わ! かった陶芸 (明窓窯)

 作陶や技術的方法、疑問、質問など陶芸全般 
 特に電動轆轤技法、各種装飾方法、釉薬などについてお話します。

新釉の話38 自分で釉を作る7 三角座標3

2013-09-15 22:05:51 | 新釉(薬)の話

3) 三角座標は釉の三要素をどの様に調合すると、どの様な釉が出来るかが解かる様になって

   います。しかし、三要素の材料に変化があると、その結果も自ずから変化します。

 ③ 基礎釉によって色釉の発色が異なります。

    この項目に付いては、 当ブログの「新釉の話22~25 色釉1~4」ですでにお話しています

    のでそちらを参照して下さい。

4) テスト焼きの注意点。 調合した釉はテスト焼きをして確かめる事になります。

   いかに規則的に調合しても、テスト焼きの方法を失敗すれば、その結果を正しく知る事が

   出来ません。

   ① 焼成温度を設定しその温度で焼成する。

      釉を調合するに当たり、予め焼成温度を有る程度予想しているはずです。その温度で焼成

      する事も大事ですが、ある程度余裕を持った温度(若干高目)で焼成する事です。

      焼成で失敗するとは、釉が十分熔けない事です。透明、乳濁、マットなどになるかどうか、

      以前の問題です。高目の温度で十分熔けている事が確認できれば、その状態から、熔け

      過ぎかどうか判断できます。又流れ過ぎる場合であれば、最初の予想温度でも良い結果が

      得られると思われます。

   ② 同じ調合の物でもテストピースは複数個作り、窯の各地に置いてその焼き具合を比較

      します。大きな窯である程、窯の中の雰囲気や温度分布にバラツキが出易いです。

   ③ 一度に複数の調合した物は同じ窯で焼く事。窯焚きは一回毎に違いが出る物で、前回の窯と

     次回の窯では、釉の熔け具合や、発色の出来上がりに差が出るのが普通です。それ故

     同じ条件の窯で焼成しないと、その調合結果の比較が出来ません。

   ④ 良い調合を見出せたら、その調合の量を増やして再度焼成します。

     最初に調合する量は100g未満で十分ですが、ある程度良い結果をえた場合には1Kg

     程度の量を作ります。 釉の作り方は次回にお話する予定ですが、少量の場合と量を多く

     した場合では、結果が異なる場合が結構多いものです。    

5) 三角座標は釉のみでなく、他の項目にも役立つ方法です。

  三種類の要素を含む場合、その割合をどの様に配合(調合)したら良いかを決める為の、テスト

 (実験)方法に利用できます。

 ① 例1 異なる粘土を調合して、ご自分の望みの土にブレンドして、仕上げる際にも、三角座標は

    利用できます。初心者であれば、市販の土で十分対応可能かも知れませんが、経験を積むに

    従い、ご自分に合った土が欲しくなる事も稀ではありません。その際、手持ちの数種の土を

    ブレンドする事が多いです。

    土には、色、粒子の細かさと荒さ、轆轤挽きのし易い土、細工向きの土、焼成温度範囲、

    焼き締まりの大小、亀裂の有無、割れやヒビの発生度合い、釉の載りの良し悪しなどその土

    特有の性質があります。又作品の形状によっても土を選ぶ必要もあります。

    三角座標を使って配合(調合)すれば、好みの土を見付ける事も可能です。 

    尚、 作る量は最低1Kg程度は必要です。   

 ② 例2 白化粧土をご自分の土に合う様に調合したい場合にも利用可能です。

    化粧土に使う材料として、カオリン(粘土材料)、珪石(ガラス材料)、長石(媒熔剤材料)を

    選ぶとすると三角座標に当てはめ、調合後に、素地掛け後や、素焼き後、更には本焼き後の、

    素地からの剥がれ、釉との相性、化粧土の「ヒビ割れ」など、多くの項目で比較検討し使用

    可能かどうか見極める事が出来です。

    尚、化粧土に付いては、後日お話する予定です。

以下次回に続きます。

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新釉の話37 自分で釉を作る6 三角座標2

2013-09-13 21:29:33 | 新釉(薬)の話

2) 三角座標を使った灰釉の調合。

  ・ 使用する釉の三要素は、長石(福島長石、平津長石、三河長石など)と土灰(又は柞(いす)

