映画の豆

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「ラストナイト・イン・ソーホー」

2021年12月12日 | ホラー映画
エドガー・ライト監督の新作。
今回は本格サスペンスホラーです。
ロンドンの大学の服飾課に合格した主人公は
都会に出てきて下宿生活を始めるが、
1960年代の美しい歌手の夢を夜ごとに見るようになる。
やがて彼女はそれが夢ではなく現実にあった出来事であると気付く…というあらすじ。

曲のリズムに合わせて主人公と歌手が入れ替わる、
幻覚のような演出が良かった。
鏡像と本体の表現は「パーフェクトブルー」の進化系だった。
テーマは女性への加害とシスターフッドだと思う。
「ハロウィン(2019)」「透明人間」「アンテベラム」「マリグナント」
と、その2つあるいは片方をテーマにするホラー界の流れが確実にあって、
そこのところを論じている評論が読みたいがどこかにあるだろうか。
(「マリグナント」は、彼の描きたかったことは別にあるんだけど、
男性からの加害とシスターフッドの2点をしっかりと盛り込んでいる
ジェームズ・ワン監督の嗅覚はすごい)
見終わったあと、嫌な気分にはならないよう撮られています。
1960年代の再現、音楽、ファッション等々センスよかった。
今回はお得意のユーモアが完全封印だったのは少々残念。

下記は苦手要素注意のため内容に少し触れます。
「身体を褒められたら女性は嬉しいでしょ。
モーションかけられたら悪い気しないでしょ」
と思っているタイプの男性は
序盤から加害者扱いされて不快になるかもしれない。
それと女性は性加害表現がありますのでご注意。
腕力による強制的な性行為ではなく、権力勾配による性行為の強制です。
といっても「最後の決闘裁判」のように挿入・抽挿がはっきり分かるような撮り方ではなく
行為の直前直後の仕草で表現してある。
決闘裁判>>>>>アンテベラム>>>>ラストナイトくらい。
それと統合失調症について差別的な態度のモブが出ます。
女性グループからの陰湿ないじめ描写あり、軽い嘔吐あり。

ラストまでバレ

こういう話、いつも「全員並べて焼き払いたい」って書くんですが
「ヘイ!並べて焼き払っておきやしたぜ!」って差し出されて
話の速さに笑ってしまいました。
彼女の正体については小間使いの話が出たときに察しましたが
サンディが過度に虐待されるミスディレクションに引っかかって
まさか並べてお出しされるとは思わなかった。
全員同じ傷跡があって、サンディのご登場で怯えて
「キャァァァァァァ!」って全員同じポーズになるところは
この映画唯一のブラックジョークでした。
あんな部屋そりゃ霊も出るよ。たぶん私が寝ても見るよ。
まさか隣のフランス料理屋が伏線とは思わなかったな…
でもそんな強烈なニンニクの臭いって本当にフレンチ?餃子屋じゃなくて?

学校に来た繊細な美少女が、恐ろしい目に遭い、
犯人は実は……という流れは、過去にも「フェノミナ」「サスペリア」などがある、
古典的なパターンですが、今どきのホラーが怯える美しい女性を鑑賞して終わらないのは
主人公が真相を知ってもサンディへのシンパシィを持ち続け
抱擁するシスターフッドがあるからだと思う。
主人公をハナからバカにして取り合わない男性警官と
親身なってくれて、心配して訪問してくれる女性警官の対比、
何もされなかったかと尋ねる大家、
自分のシフトの心配しかしないバイト先の男性先輩と
女性店主の対比なども意識的に盛り込まれている。
(学校の友達はいじめっ子だけどね。母の自殺の話をマウントだと感じる感性はすごいね)
結末も主人公が彼氏くんに守られ、救われるものではなく自分の能力で勝ち取っている。
彼氏くんは今風の、とってもいひとでした。

風俗取り締まりの警官さんだけは気がかりです。
常に何かをにおわせるような喋り方するから…。
生還したらもっと要点を言いなよね。

でもあの内容で警官2人が話を聞いてくれるって、
ロンドンは警官が減らされて犯罪増加しているって聞いたけどそうでもないのか?
私の話になりますが、被害相談に行ったら「あなたに原因があるんじゃ?」
って言われて、巡回も普通に断られて終わりましたよJAPAN…。

追記:
権力勾配による性行為の強制って書きましたが
要するに何かというと歌手として就職したのに、売春を強要される話なんですよね。
(枕元のお金がアップになる)それをずるずると続けさせられてしまう。
暴力による性加害シーンは平気で、売春の強制を見たくないという人も
いるかもしれないと思ってどう書いたものか悩みました。この映画は後者なので…。

監督が今回参考にした60年代の英国映画25作をリストアップされているけど
1本しか見てないな…映画を見始めたのって1990年前後くらいだからな。



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