【357~358ページ】
わしは自分で商売をすることにした。様々な商売に手を出した。何度もだまされ、何度も裏切られた。戦後の人々は戦前の人々とはまるで違う人たちだった。人にだまされた夜、戦争で死んだ戦友たちを思い出し、彼らの方が幸せかもしれないと思ったこともあった。こんな日本を見なくてすんだ彼らの幸福を羨んだ。
しかしそれは終戦直後の混乱と貧困による一時的なものだった。多くの日本人には人を哀れむ心があり、暖かい心を持っていた。自分が生きるのでさえ大変な時にも人を助けようとする人がいた。だからこそ、わしら夫婦もあの悲惨な時代を生き延びることが出来たのだと思う。東京に小さいながらもビルを持てたのも多くの人に助けられたからだ。
本当に日本人が変わってしまったのはずっと後のことだ。
日本は民主主義の国になり、平和な社会を持った。高度経済成長を迎え、人々は自由と豊かさを謳歌した。しかしその陰で大事なものをうしなった。戦後の民主主義と繁栄は、日本人から「道徳」を奪った---と思う。
〔ken〕私は何かと解釈に幅のある「道徳」という言葉よりは、小林秀雄さんが説いていた「常識」が奪われてしまったのだと思います。
わしは自分で商売をすることにした。様々な商売に手を出した。何度もだまされ、何度も裏切られた。戦後の人々は戦前の人々とはまるで違う人たちだった。人にだまされた夜、戦争で死んだ戦友たちを思い出し、彼らの方が幸せかもしれないと思ったこともあった。こんな日本を見なくてすんだ彼らの幸福を羨んだ。
しかしそれは終戦直後の混乱と貧困による一時的なものだった。多くの日本人には人を哀れむ心があり、暖かい心を持っていた。自分が生きるのでさえ大変な時にも人を助けようとする人がいた。だからこそ、わしら夫婦もあの悲惨な時代を生き延びることが出来たのだと思う。東京に小さいながらもビルを持てたのも多くの人に助けられたからだ。
本当に日本人が変わってしまったのはずっと後のことだ。
日本は民主主義の国になり、平和な社会を持った。高度経済成長を迎え、人々は自由と豊かさを謳歌した。しかしその陰で大事なものをうしなった。戦後の民主主義と繁栄は、日本人から「道徳」を奪った---と思う。
〔ken〕私は何かと解釈に幅のある「道徳」という言葉よりは、小林秀雄さんが説いていた「常識」が奪われてしまったのだと思います。