   灰)に藁(わら)灰です。 注: 柞灰とは、鉄分の少ない灰で、鉄分を嫌う釉に使います。

  ・ 正三角形の頂点Aに長石100%と土灰0%を、底辺左側の角をBとし、藁灰100%と長石0%

   とし底辺右側をCとし、土灰100%と藁灰0%とし、各辺を10等分し各辺に平行に線を引いて

   グラフを作ります。

 ・ 灰には天然の物と人工的に作られた灰があります。前者は収穫時期や土地によって成分に

  ばらつきが有り、釉にも変化があります。それ故、陶芸作家が好んで使います。

  後者では、成分が一定にできますので、釉のばらつきは少なく、その分面白味が少ない様です。

  灰釉の特徴として、焼成温度幅が広い事が挙げられます。

◎ この調合での実験例は多く、ある程度の結果が出ています。以下例を挙げます。

① 志野釉調: 完全に熔融せず、光沢も鈍く泡もやや多い釉です。

 ・ 長石80% 土灰20%  ・ 長石70 土灰20 藁灰10  ・ 長石70 土灰20 藁灰10

② 鵜の糞、月白釉の基礎釉向き: 泡を含む失透性を帯びた光沢のある釉になります。

 ・ 長石50% 土灰30% 藁灰20%  ・ 長石60 土灰30 藁灰20

③ 黄瀬戸釉、御深井釉などの基礎釉向き: 泡が無く透明性が強く、光沢のある釉。

 ・ 長石40% 土灰60%   ・ 長石30 土灰60 藁灰10

④ 白萩、藁白風の基礎釉向き: 失透性があり、強い光沢のある乳濁釉。

  ・ 長石30% 土灰20% 藁灰50% ・ 長石40 土灰20 藁灰40

⑤ 結晶釉に向く釉: 光沢が有り、透明性のある結晶釉となる。

  ・ 長石15%  土灰70% 藁灰15%

⑥ 艶消し、伊羅保(イラボ)風に向く釉: 縮れを起こす場合も有ります。

  ・ 長石5%  土灰90 藁灰5%

3) 三角座標は釉の三要素をどの様に調合すると、どの様な釉が出来るかが解かる様になって

   います。しかし、三要素の材料に変化があると、その結果も自ずから変化します。

 ① 長石を変化させる。

  「長石の種類を変えると釉の性質が変化する。」とは昔から言い伝えられて来た言葉です。

  長石には、以下の種類があり、その成分も異なります。およその成分比を記載します。

   但し、実際には、各種長石の複合体のものが多いようです。

  ) 正(カリ)長石: 一般的に使用される長石で、福島長石が著明です。

    福島長石: SiO2(62.5%) Al2O3(20.0%) K2O(11.3%) Na2O(3.7%) その他

  ) 曹(ソーダ)長石 : SiO2(68.7%) Al2O3(19.5%) Na2O(11.8%)

  ) 灰長石: SiO2(43.2%) Al2O3(36.7%) CaO(20.1%)

 ② 媒熔剤を替えると三角座標に於ける釉の状態も変化します。

  ) 前回取り上げた例では、媒熔剤を石灰石:酸化亜鉛=6:4 としましたが、

     石灰石:炭酸マグネシウム=6:4 とすると広い範囲でマット釉に成ります。

     石灰石: 炭酸バリウム=6:4 とすると透明釉に成りますが、座標の周囲ではマット釉に

       成ります。

  ) 釉の熔ける範囲も変化します。焼成温度範囲が広がる場合と、狭まる場合があります。

     一般に、多くの種類の媒熔剤を補助剤として添加すると、温度範囲は広がります。

 ③ 基礎釉によって色釉の発色が異なります。

以下次回に続きます。  

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新釉の話36 自分で釉を作る5 三角座標1

2013-09-11 21:34:19 | 新釉(薬)の話

前回までに釉の三要素に付いて述べましたが、これらの原料を使って釉を作る際、混合比率によって

釉に大きな違いが出ます。

1) 三角座標とは。

   混合の比率によって、透明釉や失透釉(乳濁、マット)や、釉の熔ける温度に差が出ます。

   この三要素をどの様な割合で混合すると、どの様な釉に成るかを確かめる方法が三角座標を

   使う方法です。尚三要素とは、ガラス質を作るシリカ成分(二酸化物、酸性元素)と、釉を熔け

   易くするアルカリ類(媒熔剤、一酸化物、RO又はR2O)、 釉を安定化するアルミナ類(三酸化物

   中性元素とも言います)です。

  ① 釉の原料を選ぶ。

    上記三要素は純粋の物ではなく、これらの元素を含む複合物を使う事に成ります。

    例えば、シリカ成分には珪石を使い、アルカリ類には石灰(カルシウム)や酸化亜鉛(亜鉛華)

