Photo:イエナ市内のショッピングモール Goethe Galerieに鎮座するコスモラマ投影機
今年のゴールデンウィークの休暇旅行の行き先はドイツ。
首都ベルリンを拠点にドイツ国内の主に宇宙に関係した場所を観て周った。
その行き先の一つが、かつての東ドイツ域内のテューリンゲン州に位置する地方都市イエナ(Jena 日本語ではイェーナと表記されることもある)。
イエナは旧東ドイツの光学機器メーカー「カールツァイス・イエナ」の本社が置かれていた街であり、カールツァイス創業の地としても知られる。
そして、ここイエナのカールツァイス・イエナ本社工場で世界初の光学式プラネタリウム投影機「ツァイス1型」が製造されたことから、プラネタリウムの生まれた街として天文宇宙ファンに知られる場所である。
そんなプラネタリウムの聖地を見に行った。
イエナへはベルリンやフランクフルトからドイツ鉄道DBの高速列車ICEとローカル列車を乗り継いで3時間程度で行くことが出来る。
ドイツ鉄道DBが世界に誇る高速列車ICE。
運行速度の速さもさることながら、快適な車内とゆったりとした座席の乗り心地の良さも特徴。
そしてICEでは大半の列車で、日本の新幹線では既に無くなった食堂車が今でも健在。
鉄道で高速移動中に本格的な料理を楽しむことが出来るのも魅力。
七面鳥の煮込み肉ライス添え。
アジア風グリーンカレー。
ビーツとトマトのサラダ。
ベルギーワッフル、アイスクリーム乗せ。
食事を楽しんでいるうちにICEはドイツを縦貫してイエナ方面へ向かって快走!
しかし現在、イエナに直接乗り入れるICEはほとんど運行されていないので、近隣のライプツィヒやハレ、エアフルトといった都市の駅でローカル列車に乗り換えることになる。
イエナへと向かうローカル列車。
ドイツを始めヨーロッパ各国では鉄道の国際的な「上下分離方式」経営が進んでおり、この列車はオランダ資本の会社が所有する車両がドイツ鉄道から線路を借りて走る形で運行されている。
イエナの中央駅であるParadies駅に着いたら、駅裏を流れるザーレ川と反対側の出口から福音教会の塔と近代的なガラス張りの高層ビルの見える方角へと適当に歩いていくと、やがて大きな植物園に行き着く。
この植物園の裏にイエナのプラネタリウム館がある。イエナはとても小さな街なので、歩いて街歩きをしても道に迷う心配はほとんど無い。
カールツァイス・イエナのお膝元だけあって、街角の骨董品店のショーウィンドウにもカールツァイス製品の顕微鏡が…
イエナの街のプラネタリウム「ツァイス-プラネタリウム」
このイエナの「ツァイス-プラネタリウム」は1926年開業で、建屋は歴史的建造物に指定されている。
プラネタリウム敷地内の中庭には、カールツァイス社の経営者の一人でありながら私財をなげうって財団を設立し、同社の社員の福利厚生と権利の保護に尽力した偉人エルンスト・アッベの功績を称える銅像が…
このプラネタリウムの看板にも「エルンスト・アッベ財団」と表記されており、今もアッベの遺した財団の管理下にあることが分かる。
中庭から見渡すプラネタリウムのドーム全景。
館内の通路にはプラネタリウムの歴史を紹介したパネル展示がずらり。
イエナの「ツァイス-プラネタリウム」の投影設備の変遷。
世界各地に存在するカールツァイス・プラネタリウムの紹介では、日本の明石市立天文科学館も!
