”捕物帳”はどんな話もジャンルとしておもしろかった。
最初は映画。明神下の銭形平次(長谷川一夫)や、黒門町の伝七(高田浩吉)。
次にラジオ。松島トモ子の捕物帳。
大人になって小説。平次、半七、佐七、伝七、その他。
テレビでも、番組名に平次、半七、佐七、伝七の親分名が付いた。
なかでも、テレビの長寿番組としても知られのが、「銭形平次」
主役は大川橋蔵。舟木一夫の主題歌もよかった。
東映の時代劇スターだった橋蔵の代表作となった。
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旅の場所・東京都千代田区外神田 神田明神
旅の日・2022年7月10日
書名・「銭形平次捕物控」
著者・野村胡堂 文春文庫 2014年発行
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BS12チャンネル 2024.3.2
金色の処女
「平次、折入っての頼みだ。 引受けてくれるか」
銭形の平次は、相手の真意を測り兼ねて、そっと顔を上げました。
二十四、五の苦み走った好い男、藍微塵の狭い袷に膝小僧を押し隠して、弥造に馴れた手をソッと前に揃えます。
「一つ間違えば、御奉行朝倉石見守様は申すに及ばず、御老中方にとっても腹切り道具だ。
押付けがましいが平次、命を投げ出すつもりでやってみてはくれまいか」
と言うのは、南町奉行与力の筆頭笹野新三郎、奉行朝倉石見守の知恵嚢と言われた程の人物ですが、不思議に高貴な人品骨柄です。
「頼むも頼まないもございません。先代から御恩になった旦那様の大事とあれば、平次の命なんざ物の数でもございません。
どうぞ御遠慮なく仰しゃって下さいまし」
敷居の中へいざり入る平次、それをさし招くように座布団を滑り落ちた新三郎は、
「上様には、また雑司が谷のお鷹狩を仰せ出された」
「エッ」
「先頃、雑司が谷お鷹狩の節の騒ぎは、お前も聞いたであろう」
「薄々は存じております」
それは平次も聴き知っておりました。
三代将軍家光公が、雑司が谷鬼子母神のあたりで御鷹を放たれた時、
何処からともなく飛んで来た一本の征矢が、危うく家光公の肩先をかすめ、三つ葉葵の定紋を打った陣笠の裏金に滑って、眼前三歩のところに落ちたという話。
それっ、と立ちどころに手配しましたが、曲者の行方は更にわかりません。
後で調べてみると、鷹の羽を矧いだ箆深の真矢で、白磨き二寸あまりの矢尻には、松前のアイヌが使うという『トリカブト』の毒が塗ってあったということです。
「その曲者も召捕らぬうちに、上様には再度雑司が谷のお鷹野を仰せ出された。
御老中は申すに及ばず、お側の衆からもいろいろ諫言を申上げたが、上様日頃の御気性で、
一旦仰せ出された上は金輪際変替は遊ばされぬ。
そこで御老中方から、朝倉石見守様へ直々のお頼みで、是が非でもお鷹野の当日までに、上様を遠矢にかけた曲者を探し出せとのお言葉だ。なんとか良い工夫はあるまいか」
一代の才子笹野新三郎も、思案に余って岡っ引風情の平次に縋り付いたのです。
「よく仰しゃって下さいました。御用聞冥利、この平次が手一杯にお引受け申しましょう」
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