    等を、アルミナ成分とシリカ成分には長石を使います。

  ② 三角座標を作る。

   ) 正三角形を描き、頂点をAとし、底辺左側をB、右側をCとします。

   ) 頂点Aには長石を、Bにはアルカリ類を、Cには珪石とします。

      頂点Aは、長石100%であり、珪石0%を表します。同様にして頂点Bはアルカリ類 

      100%で、長石0%を表し、頂点Cは珪石100%で、アルカリ類0%を表す座標に成ります

   ) 三辺を10等分し各辺に対して平行線を引くと、55個の小さな三角形が描けます。

      必要な事は三本の線が交差した部分です。即ち小さな三角形の頂点部分66個です。

   ) この交点部分は三要素の配合割合を示し、三要素の合計が100%になる様に成って

      います。但し、その割合が重量比、又は容積比と成りますが、一般的には重量比を使います

      例えば、作る釉を100gとすれば、最小単位は10gとなります。(10等分してある為)

      尚、灰釉(長石、わら灰、土灰を使用)の場合、容積比で調合する事もあります。

  ③ 釉の調合。

     上記三角座標を用いて調合しますが、最初から熔けないと予想される調合は試す必要は

     有りません。一般的には以下の範囲内で試します。

    ) 長石は10~70%の範囲内。

    ) 石灰石と酸化亜鉛の混合物では40~60%の範囲。

    ) 珪石とはカオリンの混合物は0~60%の範囲。

  ④ 上記の様な調合はすでに数多く試されている為、おおよその傾向が結論付けられています。

     それ故、新たな三要素の原料を使用する場合には、上記の三角座標で調合して下さい。

     すでに判明している事とは、約1230℃で焼成した場合、良好な釉に成るのは、以下の配合

     比です。

   ) 透明光沢釉として良好な調合。合計で100%になる。

        正(カリ)長石  石灰石  酸化亜鉛  珪石  カオリン

     a)     60%   18%   12%    7%   3%

     b)     50     18    12     14    6

     c)     50     12    14      6    9

     d)     40     18    12     21    9

   ) 良好な半マット釉。

     a)     50     30     20     0     0

     b)     40     30     20     7     3

     c)     30     30     20    14     6

   ) 良好な乳濁釉。

     a)     60      6      4    21     9

     b)     50      6      4    28    12

    参考資料:「焼き物実践ガイド」 樋口わかな著 誠文堂新光社発行。

以下次回に続きます。

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新釉の話35 自分で釉を作る4 釉の三要素4(アルミナ)

