ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

地中海組み立て方

2010-07-27 03:59:04 | ヨーロッパ

 ”CAMPI MAGNETICI”by FRANCO BATTIATO

 ああ、こういうときにはむしろ、この種の難解盤が向いてるのか。なるほどなあ。などと、他人にはどうでもいい事で頷いてしまったのでした。
 なにを隠そう、このところのクソ暑い気候のせいで文章を書く気力もまったく起こらず、文章をまとめる能力も霧散してしまった。というか、肝心の音楽を聴いてみてもさっぱり乗れず、むしろうっとうしいからやめとこうか、といった具合で、まったくの無為の夏を過ごしていた私なのでありますが。
 いやそれにしても夏って、こんなに暑かったっけ、昔から。

 と言うわけでイタリアの怪人音楽家、フランコ・バッティアートであります。この人は以前この場で、シュールレアリズム詩人とのコラボ作など紹介したことがあったんだけど。
 何しろこの人、電子楽器を駆使して前衛的な実験音楽を作ってみたかと思えば、ごく普通のポップスをギター抱えて歌いまくり、かと思えば本格的なオペラをものにしてみたり、頭の中がどうなっているやら見当もつかない、といった大変な人なのであります。今回のこのアルバムだって前衛バレーのための音楽とかで、クラシックの専門レーベルから発売されている。

 とはいえ、収められた音楽は普通にクラシックと納得できるものじゃなくて、電子楽器を駆使したアバンギャルドなダンス・ミュージックとでも言うしかない代物。まあ、ダンス音楽の伴奏として作られたものなのだから、ダンスと一緒に鑑賞しなければ本当のところは分からないかも知れないね、なんて意見もあるかと思うが、いや、そんなことしたらますます訳がわからなくなると思う、私は。変なダンスに決まっているもの、バッティアートなんかを音楽に起用する踊りなんてものは、さ。

 とにかくビシバシと打ち込みのリズムが降り注ぐ冒頭のトランスミュージック(?)から、バッティアートの奔放なイマジネーションの世界が容赦なく展開され、もうこれはついて行ける奴だけついて行くしかないよね。
 シンセの描く奇妙な音像がゆらめく中、お得意のクラシック調というべきか、グレゴリオ聖歌かオペラのアリアかという歌声が天から舞い降りてきて、ソロで、コーラスで、異形の幸福に満たされた別世界の輝きを歌い上げる。
 それだけやりたい放題やっていても普通に聴けてしまうのは、彼の音楽の中に地中海の陽の光をいっぱい浴びた陽性のパワーが漲っているからではないかなあ。光浴びた海辺にいっぱいに広げたキャンバスを相手に自由奔放に絵の具を塗りたくる、そんな開放感に満ちた音楽だから、バッティアートの作品は。

 そして最後に、まるで冗談みたいに置かれた古いシャンソン、”ラ・メール”が朗々と歌い上げられる。ああ、作者自身も念頭に”海”を置いてこの作品を作ったのか。なんだか、照りつける夏の陽光にうんざりした挙句にこの盤を聴きたくなったこと、作者から「正解」とお墨付きをもらったみたいな気分になった。
 あるいはこの作品全体が、子供の心に帰ったバッティアートが夏休みの宿題として描き上げた自由奔放な一枚の絵みたいにも思われ、楽しくなってくるのだった。




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