”Lee Na-Young 第一集”
韓国のトロット演歌の新しい動きに興味のある日本のファンは。なんて、そんな奇特な趣味の人が何人いるのやら知りませんがね。
まあとにかくイ・ナヨン嬢のこのデビュー・アルバムは、その辺に、ことに若い女の子が歌う生きの良いトロットに惹かれている韓国演歌ファン連中がリリースを待ち焦がれていた一発である。その売り文句も”ネオ・トロット”トロット演歌の新しい波なのである。
あちこちのサイトで謳われていたものなあ、”新しい波が来る”と。ポップスならともかく、演歌がその扱い。そりゃ、興味を惹かれますよ。とりあえず私、韓国演歌の新譜を予約までして買ったのはこれがはじめてです。
ジャケ写真なんかも、ロックのアルバムと見まごうほどのタッチで、お洒落な存在として歌手、イ・ナヨンを捉えたもので、こりゃカッコ良いですな。
さて、音のほうはといえば。まずはいきなりシンセの音の壁が立ち上がってきて、これは確かにこれまでのトロット演歌のサウンドと違うと言いたいところなのだが。そのシンセ群の奏でる音楽は、昔ながらの演歌歌手のバックを務めるフルバンドの音をシンセに置き換えたみたいな、相変らずのブンチャカ・ミュージックなのだった、基本は。
あ、だから良くないと言うんじゃないんですよ。”ネオ”と名乗り新しいサウンドを世に送り出すといっても、変に欧米のナウい音楽の影響をうけたりせずに、自分たちのこれまでの音楽の展開の延長線上に新世界を切り日浦いて見せる。それもまた一種の見識といえましょう。
それに、終始鳴り続ける打ち込みリズムなど、これまで聞いたことのない迫力に満ちたものであるし、ド演歌基調のテクノなファンクというのもユニークじゃないか。聴き続けて馴れて来ると、”焼き魚の匂いがする宇宙基地”みたいな、アジアなファンキーさが滲み出すのを楽しめるようになってくるのだ。
また、終始彼女のバックに寄り添い、支え族けるギターなど、演歌~ロック~ソウルの三界を行き来して、地味ながらなかなかにイマジネイティヴなプレイを繰り広げていて、忘れがたいものがあったのだ。
そして肝心のイ・ナヨン嬢の歌はといえば。実はもっと硬質でクールでお洒落な声質を想像していたので、結構湿度が多くペチャとした響きが意外だった。ところがこれが踏ん張るべきところに行くとブワとパワーが湧き上がってきて、ど根性娘のドスコイ演歌の力唱を繰り出す二枚腰振り(?)なのであった。ひゃあ、新人どころか相当にキャリアがあるぞ、この子は。こんなエモーショナルな歌声を聴かせるなんて。
うん、期待していた”韓国のパフュームがテクノな演歌を歌いまくる”って世界とはちょっと違っていたけれど、気が付けば不思議な方にぶっ飛んだファンク演歌の魅力にどんどん惹かれて行く。お洒落って言えばお洒落だしさあ。それはきついか。いや、きつくないぞ。