しろみ茂平の話

郷土史を中心にした雑記

「今昔物語」美人に会った話  (京都府伏見稲荷)

2024年06月18日 | 旅と文学

今昔物語には面白い話が多いが、
「美人に会った話」もおもしろい。

生活感がまるでなく、いつも恋や、歌を詠んで暮らしていたのだろうか?

 

・・・

旅の場所・京都府京都市伏見区「伏見稲荷大社」 
旅の日・2014年9月9日 
書名・今昔物語
原作者・不明
現代訳・「今昔物語 宇治拾遺物語」  世界文化社 1975年発行

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今昔物語・ 古山高麗雄


稲荷詣に行き美人に会った話

二月の初牛(はつうま)の日は、古来、上下を問わず京中の人々が、稲荷神社に、参詣して、人出で賑わうのである。


近衛府の舎人どもも、稲荷神社に参詣に出かけた。
中の社の近くまで来ると、参詣に来る人、参詣をおえて帰る人が行き交う中に、えも言えず美しく着飾った女に出会った。
舎人たちは、みだらな戯言を言ったり、あるいは、身を屈めて、女の顔をのぞきこんだりす

重方は元来、好色である。
舎人たちの一行の中で、この女に格別執心したのが、好色の重方である。
重方は女に近づいて、口説き始めた。 
「家にお帰りになれば、ちゃんとした奥方がお待ちになっていらっしゃいましょうに。
行きずりの戯れ心でおっしゃることを真に受けてはおかしうございます」
と女は、可愛らしい声を出す。

 

 

「私は、それはまあ、つまらぬ妻がいさる。
顔は猿のようでな、心は物売女なみの女でして、ま、離婚しようとは思っているのですが、 
当座、綻びを縫ってくれる者がいないのでは、なにかと不便で、ずるずるになっていますが、
しかし、気に入った女性にめぐりあったら、乗りかえようと本気で考えているわけで。」

「本気でおっしゃっているのですか。 戯言をおっしゃっ ているのではございませんか」


「この御社の神もお聞きあれ。 参謡の甲斐あって、あなたのような方を神様が賜わったのではありませんか。
そう思うと胸がいっぱい、うれしくてなりません。
ところであなたは、ひとり身でしょうか。
また、どちらにお住まいですかな」

「行きずりのお方の言葉を真に受けるとは、私も愚かな女でございます。さ、お出かけくだされ。私も失礼いたします」
と言って、女は歩きだした。


重方は、手を合わせて額に当て、烏帽子を女の胸につけるほどに頭を下げて、
「神様、お助けください。そんな殺生な。 つれないことを言ってくださるな。
このまま、あなたの所へ参ります。 
妻の所にはもう二度ともどりませんぞ」

重方は、そう言って、口説いたのであった。
その重方を、烏帽子の上から、女はむずとつかんで、顔をバシンと、山も響くばかりに打った。

重方は、びっくりして、
「これは、なんとなさる」
と言って、女の顔を見上げると、
なんと、これは、妻はないか。

妻に謀られたわけであった。

 

 

 

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