子供の頃、日本の山々は人の手が入っていたので、動物は山奥にいて姿を見ることは珍しかった。
干支で亥年の年なんか、いったいイノシシってどんな山村の、そのまた奥にいるのだろう?
と不思議に思っていたが、今の日本は、イノシシの出ない村や町が珍しくなった。
そんな訳で、少年時代に食べた肉はあまり多くはない。
鴨
畑仕事の帰りに父がつかまえて食べた。家族全員で分けると一切れで、味の想い出はない。
雀
空気銃を持っている人が撃ち落とした雀を焼いて食べた。雀自体が小さくて肉は一口でおしまい。
ニワトリ
養鶏を始めて後、特によく食べた。
ドンガメ(カブトガニ)
腹が減っているので仕方なしに海辺でドンガメを焼いて食べた。
あの悪臭、グロテスクな形。ひっくり返すと何本もある手足が動く。
クジラ
とにかくよく食べた。あの、しわい肉を。
魚屋のしょうやんが売っていた。自宅で食べるだけでは無い、
当時の学校給食でもめやたらに鯨肉は多かった。
羊
畜産で飼っていた羊が死んで、毎日・毎日・毎日・・・・・・、食べつづけた。もうええわ、というだけ食べた。
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(父の話)
犬の肉は戦後すぐの頃、食べる物がないとき食べていた。
捨て犬をつかまえとった。
捨て犬が多ぃかったんじゃ。
猫はいけん、犬はうまかった。
2000年9月10日
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「野火」 大岡昇平 新潮文庫
「猿の肉だ、食え」と言われて、私はその肉の干物を食う。
だが、ある時、それが人間の肉だとわかる。
人間は追いつめられると何でもしてしまう。
殺人すらもだ。
そして、殺した仲間の肉を食う。
生命を生きながらえる。
「さうか。ふむ、お前何か食糧持っているか」
私は首を振った。
「何もねえ。草や山蛭(やまひる)ばかり食ってきたんだ」
「銃もねぇんだな」
「ねえ、ああ、そうだ、手榴弾があった」
「手榴弾」と、二人が同時に叫んだ。
「それがありゃ、魚ぐれぇすぐに獲れる」
「俺は今じゃ永松の銃だけが頼りさ。それで猿が獲れるから、
つまり俺たちは生きてゐられるわけさ」
「そんなに猿がゐるのかねえ、俺はまだ一匹も見たことないが」
その時遠くバーンと音がした。
一箇の人影が駆けていた。
髪を乱した、裸足の人間であった。
緑色の軍服を着た日本兵であった。
これが「猿」であった。
私はそれを予期してゐた。
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