映画の豆

映画の感想をだらだらと。
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http://heme.sakura.ne.jp/333/index.htm

「華氏119」

2018年11月09日 | ドキュメンタリー

マイケル・ムーア監督のドキュメンタリー映画。
トランプ政権を生み出した原因の分析と、
アメリカ国民へ現状のヤバさを突き付け
待ちの姿勢をやめるよう呼びかけます。
トランプ批判のドキュメンタリーというより
メインは後者で、どちらかと言えば
集客を考えて前者をテーマにした印象。

相変わらず、色調と、音楽と、
画面に写す人物(年齢やルックスや表情や)の匙加減で、
対象を上げ下げするのが上手いです。
冒頭のヒラリー陣営とトランプ陣営の対比とか。
女性を美しく、または男性を美しく撮る監督は何人もおられますが、
マイケル・ムーア監督は
攻撃対象を悪そうに、アホそうに撮るのが名人芸。
(皮肉は若干、丸くなられた気がする)

タイトルはご自身のブッシュ政権批判映画「華氏911」にちなんだもの。
(それともちろんレイ・ブラッドベリの作品と)
数字はトランプ大統領の勝利宣言が出た11月9日を表している。

内容ばれ

民主党は不正をせずサンダースを擁すべきだった。
オバマ大統領時代に、貧困層へ政治不信を植え付けた。
民主党が中庸姿勢をとりすぎている。
統計的には左派が多い筈だが、投票棄権が多すぎる。

以上4点をトランプ勝利の理由としてあげておられました。
(たぶん)
映画の主旨は、現在のアメリカは非常にヤバい状況にあるので、
行動に出ないと本当にヤバい。どれくらいヤバいかというと
ナチス台頭時代のドイツくらいヤバい。
最低限ともかく選挙にだけは行ってくれ!というものでした。

フリント市の水道汚染問題は本当にひどい話で、
汚染を隠蔽するために、
水質調査のデータや血液検査のデータを改竄したり
住民へは汚染された水を供給しながら、大口献金主である
GM工場への送水だけは清浄なものに切り替えた事などは
このドキュメンタリーで知る事が出来て良かったんだけど
でも本当に扱いたかったのは水道汚染問題で、
トランプは人寄せか?というくらいの尺だったので
もう少し短くするか、いっそテーマを変えても良かった気がする。
あと極貧のフリント市とデトロイト水道下水局が
価格交渉で決裂し、給水停止で決着したという事実を省いて
まったく意味なく湖から川に水源を切り替えた風に描くのは
少々作為的編集な気もする。

あとトランプ大統領支持者と監督の対話も
聞いてみたかった。
自分が貧乏なのは移民のせいだし、
女性が大きな顔をしてのさばっていると腹立つし、
同性愛者はやっぱり同じ人間とは思えない、
と考える普通の人がたくさんいる筈。
そういう人たちとの妥協点のようなものが見えたら良かったな。

第二次大戦終結後、ナチス戦争犯罪の捜査に従事し、
ニュルンベルク継続裁判では検事も務められたベンジャミン・フェレンツさんが
今のアメリカはかつての精神を失い、ナチスと同じことをやっている
と嘆かれるところは、なにか申し訳なくて小さくなった(notアメリカ国民…)。
フェレンツさん99歳…。ご自身もルーマニアからの移民でいらっしゃるんだな。
(ご本人が運営なさっているかは分からないけど
ツイッターとタンブラーとフェイスブックのアカウントがある)
http://www.benferencz.org/

フロリダ州の銃乱射事件、
高校生のスピーチがすごくて圧倒された。
感情のままに喋っている訳でも、心の乗ってない技術でもない、
すごいトークだった。
禁止された集会に出る11歳の子が
めっちゃしっかりした意見を持っていて、
アメリカ大丈夫だよ…という気持ちになった。
あそこで終わっていたら希望が持てたんだが、
そういう訳にもいかない。

それと先日の中間選挙で、映画に登場なさっていたラシダ・トレイブさんは
アメリカ史上初のイスラム教徒の女性下院議員になっておられたし、
同じくアレクサンドリア・オカシオコルテスさんも
アメリカ史上最年少の女性下院議員になっておられて、
わー、って思いました。(顔面認識能力が低いので自信ないけど)

フロリダの高校生たちによる銃規制キャンペーンの秘密会議に
ちゃっかり参加している監督、なんのかんのいってすごいよなあと思う。
監督は完璧な正義の味方や聖人ではないけど、
監督のように、困っている人がいたら話を聞きに行き、
立ちあがった人がいたらサポートに駆けつけ、
悪い人がいたらどんな偉い相手でも悪いと言う、
権力者が恐れるような著名人は
今後更にアメリカに必要だと思うので
監督は後継者を持って襲名させるべきだと思う。

