ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

若葉のトラッド

2010-05-18 01:33:18 | ヨーロッパ

 ”Dear Irish Boy”by Marianne Green

 今流行りの、ですかね、森の(笑)奥の岩陰にそっと腰を下ろし、静かな微笑を浮かべる貴婦人・・・みたいな仕込みになってますがちょっとぎこちないよ。それはそうです、彼女はまだ17歳の女の子、アイリッシュ・トラッド界のピカピカの新人歌手なのであります。
 そんな年齢の女の子が地味な民謡の世界に、どのような事情があって飛び込んだのか知りませんが、アイリッシュ・トラッド界ではちったあ知られた職人ニュージシャンのAndy Irvine が彼女の才能にほれ込んでしまって、このアルバム製作を全面的に面倒を見たようです。というか彼女とAndy Irvineの、ほとんど連名みたいな形で世に出ているのでした、このアルバム。

 音のほうはと言いますと、やはりマリアンヌの声は幼いです。普段、トラッドといえば大貫禄のお姉さまがたの渋い歌唱を聴き慣れているこちらとしては「こんなんでいいの?」と、いささか戸惑ってしまう。しまうんだけど、不快ではないです。むしろ、「あ、こんな行き方があったのか!」みたいな、一本とられたみたいな気分になりますな。
 それは確かに彼女の歌声は幼いんだけど、歌唱そのものはきちんとしたもので、唄の勘所は押さえている。それに、そもそもそのような、まあコドモが本格的トラッドを本気で歌ってしまう、というのが痛快じゃないですか。

 なんか、型に嵌ってしまっていた伝承音楽の世界に、雲間から柔らかな光が差して来た、みたいな感じで気持ちがいいのですね。
 それにしてもさすが職人のAndy Irvineの息がかかっただけのことはある、と受け取ったらいいんでしょうか、アルバムの作りに浮ついたところはないです。彼自身の奏でるブズーキやマンドリンを中心に、必要最小限の音が、これがまた実に地味な選曲を歌うマリアンヌをサポートします。これもすっきりして良いですね。

 Andy たちが切り取ったフレームの中で、若草の上の裸足の散歩、新鮮な果実丸齧り!みたいに素朴な新鮮さが麗しいマリアンヌが軽やかにステップを踏み、若い血が古い伝承唄に新しい命を吹き込みます。音の向こうから春の若草の匂いがします。

 なんと彼女の映像、You-tubeには一つもありませんでした。アイリッシュ・トラッドの新人なんてのは、そんなものでしょうか。しょうがないんで彼女のMyspaceのURLを下に貼っておきますんで、そこを覗いてマリアンヌの若草トラッド(?)をちょっと聴いてみてください。
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●Marianne Green My Space