2013-09-09 21:24:00 | 新釉(薬)の話

 ③ ガラスを安定化させる物質。

   三酸化アルミニウム(Al2O3、アルミナ)は、釉の中に必ず入っている物質です。

   今までお話した様に、釉のガラス質の主材料であるシリカ(SiO2)は、網目構造をしています。

   シリカが熔けてガラス質に成るとは、この網目構造の鎖を切る事であり、媒熔剤を添加する事で

   より低い温度で熔かす事ができます。

  ) 壊れた網目構造を修復するアルミニウム。

    一度切れた網目構造の鎖を繋ぎ直すのが、アルミニウムです。アルミニウムの働きは以下の

    通りです。

   a) 鎖を繋ぐ事で熔ける温度を上げます。強度的にも硬い釉となり、機械的強度を増し、化学的

     にも強くなります。

   b) アルミナ成分を増やすと、釉の粘度が上がります。その結果、他の元素の結晶化を防ぎ、

     釉の透明度を上げます。 この場合のAl2O3:SiO2=1: 7~8(モル)程度です。

     アルミナ成分を少なくすると、結晶が成長し易く成りますが、同時に粘度も下がり、熔け過ぎる

     場合には、釉が流れ落ちます。

   c) アルミナ成分が更に増え(Al2O3:SiO2=1: 3~6程度)ると、微細な結晶が発生し

     マット状になります。

   d) アルミナ成分は、表面張力を大きくする働きがあり、「縮れ現象」を起こし易いですので、

     注意が必要です。

   e) マンガンピンク釉を作る。二酸化マンガンと組み合わせ、還元焼成すると、ピンク釉を作る

      事が出来ます。

  ) アルミナ成分は以下の物質から取ります。

    a) 水酸化アルミニウム。

       粒子が細かく、沈殿防止剤としても有用です。釉や素地に良く付着し、他の元素との反応も

       良好な為、広く釉にも利用されます。

    b) アルミナ(Al2O3)。上記水酸化アルミナを300℃で焼いて作った物で、純度の高い酸化

       アルミニウムとなっています。

    c) カオリンには40%のアルミナと、46%の二酸化珪素、14%の結晶水を含んでいます。

      それ故、三要素のアルミナとシリカを使わずに、カオリンのみで釉を調合する場合もあります

      尚、カオリンを使う利点として、粒子が細かく軽い為、釉の沈殿を遅くします。

      更に、可塑性がある為、素地と密着する釉を作る事が出来ます。

      但し、粒子が細かく、可塑性がある事は、収縮率が大きい事を意味し、施釉後に、釉めくれ

      などを起こし易いです。

    d) 長石類。長石の種類(正長石、カリ長石、ソーダ長石など)によって、成分に違いが有り

       ますので、どの種類を使うかによって、釉に差がでます。

       釉の参考書などには、その成分が載っている事が多いですので、使用時には、参考に

       して下さい。

 尚、釉の原料として昔より草木灰が多く使われています。現在でも盛んに好んで使れています。

 灰に付いては、後日お話します。

以上で、釉の三要素の話を終わります。   

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新釉の話34 自分で釉を作る3 釉の三要素3(媒熔剤2)

2013-09-08 16:57:04 | 新釉(薬)の話

 ② 熔ける温度を下げる物質。(前回の続き)

  ) アルカリ土類の働きと性質。     

    b) 酸化マグネシウム(MgO)の働きと性質。

     イ) マグネシウムはカルシウムと共に使いますが、カルシウムより少量で有効な媒熔剤と

       成ります。

     ロ) 少量使用の場合には、光沢釉に成りますが、使用量が増えるに従い、熔ける温度は

       上昇し微細結晶が生成され、1200℃以上でマット状になります。

       但し、ジルコンや酸化錫の効果よりやや劣ります。

     ハ) 熱膨張係数が小さく、貫入を減らす事が出来ます。

        釉の粘度に影響を与えません。更に、表面張力を大きくする結果、釉の縮れ(ちぢれ)

        現象を起こします。

     ニ) 機械的強度を上げ、磨耗に対して強く、建築材料の「タイル」等に使われています。    

     ホ) マグネシウムを含む釉は、酸化コバルト添加で青から紫色に、酸化クロムでオリーブ

       緑色に成ります。

     ヘ) マグネシウムを含む原料として、マグネサイト(MgCo3)、ドロマイト(CaCO3・MgCO3)

