オールドゲーマーの、アーケードゲームとその周辺の記憶

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スロットマシンのシンボルの話(3) BAR

2019年09月01日 17時59分59秒 | 歴史
さて、前回ではその後のスロットマシンの標準となるフルーツシンボルの登場について述べましたが、今回はその中でもちょっと特殊な「BAR」シンボルについてのメモを残しておこうと思います。


文字通りの「BAR」シンボルの例。上は1950年代から60年代にかけて、セガがMills社のコピーを作っていた時に使用していたBARシンボル。リールの背景が黒色だからか、白黒が反転したデザインになっている。下の三つはBallyの「Super Continental(1970)」より。Ballyは1966年の時点でダブルBAR、トリプルBARシンボルを採用している。

フルーツシンボルは、北米のリールマシンでは1980年代終わりころから姿を消し始め、今では殆ど使われなくなってしまいました(ビデオスロットや欧州ではまだ現役)。しかし、BARシンボルは変わらず健在で、数字の「5」を被せたファイブBAR、「7」を被せたセブンBAR、チェリーを重ねたチェリーBARなど、新たなバリエーションもできています。


現代のBARシンボルが使用されている機械の例。

白黒で描かれることが多かったBARシンボルですが、その始祖となった「Liberty Bell Gum Fruit」に描かれていた商標は色付きでした。白黒になるのは次に発売される「The Operators Bell」からで、商標に書かれる文言も、機械の名称からガムの商品名(風)に変わりました。


「Liberty Bell Gum Fruit 」に使われていた色付きの「Libety Bell GUMFRUIT」シンボル(上)と、「The Operators Bell」で使用された「BELL FRUIT GUM」シンボル(下)。

商標には「COPYRIGHT 1910 MILLS NOVELTY CO. CHICAGO」と書き添えられ、著作権を主張しています。そのためか、フルーツシンボルを模倣した他社も、この商標だけは独自の意匠を採用しているケースが多いです。それでもほとんどの場合白黒で描かれた帯状である点は共通しており、オリジナルと混同されることを期待してのことだったのかもしれません。


これら以外にもいろいろあるが、Mills社以外の商標風シンボルの一例。(1)Caille社「Silent Sphynx(1932)」 (2)Jennings社「Operators Bell(1920)」 (3)Pace社「Kitty(1930年代)」 (4)Wattling社「Roll A TOP(1930年代)」。

上記画像(2)は「Bell Fruit Gum」を標榜しています。この製品を売っていたJennings社は、かつてMills製品のセールスマンだった「Ode D. Jennings」が創立した会社です。Jenningsは1906年に「Industrial Novelty Works」を設立して中古スロットマシンの流通業者となり、既存の中古スロットマシンを再生した機械を売っていたようです。これが権利問題に発展したのかしなかったのかは不明ですが、Jennings社は戦後、Ballyによるスロットマシンの革命が起きるまでは、Millsをしのぐスロットマシンのトップメーカーに登りつめています。

これらの商標シンボルがいつ現代の「BAR」に変化したのか。初の、文字通りの「BAR」シンボルがいつ登場したのかは、スイカシンボルの出現と同じく削除部分についての補足は「スイカシンボルに関するファイナルアンサー」を参照されたし・2020.05.22)まだ判明していません。日米開戦前(1941年以前)に製造された機械にはまだミントの自販機が付属するものがあるところを見ると、その時期にはBARシンボルから商標の性格を捨てきれなかったと思われますので、おそらくは戦後からのことであろうと推測します。なお、アンティークコインマシンの研究家の故リチャード・ブッシェル氏(関連記事:歴史の語り部たちを追った話(1):ウェブサイト「コインマシンの世界」)は、自身の著書「Lemons, Cherries and Bell Fruit Gum」で、「Mills社自身は1940年代まで『Bell・Fruit・Gum』シンボルを使用していた」と述べています。

ところで、商標シンボルの根拠となる「Bell Fruit Gum」とは一体どういう素性のものなのでしょうか。ワタシはこのガムのブランドを、スロットマシン分野以外で見聞したためしはありません。さらに「Liberty Bell Gum Fruit」機をよくよく見れば、その配当表には「The Trust Does Not Manufacture or Control The Sale of BELL-FRUIT-GUM」と書いてあることに気づきますが、これも意味がわかりません。


「Liberty Bell Gum Fruit」機の配当表。赤枠で囲んだ冒頭の宣言は何を意味するものなのだろうか。

というわけでこれについても調べてみたところ、米国におけるチューインガム市場の成り立ちまで遡ることになり、このテーマだけで拙ブログの記事が一本書けそうなボリュームになってしまうので、この話はまた別の機会に記録しておこうと思います。

(つづく)