”桃源楽”by 吉育
ハーモニカ、と言うよりはこのアルバムに関しては、その演奏スタイルからブルースハープと呼ぶべきなんだろうけど・・・
これはブルース系のハーモニカ演奏による沖縄名曲集。妙な事を思いついたもので、なかなか不思議な切り口から沖縄音楽の楽しみを広げている。2007年作。
プレイヤーは京都で活躍中のブルースマンとのこと。そもそも沖縄の音階なんか吹けない筈の構造の楽器を見事に操り、とても素直な手触りで、かの地のメロディを紡いでくれている。
というか、私は無謀にも確信持って言うけど、これ、ふと”PW哀りなむん”をハーモニカで吹いてみたら結構決まっていたんで、そこからアイディアが膨らんでアルバムが出来てしまった、なんてことはないかなあ?
いやなに、あの第2次大戦直後、アメリカ軍の捕虜になった沖縄島民の悲哀を描いた曲のメロディをはじめて聴いた時、「あれれ、これは沖縄音楽であると同時にブルースでもある、みたいなメロディだなあ」なんて感じたことがあるものだから。
その”PW・・・”はチューバなども入ったオールドジャズ風というかボードヴィル調のアレンジで、コミカルな中にも悲哀が滲む感じの演奏を聴かせるが、その他の曲も多彩なアレンジがほどこされている。
チンドンっぽいバックが付いたりシロホンやウクレレが鳴り響いたり、おもちゃの国の行進曲風になったりアイリッシュ・トラッドっぽくなったりと変幻自在に、この世のどこかにありそうでいてありえない楽園のファンタジィを描いてみせている。夏の暑さに倦んだ体と心にとても気持ちの良い出来上がり。そして時に聴く者の心を、気ままな旅への欲求で一杯にしたりもする。
もっとも私の好みで言えば、もっとシンプルな音も良かった。たとえば三線、あるいは生ギター一本だけをバックにのんびりと聴かせてくれたら、なんて考える。ふらりと沖縄に立ち寄った旅人が気が向くままに、その地で出会ったメロディをポケットに忍ばせてきたハーモニカで吹いてみた、なんて図が出来上がるんじゃないか。その時、スカスカの音の隙間から吹いてくる風の感触はちょっとしたものじゃないか、なんて思うんだが。
第2集の計画があるなら、その方向で検討してみて欲しい。まあ、あんまりありそうな気もしないのだが。そこをなんとか。
試聴も貼りたかったんだけど、さすがにネットのどこを探しても音がなかった。
かなりの揺れでしたが、当地には特に被害はありませんでした。ありがとうございます。