まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

疑惑に落とす女!

2024-04-01 | フランス、ベルギー映画
 皆さま、こんばんは!どうしても心に秘めておけないことがあり、家族にも職場でも話せていないことを、ここで打ち明けさせてください。それは…ああ、私ついに、高額宝くじに当選したんです!!!100万200万じゃないですよ!黙ったまま誰にもビタ一文あげません!もう仕事も辞めます!バラ色の優雅な引きこもり生活をエンジョイします!そして一か月ほどハワイとイギリスで過ごそうと思ってます♬ワーキングプアライフよ、さようなら!
 なんてね。今日はエイプリルフールですね(^^♪自分でも悲しく虚しくなる嘘ついちゃいました。いつかこの嘘が真になりますようにと祈りながら、ワーキングプア生活を今年も続けます…

 「落下の解剖学」
 フランスの雪深い山里で、作家であるサンドラの夫サミュエルの転落死体が発見される。第一発見者は夫妻の息子で視覚障害のあるダニエルだった。警察はサミュエルと不仲だったサンドラの犯行と見なし、彼女を殺人罪で逮捕するが…
 去年のカンヌ映画祭パルムドール受賞、アメリカの賞レースも席捲し、アカデミー賞では脚本賞を獲得した話題作を、やっと観ることができました(^^♪で、どうだったかというと…評判通りの秀作でしたが、何だろう、期待外れとまでは言わないけど、そこまで大傑作とは思えなかったというのが正直な感想です。期待し過ぎたんでしょうね。グイグイ引き込んでくる衝撃と面白さという点では、同じオスカー作品賞候補だった「哀れなるものたち」のほうが格段に上だし、ザンドラ・ヒュラーの演技も「ありがとう、トニ・エルドマン」のほうがユニークで強烈でした。

 手に汗握るサスペンスとか、二転三転するドラマティックさとか仰天の真実とか、がっつりエンターテイメント!な映画ではなく、どこにでもいる夫婦、ありふれた家族の関係の中に潜んでいるイヤな感情ー軽蔑とか恥辱、無関心とか嫌悪感、疎外感といったものーが冷ややかに、かつ痛烈に暴かれ晒されていく息詰まる相克のドラマ、として見ごたえがありました。とんでもなく醜悪な秘密とか、恐ろしい動機とかではなく、破滅へと導くのがパートナーや家族がいれば大なり小なりある身近で些細な行き違いや軋轢、自分勝手さというのが現実的で怖いです。
 それにしても。サンドラ夫妻の冷え切った関係、責任の押し付け合い、自分の利益や都合優先、いがみ合っての罵詈雑言を見ていると、ぼっちのほうがやっぱいいわと痛感。あんな不満やストレスで蝕まれた生活、まっぴらごめん。二人の間に息子がいなかったら、きっと別れられたんだろうなあと思うと、ダニエルの悲しみのほうがサミュエルの死よりも不幸で可哀想でした。

 疑惑のヒロイン、サンドラを薄気味悪いほどに冷静沈着に、時にホラーな激情で演じて絶賛され、アカデミー賞主演女優賞にもノミネートされたドイツの名女優、ザンドラ・ヒュラーの巧妙な演技がやはりこの映画の白眉でしょうか。疑惑の女といえば、いかにもやってそうな悪女、毒婦、あるいは濡れ衣を着せられた哀れな女、みたいに演じるのが常套ですが、そんなオーソドックスかつ陳腐じゃないところが、さすがザンドラさん。見た目も言動もごくごくフツー、でも空虚さや冷酷さが渦巻く女の底の知れなさを、エキセントリックに怪演熱演するのではなく、トボけた感じさえする表情や雰囲気で伝える演技が独特で非凡でした。ドイツ人の彼女が主に英語で、時々フランス語で演じてるのも驚嘆ものでした。悪意なく家族や周囲の人々を苦しめ傷つけ不幸にするサンドラみたいな女はある意味りっぱな悪女、でも苦しめられても傷つけられても壊れないサンドラの強靭な精神に憧れもします。

 今やフランス映画界随一の役者スワン・アルローが、サンドラの弁護人役を好演。すごい個性的な顔。役と演技は人間味があり、なおかつ鋭さもあって、それでいて演技派気どりの俳優にありがちな出しゃばり感がなく、かつ強烈なヒロインに食われない存在感も放っている、という理想的な相手役演技でした。ダニエルの盲導犬スヌープの、人間たちに翻弄されても忠実な姿がけなげで愛しかったです。それにしても。この内容で上映時間2時間半はちと長い!集中力がない私には、冗漫に感じられもしました。
コメント (5)
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