窓口でチケットを買い(英語がなかなか通じないので結構苦労した…)、水平式の23m投影ドーム内へ。
イエナの「ツァイス-プラネタリウム」は1926年の開業当初は当時最新鋭のカールツァイス社製ツァイス2型投影機が投入され、その後はカールツァイス・イエナUPP 23/7からコスモラマへと代替わりして現在はカールツァイス社のプラネタリウム最上位機種ユニバーサリウムシリーズの8型が使用されている。
また同じくカールツァイス社製のフルドーム全天周映像システム「ベルベット」も装備されており、歴史的建造物のドーム内に最新鋭装置が詰め込まれた姿となっている。
イエナの「ツァイス-プラネタリウム」の“御本尊”ユニバーサリウム8。
ドームの内張りは歴史を経てかなり凹凸が目立っているが、投影には影響せず問題なかった。
ドーム内に置かれたテーブルセットとグランドピアノ。
イエナに限らず、ヨーロッパの各地のプラネタリウムでは投影ドーム内にピアノが置かれているのをよく見かける。
プラネタリウムが単なる「子供の教育施設」にとどまらず、大人も愉しめるエンターテインメントの場という認識が強いヨーロッパならではの光景で、日本人プラネタリウムファンとしてはなんとも羨ましい限り。
さて、この日の投影は…
ユニバーサリウム8を駆使してのイエナ市内から見た今夜と季節の星空解説に続いて全天周映像作品が上映されて合計約1時間という、日本のプラネタリウム館でもお馴染みの投影コースだった。
全天周映像作品は毎日複数の作品がランダムに上映されているようだったが、我々が観た回では世界の宇宙開発史を描いたドキュメンタリー作品で、冒頭いきなりバイコヌール宇宙基地を横倒しで鉄道輸送されるロケットが大写しとなりスプートニク1号が打上げられるわガガーリン少佐がパラシュートで地球に帰還するわ宇宙遊泳を終えたレオーノフ飛行士が危うく宇宙船内に戻れなくなりかけるわ、挙句の果てにはN-1ロケットがバイコヌールの射場で打上げ直後に大爆発するわとソ連の宇宙開発を推しまくった内容で、やたらとマニアックな凄い作品だった!あれは日本語字幕付きでもう一度観たい.
Der Sprung ins All - Trailer (360° Video)
プラネタリウム投影鑑賞後は、中庭を通ってプラネタリウム併設のレストランへ。
本日のスープ。アスパラガスのクリームスープ。
豚肉の骨付きスペアリブステーキ。
ウィーン風カツレツ、シュニッツェル。
デザートの果物のパフェ。
ここも英語はあまり通じなかったが、とても雰囲気が良くてスタッフも親切でいい店だった。
本格ドイツ料理も美味しかった!
食後はイエナの市街地を散策。
壁に黒猫発見!
プラネタリウムの街イエナらしく、宇宙遊泳する宇宙飛行士を描いたビル壁画も。
イエナ市内はトラムが縦横に走っているが、日本の熊本市電の路面電車でも使われている超低床電車と全く同じ形式の車両が走っているので何となく親しみを感じる。
イエナ市街地中心部にあるショッピングモール Goethe Galerieには、イエナの「ツァイス-プラネタリウム」で1996年まで使用されていた先代の投影機コスモラマが展示されている。
コスモラマの台座にはカールツァイス・イエナのメーカーズプレートも掲げられたままになっている。
このショッピングモール Goethe Galerieは、かつてのカールツァイス・イエナ本社工場をリノベーションの上で再開発して開業した。
1923年8月にはこの本社工場屋上に設置された16mドームで世界で初めての光学式プラネタリウム投影機であるツァイス1型投影機のテスト投影が行われた。まさにこの場所が、プラネタリウムがこの世に生まれて産声を上げた聖地である。
ショッピングモール Goethe Galerieにほど近い場所にある光学博物館。
ここは「ツァイス-プラネタリウム」と共通の入場券で見学することが出来る。
光学博物館の館内にはカールツァイス社の創業以来の貴重な資料が並ぶ。
もちろん、カールツァイス・イエナのプラネタリウムの資料が所狭しと展示されたフロアもある。
説明は全てドイツ語だが、展示物を見ているだけでも楽しい。
プラネタリウムの生まれた街、イエナ。
星好き・宇宙好きな人なら是非一度は訪れてみて欲しい。ドイツの文化の香り漂う小さくて素敵な街だった。
プラネタリウムの展示がすごい。行きたい場所が増えて困ります。どうしましょう。
明石の写真は震災前のもの。ずっと以前から紹介頂いているのでしょうね。
カールツァイス・イエナのプラネタリウム投影機導入事例として日本代表で明石市立天文科学館が取り上げられているのは嬉しいですね!是非今後はブラック星博士にもイエナに出張して悪事を働いて貰わないと(笑)