環太平洋連携協定(TPP)交渉は、断続的に開かれる日米協議が注目を集めています。政府は「一進一退」としますが、重大なのは、農産物輸入関税の大幅引き下げを前提に、具体的条件を詰める交渉になっていることです。
安倍晋三政権は4月の日米首脳会談をへて、交渉は「8合目」(甘利明TPP担当相)と進展ぶりを印象づけながら、「国益を実現する」と強調することで、その“交渉力”に国民の期待をつなごうとしています。しかし、米国は日本の足元をみながら条件を引き上げており、この協議が日本農業の破壊に導くことは明らかです。
関税撤廃迫る米国
「動物性たんぱく質の安定供給を担っているのに、円安で飼料代が高止まりするなど、経営は厳しい」―九州で養豚に携わる男性は、関税を引き下げ外国から輸出攻勢がかかったら、養豚をあきらめる業者が続出するといいます。
甘利担当相が「方程式合意」と呼ぶ日米「合意」後の交渉は、関税引き下げの度合いや、輸入急増時に実施する緊急輸入制限(セーフガード)の発動条件など、輸入拡大の途上での激変緩和措置をめぐる綱引きにすぎません。生産者は、関税引き下げをめぐる協議の報道に強い懸念を抱いています。
しかも、米国の豚肉生産業界は、あくまで日本に関税を撤廃させるよう米政府に再三迫り、先月末には、撤廃しないなら日本を外して交渉をまとめるべきだとする声明まで出しました。これにはコメ、ムギ、乳製品の関連団体も歩調を合わせています。
安倍政権は米側の“譲歩”に期待をかけるものの、業界の圧力とともに、TPPに米議会の支持をとりつけなければならないオバマ政権は、協議の都度したたかに日本を攻撃しています。
TPPは、例外なき関税撤廃をはじめとした新たな貿易体制をめざすものであり、もともと交渉に乗り出すべきではありませんでした。政府は、安全で安心できる食料を国民に提供する責任をこそ果たすべきです。先進国で最低水準の食料自給率の抜本引き上げが求められているのに、日本農業を崩壊に導くTPPに躍起になるなどもってのほかです。
TPP交渉についての国会決議は、コメ、ムギ、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物の5項目で再生産を可能にすべきであり、それができないなら「脱退」するよう政府に求めています。日本共産党の紙智子議員は3日の参院農水委で、「日本が追い詰められる一方の協議だ」と指摘し、撤退を「真剣に検討すべきだ」と政府に迫りました。政府が国会決議を本気で尊重するなら、撤退しかありません。
各国でも批判あがる
企業が国家を訴えられるようにする企業対国家の紛争処理(ISD)条項が示すように、米国が主導するTPPは、米系多国籍企業の利益確保を目的として、各国の経済のあり方やルールをさらにゆがめるものです。
後発医薬品を制限する知的財産権などをめぐり、アジアやオセアニア、米国内からもTPP反対の声があがっています。そのもとで交渉は米国などの思惑通りには進まず、“漂流”の可能性も語られています。守秘義務をたてに、国民を欺く安倍政権を追い詰めることが必要です。(しんぶん赤旗より)
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