オールドゲーマーの、アーケードゲームとその周辺の記憶

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プッシャーに関する思いつき話(1):プッシャーの起源の謎

2018年09月02日 11時12分23秒 | 歴史

迂闊なことに、拙ブログはこれまで、「プッシャー(Pusher、「コイン・プッシャー」とも呼ばれる)」を殆ど取り上げていないことに、今更ながら気づきました。日本にメダルゲームという業態が発生してから現在に至るまで一貫してこのジャンルを支え続けてきた重要なプロダクトに触れないままでいるわけにはいくまいというわけで、今回から何回かに分けてコイン・プッシャーについて思いつくところを述べてみようと思います。ただ、プッシャーはなぜか古い資料が非常に乏しく、今からこの前途には暗雲が漂ってはいます。

日本では一般に「メダル落とし」などと呼ばるこのゲームは、一定範囲を往復移動する「プッシャー」と呼ばれる移動体によって、プレイフィールド上に投入されたコインを一定方向に押し込み、その先に滞留しているコインの山から入賞口に押し出されたコインを獲得する、というゲームです。

ワタシが初めてコイン・プッシャーを見たのは、1972~3年頃、柿の木坂トーヨーボールに新設されたメダルゲームコーナー(関連記事:柿の木坂トーヨーボール & キャメル)でのことでした。そこには、英国クロンプトン社製の「ニュー・ペニーフォール(New Penny Falls, 製造年不明)」が設置されていたのですが、ワタシは遊び方の要領がよくわからず、試しに投入してみたメダルは滞留しているメダルの上に転がり落ち、貴重なメダルを1枚無駄にしてしまったことを覚えています。


英国クロンプトン(Crompton)社の「ニュー・ペニー・フォール」。1980年頃にsigmaが頒布したフライヤーより。

「ニュー・ペニーフォール」は片面に6人、両面合わせて12人が同時に遊べるプッシャーで、メダルゲーム場の殆どに設置される大人気機種でした。ワタシは、メダルが落ちて興奮する余り台をドンドンと叩いてTILT警報のベルを鳴らしてしまったいい年をしたオヤジグループとか、あるいは高名なジャズミュージシャンが「ニュー・ペニー・フォール」を遊びにしばしばダイエー碑文谷店のゲームコーナーを訪れていた(関連記事:さよならダイエー碑文谷店)など、分別のある大人が熱中しているシーンを何例も見かけたものでした。

この秀逸なゲームは、アイディア自体は単純で、しかもごく簡単な仕掛けで実現できるので、さぞ昔から楽しまれていたのだろうと思うのですが、しかし、ワタシが持っている古いコインマシンの本の中に、その起源に言及しているものはありません。

そこでウェブ上をいろいろと検索してみたところ、古いコインマシンの愛好家が集まる英国のウェブサイトの掲示板に、プッシャーの歴史に関する若干のやりとりを発見しました。しかし、何しろ掲示板の書き込みなので、複数の人の話をまとめようとすると整合性が怪しくなる部分もあり、結局のところ「諸説のうちの一つ」の域を出るものではないので、ここではとりあえず掲示板でのやり取りをそのまま翻訳したものをメモのつもりで記録しておこうと思います。なお、ワタシの翻訳が怪しいと思われる方はこちらの原典を当たってご自身でご確認いただければと思います。もし翻訳に誤りがありましたら、ご指摘いただければたいへんありがたく存じます。


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コインプッシャーの歴史
投稿者:florent 2016年4月21日午後8:39

やあ、みなさん。
私は、私が子供のころに、移動遊園地で見つけて楽しんだゲームについての情報を探しています。それはコインプッシャーとかメダルゲームとかカスケードとかプッセ・ジェトン(フランス語)と呼ばれるものです。
このゲームが初めてできたのはいつ、どこでのことなのか、歴史をご存知の方はいらっしゃいませんか? このゲームが盛んなのはどこですか?
皆さんのご支援に感謝します!

