オールドゲーマーの、アーケードゲームとその周辺の記憶

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「しゃべるコインマシン」の話

2018年08月05日 18時31分01秒 | 歴史
ジュークボックス以外で人の言葉を発した最も古いコインマシンは何でしょうか。ワタシが思いつく限りでは、「エビスボール」(ひまわり製作所、1970年前後?)という国産ピンボール機が、言葉ではなく笑い声を発していました。これは、「笑い袋」と呼ばれるおもちゃを内蔵したもので、硬貨を投入すると一定時間笑い袋が作動したというものです。


業界誌「アミューズメント産業」1974年4月号に掲載されたエビスボールの広告。ワタシの記憶では、この機械は70年前後頃には既に存在していたように思う。硬貨を投入すると、ゲームスタート時に一定時間笑い声を発した。

「言葉」を発するコインマシンとなると、1974年に発売されたセガのマスメダルゲーム機「FARO」(関連記事:初の国産メダルゲーム機の記憶)が、ワタシの記憶では最古の機械となるのですが、これ以前の例をご存知の方がいらっしゃいましたらご教示いただければありがたく存じます。「FARO」は、ベット受付中に、アナログ録音されたスピーチを再生していました。

マスメダル機は価格設定がある程度高いので、音声再生にかかるコストを乗せ易いのか、他にも「GROUP BINGO(sega, 1975)」(関連記事:セガのマスビンゴゲーム(2) グループビンゴ(Group Bingo,1975))、「BIG & SMALL(Universal, 1976)」(関連記事:初期の国産メダルゲーム機(7) ユニバーサル その2b)、「BLACKJACK(sega, 1976)」など、早い時期からしゃべる製品がありました。ただ、それらはアナログ再生機で、決まったタイミングで、決まったセリフを、決まった順番に再生するだけのものだったので、既にレコードやテープレコーダーが普及していた当時では、特に驚くような特殊効果と言えるものではありませんでした。

1979年、米国のWilliams社が発売したピンボール機「GORGAR」は、デジタルデータ化した人の音声を再生するシステムを搭載し、ゲームの状況に応じて適切な語を適切なタイミングで発しました。この新しい特殊効果は「世界初のしゃべるピンボール」として、プレイヤーのみならず業界にも大きな衝撃を与えました。




GORGARのフライヤー。表紙が特殊加工された豪華な二つ折りで、上が表裏の表紙、下が中の部分。

英語が苦手なワタシはイフェクトのかかった「GORGAR」のしゃべりを殆ど聞き取ることができませんでしたが、ナムコが運営していた渋谷の東急文化会館屋上のゲームコーナー(関連記事:商業施設の屋上の記憶(1) 渋谷)では、ありがたいことにバックグラスに機械がしゃべるセリフを書いた手作りのPOPを貼ってくれていたので、それを読んで、「言われてみればそう聞こえないこともない」と思うことはできました。

ずっと後になって、「GORGAR」は実はたった7つの単語しかしゃべっていないことを知りました。すなわち、
Gorgar、 Speaks、 You、 Beat、 Hurt、 Got、 Me

の7語です。これらを組み合わせて、ゲーム中では、
「Gorgar Speaks」 (ゴーガーはしゃべる)
「You Beat Me」 (お前は俺をやっつけた)
「Me Hurt」 (おれは傷ついた)
「Me Got You」 (お前を掴まえたぞ)
「Me Gorgar Beat Me」 (おれはゴーガー、やっつけてみろ)
などの言葉を、状況に応じて発していました。「Me」を一人称にする言葉があるのは、「GORGAR」が、人語が完全でない異界の怪物という設定だからなのでしょうか。しかし、なんだか、まるで赤塚不二夫さんの不滅の名キャラ「イヤミ」を想起して、ファンタジーの世界がギャグに感じられてしまいます。「ミーはチミを掴まえたざんす」とか。いや、別にいいんですけど。

これは「INTERNET PINBALL DATABASE」というサイトからの情報ですが、「アミューズメントレビュー」という米国の雑誌の1980年1/2月号によると、「GORGAR」の「しゃべる」フィーチャーは、実は標準で装備されたものではなく、オペレーターが$70を支払って取り付けるオプションだったとのことです。そして実際のところ、出荷された14000台のほとんどはこのオプションを付けて販売されたそうです。こうして「GORGAR」は、初の「しゃべるピンボール」としてピンボールの歴史に名を残しました。