       タルク(滑石、3MgO・4SiO・H2O)等が有ります。

    c) 酸化バリウム(BaO)の働きと性質。

     イ) 少量の使用の場合、釉の粘度は低くなり、透明感が増し光沢も強くなります。

     ロ) 多量に使うと、結晶が生じ絹の様な質感を持つマットに成ります。

     ハ) バリウムの添加は釉の熔融温度範囲を狭め、化学的な耐久性も弱くします。

     ニ) 他の金属との組み合わせで、色調が変わります。

        バリウム釉に酸化クロムを添加すると、黄色味の掛かった緑に、酸化コバルトでは紫に、

        銅では、緑青色に成ります。

     ホ) 酸化バリウムは毒性のある炭酸バリウム(BaCO3)から取るのが一般的です。

        炭酸バリウムは1000~1200℃で分解し酸化バリウムに成ります。

        分解の際、CO2を発生させる為、釉に「ブク」や「ピンホール」が出来易く、気泡が釉に

        閉じ込められると、失透する事もあります。

    d) 酸化亜鉛(亜鉛華、ZnO)の働きと性質。

      イ) 亜鉛は添加量によって種々の様相を呈します。

        ・ 少量添加すると、釉の融点を下げると共に、釉に光沢を与え粘度を下げます。

        ・ やや多くすると、分相による光沢のある乳濁釉を作る事が出来ます。

        ・ 多量に添加すると、光沢の無いマット釉に成ります。

        ・ 過剰に添加すると、亜鉛結晶を生じます。但し、1150~1100℃の範囲で徐冷

          する必要があります。 

      ロ) 熱膨張率を下げますので、釉の貫入を抑える働きがあります。

      ハ) 表面張力を大きくしますので、釉の縮れ(ちぢれ)を発生させる働きになります。

      ホ) 機械的、化学的強度を増します。又、亜鉛釉に酸化クロムは合いません。

         即ち、クロムの緑は緑掛かった茶色になります。

      ホ) 酸化亜鉛は揮発成分を含む為、粉末を850~1230℃で焼いてから使います。

         亜鉛華として市販されているのは、この状態の物です。

    e) ホウ素(硼素)の働きと性質。

       釉の原料としては硼砂、メタ硼酸ナトリウム、酸化硼素(硼酸)などから取ります。

      イ) 高火度釉では、融点と粘度を下げ、光沢を増します。

      ロ) 他の元素の結晶化を妨げ、釉の透明度を増します。

      ハ) 釉の表面張力を小さくし、機械的強度を増します。

 ③ ガラスを安定化させる物質。

以下次回に続きます。

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新釉の話33 自分で釉を作る2 釉の三要素2(媒熔剤1)

2013-09-06 15:54:46 | 新釉(薬)の話

前回お話した様に、二酸化珪素(SiO2)は、ガラスの材料です。

媒熔剤(熔剤)は二酸化珪素と化学反応を起こし、釉を熔け易くします。

この化学変化を「共融(きょうゆう)反応」といいます。一般に媒熔剤の添加量を増やすに従い

熔ける温度は下がりますが、ある一定以上の量を超えると、逆に熔け難くなります。

この最も低い温度を「共融温度」と呼び、この時の媒熔剤と二酸化珪素の比率を「共融点」と

いいます。

◎ 媒熔剤は、一種類よりも数種類混合せて使った方が、融点を下げる事ができます。

 最低でも三種類は必要です。

本日の本題に入ります。

 ② 熔ける温度を下げる物質。(前回の続き)

 ⅰ) アルカリ元素の働きと性質。

  a) 酸化リチウム(LiO)の働きと性質。

   一般にリチウムの添加量は、6~10%程度です。

   イ) 鉛(なまり)を使う事の無い現在では、リチウムは最強の媒熔剤の一つです。

   ロ) 粘度を下げる働きが有り、釉や素地からのガスを抜け易くし、ピンホールの

    発生を抑えます。

    又、冷却中に余分な物質を析出し、流動性も手伝い結晶を作り易いです。

   ハ) リチウムは他のアルカリ類よりも膨張係数が少ない為、貫入の入るのを防ぎます。

   ニ) 釉の表面張力を小さくする為、釉の縮れ(ちぢれ)を防ぎます。

   ホ) 酸化コバルトや酸化銅と結合し、釉に色を付ける事が出来ます。

    コバルトで紫色に、酸化(又は炭酸)銅で緑色に成ります。

  b) 酸化ナトリウム(Na2O)の働きと性質。

   イ) アルカリ3元素の中で、一番膨張係数が大きく、釉に貫入が入り易い

    ですので、貫入釉に使います。

   ロ) 釉の粘度(粘性)を下げます。

   ハ) 釉の熔ける温度範囲を狭める為、焼成に苦労します。

   ニ) ガラス質の物理的(機械的)強さや、化学的強度を少なくします。

   ホ) ナトリウム(ソーダ)の多い釉では、酸化(炭酸)銅でトルコ青に、

    二酸化マンガンで茶色から紫色になります。

   ヘ) ナトリウムとカリウムを含む材料は、ほとんどが水溶性の為、直接釉に

    使えません。

    そこでソーダー長石(曹長石)を使いますが、ナトリウムとカリウムが合計で、

    11% 程度含まれています。 曹長石: Na2O・Al2O3・6SiO2

  c) 酸化カリウム(K2O)の働きと性質。

   イ) カリ長石や正長石から得ます。

    ソーダ長石より温度範囲が広く、カリ長石は1200℃程度から熔け始め、

    1500℃になっても流れません。 その為、高火度陶器釉に必要な材料です。       

   ロ) 釉の粘度を下げます。熱膨張係数が大きく、貫入を促進します。

  ⅱ) アルカリ土類の働きと性質。       

   a) 酸化カルシウム(炭酸カルシウム、石灰石)