Re:コインプッシャーの歴史
投稿者:sir_arthur_streeb_greebling 2016年4月22日午後2:57

正確な歴史は知らないけれど、1960年代の早い頃からクロンプトン社がそのようなゲーム機を多く出していました。私は「Flippa Winner」(注1と呼ばれる1964年製の機械を持っています。それと同じ時期、彼らは「cake walk」(注2と呼ばれる機械を作っていて、それはプレイフィールドにコインが立つことが稀にありました。多くの機種とメーカーがあり、私はStreets社(注3が一機種、Harry Levy社(注4が多くの機種を作ったと認識しています。それらは今も英国のアーケードではポピュラーで、「Flippa Winner」も、より新しい類似機種と共に今でも見ることが出来ます。私の書き込みを、きっと他の人が補足してくれると信じています。あなたが知りたい情報が見つかりますように。

Re:コインプッシャーの歴史
投稿者:JC 2016年4月22日午後7:46

非常に役に立ちそうな二つの記事が「Arena」にあります(注5。一つはアルフレッド・クロンプトンによって書かれた彼の会社の歴史です。もう一つはカウンタートップと壁付けのミニプッシャーの包括的な概要です。

Re:コインプッシャーの歴史
投稿者:pennymachines 2016年4月23日午前10:17

最初のコインプッシャーは、「Wheel-a-Win」と呼ばれる10人用のゲームで、1963年にクロンプトン・アミューズメントマシン社から発売されました。そのゲームコンセプトは全く新しいものでしたが、大成功とまでは言えませんでした。それは円形のコインプッシャーで、回収穴(注6がプレイフィールドの真ん中にあり、お金を掠め取る仕組みがプレイヤーに簡単に見えてしまう問題がありました。
この経験に基づき、クロンプトンは「Penny Falls」と言うセカンドバージョンを1966年に発売しました。これは直線的に動くプッシャーと隠された回収穴を持ち、大成功を収めました。類似のゲームはすぐに現れ、それらは海辺や家族向けのアミューズメントアーケードの主要設備として残りました。なぜなら、ジム・クロンプトンはこのゲームが成功するとは思っていなかったので特許を取得せず、模倣者に対するプロテクトを行わなかったからです。

(掲示板での主なやり取りは以上。)

【注釈】
注1・Flippa Winner: 断言はできませんが、これはおそらく「Spinna Winna」(Crompton, 製造年不明)のことではないかと思います。「Flippa Winna」は、これまでに何度もリメイクもしくはリニューアルされていると思われる機種で、現在見られる同名機種は、必ずしも昔に製造されたものと同一とは言えません。


「Flippa Winna」と同工異曲と思しき「Spinna Winna」(Crompton、製造年不明)のフライヤー。いつ頒布されたものかは不明。

注2・cake walk: 「cake walk」と言う機種についての記述が、原典では何を言っているのかよくわからなかったのでネット上を調べてみたところ、同機種の画像がヒットしました。この画像の機械は、同じクロンプトン社の「Double Falls」(製造年不明)というプッシャー機とほとんど同じものに見えます。「Double Fall」はプレイフィールドが2段階になっており、上段から下段のプレイフィールドに落ちたメダルが、何かの加減で倒れずに立つということは確かに稀にありました。


「Double Falls」(Crompton、製造年不明)の筐体。1979年頃にsigmaから頒布されたフライヤーより。

注3・Streets社: 英国にあったゲーム機メーカー。おそらく現存はしていないか。1970年代中ごろまでは、日本でもジャパン・オーバーシーズ・ビジネス社が輸入総代理権を取得して、メダルゲーム場に供給していました。それらのいくつかは、ワタシも実際に後楽園や沼津などのゲームセンターで見ています(関連記事:1974年の後楽園)。

注4・Harry Levy社: 英国で今も活動を続けているゲーム機メーカー。日本のジャレコ社は、ここのプッシャー機「CIRCUS CIRCUS」を、1988年から90年代中ごろにかけて販売していたことがあります。

