福田の雑記帖

www.mfukuda.com 徒然日記の抜粋です。

医師と患者関係(5)病気を診ずして人を診よ・・私には出来ない

2012年09月05日 09時05分46秒 | 医療、医学
 医師と患者関係が様変わりして医師は病気しか診てくれなくなった。このようなことが言われるようになったのはいつ頃からなのだろうか。

 患者は病をかかえる一人の人間である。だから、医師は病気を診るだけでは不足であり,病に罹患して困っている人間そのもの、また、病の背景とか患者の現在の置かれている立場,先のことも含めてそっくり診るべきだ、と言われている。全人的医療・・というような言葉もある。一見、理想の医療のように思える。多分、よりよい医療の在り方として正しい行き方なのであろうが、私には受け入れられないし、出来ない。

 私は,上記のような項目の一部は医療に包含された当たり前の事であって、取り立てて言うべき事ではないと思う。診ると言うことは見ると言うことではない。自分は今までその様に対処して来た。しかし、講演会などで,あるいは文献等で取り上げられる高名な医師の方々が述べるような全人的医療は大きく異なるようだ。それらを私が求められるならば、私には出来ないと言うしかない。大体、本人が考えるべき領域であって、医師が担うべき領域ではない,と思う。当然アドバイスはする。

 私は医師であるが、「医師といえども自分は患者とは他人同士,わかり合える筈はない。病気に関連した範囲なら多少は分かるだけ」,を前提にして診療を行っている。

 出典は忘れたが、以下のエピソードを私はよく思い出し,納得している。
 ある老齢の僧が炎天のもとで粗末な身なりで寺院の庭を掃いていると、尋ねてきた若い僧が、「師のような高僧がどうしてこのような暑い時に、自分で掃除などなさっているのですか?若手に任せてはいかがでしょう」と言った時に、「人、これ我に非ず。時、我を待たず・・」と答えたという。とてもいい言葉である。

 私は「人、これ我に非ず」であって、生まれ落ちた後は親兄弟といえども独立した個人で,血縁で切っても切れない関係にある事に加えて、生活を通じて価値観や利害を共有しているだけ,と思う。ましてや患者とは他人同士であって、たまたま病気を介在に医師と患者という狭い範囲の契約関係が出来た仲というだけである。それも,別に私でなくとも医師ならいくらでも居る。偶然私が担当することになっただけである。診療契約は医師の責任は大きく、求められれば対応が必要であるが患者側には責務はない、という変な関係で成り立っている。患者である限り医師として関心は持たざるを得ないが,基本的に患者個人には殆ど興味がない。出来ればよりよい医師を見つけて勝手に私から離れていって欲しいと思う。
 
 こんな私だから、全人的医療などはじめから無理である。この辺、私は誤解されている。
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