    原料として炭酸カルシウム(CaCO3)を使いますが、750~900℃で熱分解し、

    酸化カルシウム(CaO)になりますので、釉としてはCaOを利用する事に

    成ります。

  ・ 釉には石灰石が安価である為、多く使われています。又比重が小さい為、沈殿防止

   として 働きます。

   その他にドロマイト(CaCO3・MgCO3)、骨灰や燐酸カルシウムがあります。

   イ) 酸化カルシウムの融点は大変高く、2572℃ですが、二酸化珪素との共融反応に

    より、1160℃以上で熔解します。

   ロ) カルシウムが多過ぎると、微細な結晶を生じ、マット釉になります。

   ハ) アルカリ元素に比べ、熱膨張率が小さい為、貫入を抑制します。

   ニ) 釉に機械的強度を増し、磨耗にも強くなりまし、化学的強度も増します。

   ホ) 温度上昇と共に、急激に粘度(粘性)が小さくなり、流れ易く成ります。

   ヘ) 他のアルカリ類と異なり、呈色に影響を与えないのが特徴です。

  b) 酸化マグネシウム(MgO)の働きと性質。

以下次回に続きます。     

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新釉の話32 自分で釉を作る1 釉の三要素1

2013-09-05 14:33:49 | 新釉(薬)の話

市販の釉でなく、自分で調合したオリジナルな釉を使う事は、焼き物を行っている人にとっては、

理想的な事です。しかし、初心者にとって、どの様に調合したら良いかは中々難しい事です。

又、理論通りに調合しても、現実には望む様な釉が出来ない場合の方が多いです。

それは、釉だけを考えても、解決しない事が多いからです。窯の大きさや窯の構造、燃料の種類、

焼成温度、焼成時間、焼成の雰囲気など、多方面の事柄が関係して来る為です。

但し、ここでは、釉以外の要素をなるべく少なく考慮し、話を進めたいと思っています。

釉を調合するに当たり、以下の様な調合方法があります。

1) 三角座標による釉の調合。

2) アルミナ(Al2O3)ーシリカ(SiO2)状態図による釉の調合。

3) ゼーゲル式より、導き出した釉の調合。

4) その他の方法による調合。

   雑誌や陶芸の本、釉の参考資料などに記載されている釉の調合例(レシピ)を参考にした、

   独自の調合。

この様な事を中心に述べる予定ですが、その前に、釉に対する基本的事項に付いて述べます。

1) 釉の三要素について。

   釉はガラス質である事は度々述べてきました。それ故、釉の三要素とは、① ガラス本体を作る

   物質、② 熔ける温度を下げる物質、③ ガラスを安定化させる物質を言います。 

   具体的には以下の様になります。尚、やや専門的な化学の話が含まれますが、必要に

   応じて読み飛ばして下さい。

  ① ガラス本体を作る物質。それは、二酸化珪素(珪酸、SiO2)です。

     地球上で一番多い物質が珪酸(シリカ)で、土や岩石の主成分です。

     珪石には90%以上(理想的には99%以上が望ましい)の珪酸が含まれ、主な供給源に

     成ります。

    ) 珪石の融点は1685℃で、結晶が壊れてガラス化すると言われています。

       常温での珪石は網目構造を持ち、融点も高く安定した状態に成っています。

    ) 二酸化珪素(珪酸、SiO2)には次の様な性質があります。

      a) 釉の熔ける温度を上げる。但し、媒熔剤(後で述べます)を加える事で、温度を下げる

         事が出来ます。

      b) 熱膨張係数が小さく(伸び縮みが少ない)、添加する事で、貫入を減らします。

      c) 機械的、化学的(酸、アルカリなど)な強度を増します。

     ) 珪酸を含む物質に、「長石」や「タルク」がありますが、単独では使用せず、必ず珪石と

        一緒に使います。

   ② 熔ける温度を下げる物質、それは、アルカリ元素(RO2)とアルカリ土類元素(RO)です。

     尚、熔かすとは、二酸化珪素の網目構造の紐を断ち切る事によって、結晶を壊す事です。

    ) アルカリ元素(RO2)とは、原子の周期律表の「ⅠーA族」に属す、リチウム(Li)、

       ナトリウム(Na)、カリウム(K)の三種類です。実際にはその酸化物として存在します。

       即ち、酸化リチウム(LiO2)、酸化ナトリウム(NaO2)、酸化カリウム(KO2)で、酸化鉛

       (なまり)に次いで、最も強い媒熔剤です。

     ) アルカリ土類元素(RO)とは、周期律表の「ⅡーA族]と「ⅡーB族」に属する元素です。

        即ち、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、

        亜鉛(Zn)の五種類で、実際にはその酸化物、MgO、CaO、SrO、BaO、ZnOを使い

        ます。

      ) その他の元素として、酸化鉛(PbO)、や酸化硼素(B2O3)がありますが、鉛は

         有毒な為、現時あではほとんど使う事はありません。

      ) 個々の元素の働きや性質を述べます。

以下次回に続きます。     

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新釉の話31 混ぜて作る釉19 釉の改良6(粘性3)

