福田の雑記帖

www.mfukuda.com 徒然日記の抜粋です。

妊産婦死亡率(2)古い時代の出産の記録

2010年04月18日 10時06分37秒 | 医療、医学
 産婦人科医にとっても、突然の大量出血は産婦の生命に関わり、肝を冷やすことはままあることだという。対応の仕方によっては産婦人科医としての生命すらつぶされてしまう。

 歴史中の人物で、お産で命を落とした例は枚挙に暇がない。多方面から研究され文献が出版されている。宮廷貴族社会の生活史の記録でもある『栄花物語』は平安時代後期の古典で女性の手になる物語風史書で,全40巻、1092年までの2世紀にわたる時代についての記述があるとされている。
 この中に、村上天皇中宮安子から白川天皇女御道子まで47名の妊娠・出産が記述されていて、中宮安子を筆頭に後朱雀中宮まで11名が妊娠・出産に伴い死亡している。死亡率は実に23.4%にもなるという(佐藤千春 お産の民俗 日本図書刊行会 1996)。

 私はそれほど文献を集めて読んだわけではないが、手に入れた最も古い時代を記述した文献がこれであった。この当時の医療はどのようなものであったかは想像も出来ない。身分の高い高貴とされる方々の環境だから記述として残っており状況を類推できるが、一般庶民の出産は一層危険であったと思われる。

 これから間接的に知ることが出来るのは人間の妊娠出産が基本的にいかに危険なものなのか,ということである。妊娠中の各種の合併症、出産困難、出血だけでなく,出産後の感染症に対しても当時はなすすべは無かったはずである。

 当時、若い人たちの死もそれほど珍しくはなかったと思われるが,妊娠出産に関連した産婦は成仏できずにこの世をさ迷うと言った民話や言い伝えもある。特に出血死した産婦の死は悲惨だったと思われ、亡霊として下半身血まみれの状態で現れ、「私の赤子を抱いて欲しい・・」と赤子を差し出すと言う様な民話は各地に伝わっている。そして、成仏し得なかったそれら亡霊は次の妊産婦にとりつき妊娠出産の邪魔をする、とされ死亡した妊産婦については特別丁寧に弔ったとのことである。

 今、世界的に貧富や文化の差は著しい。貧困国、途上国の状況は特別な閉鎖環境にある部族とかを除けばわが国の平安時代の出産と同じレベルではないと思うが、衛生思想、医療の参加によってさらに著しく改善させられる分野である。国連の努力の成果を期待したい。
 それと共に、わが国が到達している妊産婦の低死亡率は妊産婦にとっても医療関係者にとっても喜ばしいことであるが、これを決して当たり前と考えてはならない。
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