あだちものづくり展のうち、伝統工芸展が昨日と今日、区役所庁舎ホールで開催されました。足立区舎人にお住いの辻口良保さんが出展されていたので紹介します。
辻口良保さん(つじぐち・よしやす)さん。江戸刺繍の職人さん
1938(昭和13)年生まれ。74歳、父は歌舞技の衣装を製作する刺繍職人。家業を継ぐも30代日前で歌舞伎の衣装から転向し、着物から日常使いの小物まで幅広くこなしている。大手デパート等で開催される販売会や刺繍教室をこなしながら、今日も針を持つ。
ある雑誌にとりあげられた辻口さんのインタビューを了解をえて、一部紹介します。
想像もしなかった激変ぶり職人が生きにくい時代になった
ー江戸刺繍の職人として60年近いキャリアをお持ちです。
けっこう長くやっていますけどね。長い月日の間に、こんな世の中になるとは思ってもみなかったです。
ーどう変わりましたか。
まず着物を着る人が少なくなった。それで着物や帯の装飾としての刺繍の需要がなくなった。刺繍職人という職業そのものが、言うなれば絶滅危惧種に近いと思っていま
す。
ー日本の文化として伝統工芸を見直そうという動きもありますが。
それは嬉しいことだけど、だからって世の中の動きは止められないよね。ブームはブームであって、日常に密着したものではないから。世の中が変わって、職人たちの
働く仕組みそのものが変わってしまった。それは劇的な変化ですよ。
自分流でいいんだその言葉に気持ちが軽くなった
ーお父様は歌舞伎の衣装を手掛けていらっしゃったとか。
そうです。まあ根っからの職人でやんちゃなところもあったけれど、いまだに越えられない存在ですね。図案だって昔の人たちが残したものを参考にしているし、道具もほとんど変わらない。親父を始め先人から教わることは多いけれど、伝統を残すといっても、完全に昔と同じ形に戻るってことはないから。時代によってやることが違うし、頑なに同じことばかり続けているってことが伝統を重んじているとは思わないんだよね。
時代に合ったアプローチが必要ということでしょうか。
いくら腕のいい職人だからって、単に作業するだけでは残れない。私は親父が図案を描くのを手伝ってきたから自分でデザインすることもできて良かったと思いますよ。
ただちゃんと絵を勉強したことがなかったから、それを引け目に感じていたんだけど、ある人の言葉ですっと楽になれた。
-どんなお言葉だったんですか。
もう触ると崩れるような古い帯の直しを頼まれたことがあってね。それで出来上がった帯を依頼主のご自宅に持って行ったら、その方は有名な日本画家だったの。いい機会だから聞いてみた。「刺繍の図案を描くとき、絵をちゃんと勉強したことがないからいまいち自信が持てない。ちゃんと絵を習ったほうが良いですか」って。
-するとその方は。
「日本画なり洋画なり、習えばそこに属してしまう。属す必要はないから、あなたは刺繍画にすればいい」って言われたの。
すごいこと言うなと思ったけれど嬉しかったね。要は何をやっても自分で責任取ればいいんだよ。他人に何と言われても自分がいいと思うものをやればいいの。生徒さんを見ていてもそう思うね。
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