2013-09-03 20:03:09 | 新釉(薬)の話

釉の剥がれ(釉はげ、釉禿)と釉のちぢれ(縮れ)。

1) 釉の剥がれ。

 釉が剥げれるとは、釉の一部が素地から剥がれて仕舞う事で、場合によっては、完全に剥がれ

 落ちる場合も有ります。釉の剥がれは、施釉直後に発生する場合もありますが、一般には、

 焼成時に発生し、窯を開けてから気付く事が多い現象です。

 尚、施釉時の釉の剥がれは、釉の濃度が濃い場合に発生し易いですので、釉を水で薄めたり、

 CMC(化学糊)などの糊類を添加し、素地との接着を蜜にします。

 ① 釉の剥がれは、釉が熔けた後に発生する現象です。それは次の様な理由で起こります。

  a) 釉は熔けるに従い縮みます。

   どの様な釉であっても、釉が熔け始めると、体積は小さくなります。その為、素地に

   しっかりと密着していない状態では、素地から剥がれる様に力が発生します。

  b) 可塑性の大きな素地では、細かい粒子の土の量が多く、焼成時に表面の釉より

   大きく縮み釉に亀裂が起きる場合があります。

   この亀裂は釉が熔けてガラス状になると、自然に塞がり亀裂がなくなります。

   しかし、釉に流動性が乏しい時には、塞がらない場合も起こります。

   この場合、窯が冷えるに従い、この亀裂部分より釉が剥がれる切っ掛けになります。

  c) 施釉して直ぐに本焼きすると、素地は水分を多量に吸収していますので、温度上昇と

   伴に、水蒸気を盛んに発生させます。

   その水蒸気は、釉を下から持ち上げる力となる為、釉が素地から浮き上げる事になり

   ます。この状態で釉が縮むと素地から剥がれ落ちます。

  d) 化粧土を施した素地に施釉した場合、素地と釉の密着度が弱く、釉が収縮する際

   素地から 剥がれ易いです。同様に、下絵付けの顔料(絵の具)が濃い場合にも、

   釉が載らずに逃げる事になります。

  e) 灰釉を使用する場合も、釉の剥がれを起こす事があります。

   植物の灰は岩石や金属とは異なり、密度が小さく、フワフワした感じです。

   又、灰を精製しても、空気や炭素が含まれています。施釉しても素地との密着度が弱く、

   焼成においても大量のCO2(炭酸ガス)を発生させます。

   これが釉面に気孔や亀裂を生じさせます。

   釉が熔ける際、釉の移動の有無によって、亀裂を広げたり、素地から引き剥がす事に

   なります。

2) 釉のちぢれ(縮れ)に付いて。

 「釉のちぢれ」とは、釉が平滑で均一の広がりを持たず、釉が島状に寄り集まった状態を

  言います。

  ① 主な原因は、釉の表面張力が強い為です。

    注: 表面張力とは、液体の表面を出来るだけ小さくしようとする力です。

     水玉や水滴になる現象です。大なり小なり、全ての液体に起こります。

   a) 表面張力が強い釉では、お互いに独立して、釉が小さく丸まろうとします。

   b) 粘性が小さいく流れ易い場合には、表面張力により引っ張に釉が追随出来ます

    が、粘性が大きい場合には、引っ張りに付いて行けず、縮れが発生します。

    即ち、表面張力が大きく、粘性の大きな釉程、縮みの起こる頻度が多いです。

  ② 表面張力を左右する物質。

   ⅰ) 表面張力を強くする物質。

    a) マグネシウム成分: タルク、炭酸マグネシウム、ドロマイト等。

    b) アルミナ成分: 長石、カオリン等。

    c) 溶融剤: カルシウム、亜鉛華、バリウム等。

  ⅱ) 表面張力を小さくする物質。

