ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

メキシコの地下水道

2011-03-03 00:06:34 | 南アメリカ

 ”Lagrimas Mexicans”by Vinicius Cantuaria & Bill Frisell

 え~、これはどういう意図のアルバムなんだろうか?メキシコの涙?私のまるで知らなかったブラジルのシンガーソングライター、ヴィニシウス氏と、北米のジャンル越え系異能ミュージシャンとしてへんてこりんな音楽ばかりやって来たギター弾きビル・フリゼールの共演盤で、どうやらメキシコがテーマらしい。
 まあ、正直言って半分はジャケ買いです。ジャケの、中南米名物・天然シュールレアリズムっぽい素朴画に惹かれ、不思議な形でアメリカにこだわるフリゼールが、メキシコ相手にどんな奇想を繰り広げるかに興味を惹かれた。

 すべての曲のボーカルを取っているヴィニシウス氏は、自らの内に沈み込むような物静かな芸風の人のようで、深夜のロウソク相手に歌うような囁き声が殷々と続く。
 フリゼールはギターで奇怪な迷宮を編み上げて行く人であるし、ここはカラッと陽気なラテンの血が騒ぐ、なんて作品にはなりようもなし。照り付ける南国の陽光など受け付けぬ、意識の深層へ降りて行くような音の冥界探訪が記録されることとなった。

 たとえて言えば前々世紀、ヨーロッパから新大陸に派遣された学術調査隊にひょっこり隊員として紛れ込んだシュールレアリズムの詩人かなんかが、本来は真面目に書くべき報告書に、新大陸の珍奇な風物とオノレが古きヨーロッパでクスリまみれで増殖させていた幻覚とを混交させた意識下の胎内巡りを書き込んでしまった、そんな奇書を読んでいる感じだろうか。
 あるいは、陽気に打ち鳴らされるボンゴの響きのもう一つ下層を流れるラテンの無意識界に切れ者二人が手を突っ込んで見せた?

 思ってもいなかった視点からの切り込みに虚を突かれた、そんな驚きが心地良い、地味だけど忘れがたいアルバムに出会ってしまった。





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