マイケル・ムーア監督が、トランプ政権誕生を予測し、
「みんな、気持ちはわかるし俺もヒラリーが嫌いだけど、
でも本当にあいつはヤバいからヒラリーに投票してくれ頼む!」
って労働者層に呼び掛けるために撮った作品
「マイケル・ムーア・イン・トランプランド」をまだ見てないので
なるべく早く見ます…。


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「ヴェノム」

2018年11月04日 | バトル映画

スパイダーマンのヴィラン、ヴェノムのスピンオフ映画。
おどろおどろしいヴィジュアルとCMから、ほぼホラーな内容を予想してましたが、
見てみたら、ラブロマンス映画でした。

評価が割れているのもよく分かります。
最近のアメコミ物映画の、キャラクターの魅力と能力が
最大限生かされるようにタイトに絞った展開と
息もつかせぬアクションの連続や、振り切れたギャグや、
ヴィランとの緻密な頭脳戦などを期待していると肩透かしを食らいますから。
これはラブロマンスなのです。
「あたしヴェノム、16歳」とかそういうモノローグで始まるべきなのです。
なので、運命の相手と出会う前のエディの失恋や挫折が丁寧に描かれるのです。

腕利きの記者であるエディはライフ財団への取材で、
財団が秘密裏に行っている人体実験と被験者の死について言及したため、
職を追われ、恋人も失う。
しかし彼は潜入した研究所で、見た事もない生命体と出会う…というあらすじ。

ヴェノムがエディのことを好きすぎて、
え?は?なんだって?って思っているうちに終わりました。

うしおととら、新一とミギー、ナルトと九尾の妖狐、という
「利害が完全一致している訳ではないけれど熱い」バディものの系譜です。
映画だと「スプラッシュ」とか「シェイプ・オブ・ウォーター」とか
「her/世界でひとつの彼女」とか「ウォーム・ボディーズ」とかああいう
異類婚姻系のやつ。

ラストばれ

最初は侵略の話とか地球出てく話してたのに、いつの間にかずっと居る!
って言ってるんだもんな…どこで気が変わったのさ。
俺たちは負け犬、俺たちは一緒、俺たちは、俺たちは。
ヴェノム、ああ見えて尽くすタイプなので、尽くして尽くして尽くしまくって、
ああいうラストで、もう本当お前…幸せになれよ。

内臓のダメージがひどいから寄生体を駆除しないと…というお医者さん(いい人)に
「話を聞くな!」っていうところ、必死すぎてかわいかった。
ところであそこ、「俺を殺すつもりだったのか」って
エディの心がヴェノムから離れたのだから、次の融合はエディからヴェノムを求めるのが
物語の調和というものなのに、ヴェノムから熱烈に行ってますからねしかもキス。
あそこあれでしょ、ヒロインとエディのキスっぽくしてごまかしてるけど
ヴェノムとエディのキスでしょう…知ってるよ…融合するのにキスする必要ないもんね。

全方位知覚、形状自由自在、頭脳を無視して体が動くアクション、面白かった。
カーチェイスも、衝突しそうな車を、
はいどいてねーってそっと横に除けるのとか、お茶目でもっと見たかった。

ただ、最初に書いた通り、ヒーロー映画としてはすごく出来が良い訳ではない。
おいおい、重要な機密を抱える悪の会社なのに社内カメラやモバイルで
社員の行動をチェックしてないのかよ!?とか
悪の会社を追い詰めるために、
その会社をクライアントに持つ弁護士の婚約者のメールを盗み見る
(そのせいで彼女は職を失う。私なら刺身包丁で肝臓を刺すわ…)
のはまあ話の流れとしても、別に証拠を固める訳でもなく
悪の会社の社長本人に「俺、知ってるもんねー!」って単にベラベラ話すとか、
社長やエディの頭がよくないというよりも、たぶんこれは監督の味なんだと思う。
でもラブロマンス映画だから、そこのところは別にいい。

そうそう、アントマン以降そういう流れになって嬉しい限りなんですが、
元妻の新しい夫がいい人パターン、
今回は元カノの新しい彼氏がめっちゃいい人&スペック高いんですけど、
主人公の俺以外の男は嫌なやつ&クズで、女はみんな主人公に惚れるしかないという
幼稚なドリーム創作とはもうおさらばだ!やったー!

ラストのアニメは、両者の世界は繋がってますよ!ってことなんだろうけど
系統が違いすぎてしかも結構な長さがあるので、映画の余韻が飛んでしまう。
個人の意見ですがやめてほしい。
どうしてもっていうならディズニーショートフィルム形式で冒頭にやってほしい。

エンドロール途中と最後に2映像あります。


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