    硼素、リチウム、ナトリウム、カリウム等です。

  ⅲ) 上記物質を添加して、釉の改良を行う事が出来ます。

以下次回に続きます。

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新釉の話30 混ぜて作る釉18 釉の改良5(粘性2)

2013-09-02 20:23:36 | 新釉(薬)の話

釉の粘性(粘度)が大き過ぎると、「ガス」が閉じ込めらえ、微細な「ガス」が釉中に無数に

残り光沢を減らします。

又、「ガス」が逃げ去っても、その痕が「ピンホール」や「ブク」となって現れます。

逆に粘性が小さい場合には、焼成温度と焼成時間を上手に管理しないと、釉が流れ落ちます。

即ち、焼成範囲が狭くなります。更に、素地が多孔質の場合、釉が素地に吸い込まれ、

光沢を失う場合もあります。以上が、前回までにお話した事です。

2) 粘性の調整には以下の方法があります。

 ① 粘性を大きくする方法(流れ難くする:流動性を小さくする)。

  a) 釉の粘性を大きくする材料には以下の物質があります。

   酸化ジルコニウム(ジルコニア、ZrO2)、 酸化クロム(C2rO3)、 

   酸化錫(SnO2)、アルミナ(Al2O3)、シリカ(SiO2)などです。

  b) 上記材料を添加する事により、粘性を大きくする事が可能になります。

   流れ過ぎる釉の場合に応用します。

 ② 粘性を小さくする方法(流動性を大きくする)

  a) 釉の粘性を小さくする材料には、以下の物質があります。

   酸化第二鉄(弁柄、Fe2O3)、カルシウム(CaO)、マグネシウム(MgO)、

   バリウム(BaO)、マンガン(MnO)、ニッケル(NiO)、チタン(TiO)

   などです。 主にアルカリ類です。

  ・ 特に、粘性を小さくする物質には、カリウム(K2O)、ナトリウム(NaO)、

   リチウム(Li2O) があります。

  ・ カルシウムは少量の場合には粘性を下げ、量が増えるに従い、粘性を大きくします。

  ・ 硼(ほう)酸は低火度では、粘性を大きくし。高火度釉では逆に粘性を小さくします。

   ・ アルカリ成分を増す事は、釉の融点を下げる事でもあります。

3) 流動性のある釉を利用する。

 ① 流動性を持たせる事は、結晶釉として必須条件です。

        一度釉に熔けたガラス中に、冷却と共に結晶が目で見える程の大きさに発達したのが

  結晶釉です。

  a) 酸化亜鉛(亜鉛華)、酸化チタン、酸化マンガン、酸化鉄などで結晶を作りだしますが

   その際、結晶の種(つぶつぶ、粒子)を付けると、良い結晶が発達します。

  b) 更に、銅やコバルト、ニッケル等を添加すると、色の付いた結晶と成ります。

  c) 冷却するに従い、釉中の金属が飽和状態になり、種を中心に析出し発達します。

   その際、流動性のある釉中では、金属がある程度移動する必要があります。

 ② 流紋釉(海鼠釉=なまこゆ)は流動性のある釉です。

  a) 釉の流れる性質を利用して、大理石文様(マーブル)や、筋状に流したり、

   複数の釉をぼかし文様にしたりして、色による装飾 を目指す釉を流紋釉といいます。

  b) 海鼠釉は、明治の初め頃から、信楽焼きの火鉢の釉として利用されています。

   土灰釉に銅、コバルト、マンガン、鉄を添加し、青、黒青、乳白の流れ紋を作っています

以下次回に続きます。

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