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『戦中派天才老人山田風太郎』を読んでいる

2007年08月30日 | 小説・映画等に出てくる「たばこ」
◎ 午前6時半、いつものように朝刊を開き、山田風太郎さんの死を知った。2回にわたり、日記帳にとりあげさせていただが、はからずもその日(7月28日)に逝去され、昨日、近親者のみで密葬を行ったそうである。私は今朝から、関川夏央さんの『戦中派天才老人山田風太郎』を読んでいる。

◎ 山田風太郎さんの随筆は、朝日新聞の朝刊に連載されたものだから、「いや、驚いた。禁煙運動をちょっとひっかいてみたら、ゴウゴウたる非難の嵐だ。私としてはあらかじめ、『禁煙運動の理由は重々わかっているので、こちらも声を大にしていうわけではないが、何とやらにも三分の理があって』云々と煙幕を張っておいたのだが、そんな三分の理など耳に入らばこそのけんまくである。(P41~P42)」という事態を招いたのも当然であった。
それでも山田風太郎氏は黙っておらず、「シャーロック・ホームズはいつもパイプをくゆらし、コロンボはいつも安葉巻をくわえ、銭形平次はいつも煙管にたばこを詰めているということだ。それは架空の人物ではないか、といわれるかも知れないが、それだけ『考える人』の象徴的な姿として意味を持っている」と念を押した上で、半分の理由は「習慣だからやめられない。」としても、あと半分の理由を次のように述べている。

------私は愛煙家を鼓吹(こすい)するために、引かれ者の小唄のようなイチャモンをつけたのではない。いまやいろいろと老人病を発しつつある身体に、首吊り足をひっぱるように(その首吊り足は私自身なのだからこの形容はおかしいか?)盛大にたばこをのみ、酒を飲んでいるのは、どこかで長生きしたくない望みがあるせいじゃないかと思われるのである。~~73まで生きて、何を言っておるか!------

◎ 要するに、禁煙論者には「健康でいつまでも長生きしなければならない」とする前提があるから、著者は自らが「長生きしたくない望みがある」と表明することによって、一方的に議論を打ち切ってしまったのである。私は、これも立派な見識だと感心させられたのである。(SUNDAY.29.JULY.2001)
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『あと千回の晩飯』(山田風太郎著、朝日文庫)

2007年08月30日 | 小説・映画等に出てくる「たばこ」
◎ 昨今の小説家は政治が好きらしい。しかし、政治などには目もくれずに、黙々と身辺のことを書きつづっている人もいる。いま読みかけているのは、『あと千回の晩飯』(山田風太郎著、朝日文庫)である。本書の33ページから35ページにかけて、「たばこと酒はここ50数年切らしたことがない。とにかく歩いていようが、息する代りにたばこをのんでいる。切れ目がないから1日に何本吸うか勘定したことがない。いまアメリカでは、私宅以外はほぼ全面禁煙にあるらしい。日本でも、町ではあまり大きな顔をしてたばこはのめない風潮になっている。」というたばこに関する記述があり、著者は愛煙家として次のような3つの疑問を表明している。

(1)アメリカがそれほど全国的禁煙運動をやるなら、なぜたばこを大々的に輸出するのか。
(2)自分は60年近くたばこをのんでいる。それもただののみかたではない。尻からケムが出るほどのんでいる。にもかかわらずまだ肺がんにならないのはどういうわけか。そういえば故梅原龍三郎画伯や映画の市川昆監督の写真で、たばこをくわえていないものを見たことがない。それなのに梅原画伯は98歳で大往生し、市川監督は80を越えていても大健在ではないか。モノには何事も例外がある、という説明ではあまり科学的ではない。
(3)これだけたばこのみは人類の的のごとく指弾されているというのに、1994年のJTの調査によると、日本人の成年男子の59%は、たばこをのんでいるという事実だ。「(自分だけは)例外」をアテにしているのか、それとも案外長生きしたくない連中が多いのじゃないかという疑問まで涌く。

◎ さらに、「私もたばこ有害説を頭から否定しているのではない。常識的に考えてケムリを吸って肺にいいわけがない。私の書斎は、いわゆる紫煙のヤニのため、壁も天井も机も書架も飴色に染まっている。じかに煙を吸いこむ肺はどんなになっているが知らん。と、首をひねりながら、きょうも私は盛んにモーモーと紫煙を噴きあげている。」と書いている。山田風太郎さんは、事の次第を承知しながら、喫煙という行為を健康という切り口だけで論ずることに対して、いかにも小説家らしい手法で反論したのだ。なお、男性の喫煙者率を2000年の調査でみると、1994年と比べ5.5%減の53.5%である。(SATURDAY.28.JULY.2001)
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