Williamsは翌1980年、「Firepower」(これは初めて「レーンチェンジ」というフィーチャーを備えた機種でもある)、「Alien Poker」、「Blackout」、「Black Night」と、立て続けにしゃべるピンボールを売り出しました。

Ballyも、「Squawk and Talk」というサウンドボードを開発し、1980年発売の「XENON」(フライヤーはこちら)を皮切りに、しゃべるピンボールをやはり立て続けに発売しました。実はBallyは、「GORGAR」の発売年と同じ1979年に、「KISS」をしゃべるピンボールにしようとしてプロトタイプまでは作ったものの、最終的にはしゃべらない仕様で製品化しています。発売は「GORGAR」よりも半年ほど早かったので、そこで実現できていれば「初」の称号はBallyが得ていたのに、残念な結果となってしまいました。

ピンボールの御三家の最後のひとつであるGottliebは少し出遅れました。1981年発売の「Mars God of War」(フライヤーはこちら)は、米国Votrax社のスピーチシンセサイザー「SC01-A」を搭載して、同社初のしゃべるピンボールとなりましたが、ワタシはこの機械を遊んだ記憶がありません。Gottliebは同じハードを使って、同年には「Volcano」や「Black Hole」を、翌82年には「Devil’s Dare」、「Caveman」などのしゃべるマシンを発売しました。

「機械がしゃべる」というトレンドは、ピンボールだけでなくビデオゲームにも発生しました。初めてしゃべったビデオゲームは「スピーク&レスキュー」(サン電子、1980)とされています。「タスケテー」「ヒャクテン(100点)」「センテン(1000点)」などのセリフを、チープな音質でしゃべっていました。お粗末なグラフィックで、ゲーム自体もさほど面白いと思えないこのゲームが歴史に名を残しているのは、一にも二にも「初めてしゃべったビデオゲーム」だったからこそだと思います。ことほど左様にこの時代は、「機械が状況に合わせて適切な人語を発する」のは新奇なことでした。

また、1981年には「キング・アンド・バルーン」(ナムコ)や「スペース・フューリ」(セガ)、「スペース・オデッセイ」(セガ)、「アストロ・ブラスター」(セガ)などがしゃべっています。特にセガの3タイトルのしゃべりは非常に明瞭で、現代のゲーム機と比較しても遜色がなく、「セガのビデオゲームはいまいちなものが多いけど、ハイテク技術はすごいらしい」などと思ったものでした。


スペース・フューリ(sega, 1981)のフライヤー。ステージをクリアするたびに単眼のエイリアンが現れ、現代のビデオゲームのスピーチと遜色のない非常に明瞭な音質で、比較的長い人語をしゃべった。

1980年代の中ごろともなると、デジタル技術のさらなる発達もあって、コインマシンが「しゃべる」ことは決して特別なことではなくなりました。わずか数年前には驚異的なテクノロジーだった「しゃべる機械」はすぐに一般化、悪く言えば陳腐化して、今では誰もさしたる関心を示さない、ごく普通の技術となってしまいました。ラジオやテレビが出現した時もそうだったと思うのですが、エポックの出現に立ち会うことができるのはラッキーな事だと思います。次はどんなエポックが現れるのでしょうか。

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2 コメント

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スピークアンドレスキュー (道草亭ペンペン草)
2018-11-08 06:39:16
深夜、客の居ないゲームセンターで「タスケテー300点!」という声だけが響き渡ると妙に気持ち悪かったなあ〜
でもゲームファンタジアにあった「あなたは黒?私は断然赤よ!」というメダルゲームの名前は忘れましたが面白かった。
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Re:スピークアンドレスキュー (nazox2016)
2018-11-09 22:21:06
「あなたは黒?私は断然赤よ!」 ←これ、ワタシも聞いた覚えがありますが、今の今まですっかり忘れていました。機種はワタシも覚えていませんが、確かユニバーサルの機械だったはずという記憶と、「黒か、赤か」と言っているところから、「キング・オブ・キングス」(1977)のサウンドだと思います。「ビッグ・アンド・スモール」(1976)でもそうでしたが、ユニバーサルのメダルゲームのスピーチは、ちょっとお色気を感じさせる女声で、ゲームの進行や説明とは関係しない演出トークを多く喋らせていたように思います。なお、上記2機種については、「初期の国産メダルゲーム機(7) ユニバーサル その2b」でも言及しておりますので、よろしければご笑覧ください。
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