時に
身に沁みるフレーズ、
剥き出しのようで剥き出しにもなれない本音と建前の真ん中をウロウロするだけの日常。
正に「裸ですらない」僕や誰かの日常の歌。


【ここにいたいなら笑っていろ】

自由気ままになんて言葉はどこ吹く風で、
逆らえば落とされ、誰の尾っぽに巻かれてご機嫌伺って
結局は従うだけの人生な訳で
半分は作り物でしかない
したくない顔をして、苛立ちを飲み込んで、ヘラヘラ笑って過すだけのしょうもなさの中で
絵に描いたようなまともな世界は永遠にやってくることはない
本当の自分を見せれるのは自分だけって現実もありつつ
誰の言う事も
誰の知る事も分からなくなって
無力で置き去りにもされるけれど、だけど・・・


【愛してるだけ】

じゃあなんで諦めずに生きてるのかというと、
それでもここに存在する自分だったり最低限の快感が存在するこの世界を愛してるだけ、
それら以外の目的なんてないと言っても過言ではない
でもそれが何よりも大切で。
自分が嫌いなんて言ってる人もいるけど、ちゃんと毎日生活して自分をある程度幸せにしてる時点で
本質的な意味で嫌いな訳がないんですよね。それは単なる逃げだとは思うけど
そんな自分自身を幸せにする何気ない行為や
生活の糧に生かされてるのは間違いなく
逃げ場なんて一つもなくても、仮面だらけの日常でも、それでも自分は愛してるだけ
逆に言えばそれが生きていく指標にもなりえる、っていう。
そういう強い気持ちが滲み出てる渾身の一曲
頭の中でいろいろこんがらがって訳が分からなくなった時に作用する楽曲でもあります。
何の理屈も理由も建前もしがらみも捨てて、ただ愛してるだけなんだって。
シンプルで人間らしい詞だなあ、とも思います。





歌やサウンドだけ聴けば格好良い曲ですけど
その本質はものすごく余裕がなくて必死にあがいてる曲だったりして
そういうギャップもまたノベンバらしい部分だなあとしみじみ。