ジャレコ社が1988年に頒布した「Circus Circus」のフライヤー。

注5・Arena: 「Arena」とは、この掲示板を持つウェブサイトが提供する別の有料ページで、アクセスするには5ポンド(有効期間1年)を要するため、ワタシは中を見ていません。

注6・回収穴: ここに落ちたコインが店の収入となる。日本では「親落ち」などと呼ばれています。

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pennymachines氏は、セカンドバージョンとしての「Penny Falls」を1966年に作ったと述べていますが、sir_arthur_streeb_greebling氏はそれ以前に「Flippa Winner」が作られていると述べており、また別のウェブサイトでは、「Penny Falls」の製造年を1963年とか1964年としているものもあって、結局のところどの説を採るべきか、現時点では判断できません。ただ、いずれにせよ、1960年代から始まったのは確かなようで、思いのほか遅いという印象を得ます

コイン・プッシャーというジャンルは、なぜか同じ機種名で何度もリメイクされる例が少なからずあるだけでなく、メーカーまでまたいで同じだったり類似するタイトルがあったりするヘンなジャンルなので、ウェブ上の情報にはノイズが多く、その歴史についての真相はなかなかわかりません。これはもう少し手間をかけて調べる必要がありそうです。

(つづく)


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4 コメント

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Unknown (GF新宿店元バイト)
2021-10-03 23:45:26
ニュー・ペニーフォールズ懐かしい!
実はGF新宿店でバイトする前は、GF大久保店でもバイトしていたんだよね。
大久保店では、求人誌でゲームインストラクターの意味もわからず面接を受け、そのまま採用され働き初めた頃
ペニーフォールズの証明器具の蛍光灯が切れたと言うので、近所の電気屋におつかいに行き
色が違うのを買って来たと指摘されたけど、そのまま使っていたのが懐かしい。
プッシャーゲームはメダルの集計はしているけど、正確なPAYOUT率が量れない事をいいことに、マシンテストと言う名目でポーカーを試す時には、ペニーフォールズからメダルを調達して嗜んでいだけど、ダブルゲームで勝ち続けてしまった時の始末が出来なくて困った事もあったね。
新宿店でもペニーフォールズが存在していて、イベント時には装飾をしたけど、予算が少なく凝ったカラクリは出来なかったな。
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Unknown (nazox2016)
2021-10-06 22:47:33
大久保店は、2006年に、当時既に希少機種となっていたビンゴピンボール機を遊びに行きました。
その大久保店も、その後ほどなくして閉店してしまいましたね。
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Fairground Attaction プッシャー (Unknown)
2023-10-15 09:14:19
ご無沙汰しています。
表の家の道草亭ぺんぺん草です。
実は最近見たミスタービーンズで、プッシャーが登場していました。
上部に Fairground Attraction と書かれていました。この会社の事をご存じでしたらご教授お願いします。必要でしたらスクリーンキャプチャした画像も送れます
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Unknown (nazox2016)
2023-10-15 20:21:42
道草亭ぺんぺん草さん、お久しぶりです。面白い情報をありがとうございます。さっそく検索してみたところ、動画サイトで見ることができました。「Mr Bean's ARCADE ADVENTURE!」と言うタイトルのようですね。

ミスター・ビーンが遊んでいる機械をワタシは存じ上げませんが、「Fairground Attraction(催事場の演しもの)」の名前からして、もしかするとTV撮影用の架空の機械としてビルボードを作っているものかもしれません。

ミスタービーンの左後ろにあるスロットマシンのの背後には、Harry Levy社の「Circus Circus」のトッパ―が見えます。これもプッシャーで、日本ではジャレコが1988年から輸入販売している機械ですので、少なくともそれより遅い時期に撮影されたものであることは見当が付きます。なお、1987年から1990年にかけて、英国に「Fairground Attraction」と言う名のバンドが存在したらしいのですが、それとの関係はわかりません。

英国では、現金の払い出しがあるスロットマシンが子供でも自由に出入りできるアーケードに設置されていると聞きますが、我々日本人にはメダルゲームと同じ概念のものに見えてしまいますね。
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