ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

電気仕掛けの宝石箱

2010-05-01 03:29:22 | ヨーロッパ

 ”Peace” by Libera

 以前よりこの場で、深夜のNHKが繰り返し放映している、言ってみれば深夜と早朝の青だに横たわる時間を穴埋めするための埋め草番組である「映像散歩」なる番組の素晴らしさは繰り返し語って来た。
 日本各地の、あるいは世界の名所の取材映像がゆったりと流され、静かに行き過ぎる深夜と言う秘められた心優しい時間の中に流れ着いた孤独な魂に、幻想の地球への旅のための架空の車窓の光景を提供する。
 残酷な朝が来るのにはまだ数刻の猶予があり、その猶予がときには永遠とも信じられるような時間の、その番組は素晴らしい友である。

 さきほどから多少、文章表現に首を傾げたくなる部分があるやも知れないが、お許し願いたい、そんな深夜に軽く落ち込むやや異常な精神状態を、こうして表現しているつもりである。

 そんな時間、番組のバックに流れるのは、少年時代の忘れかけた記憶の向こうで鳴っているかのような思索的な、まあ、昔風のものならムード・ミュージック、今風ならアンビエント・ミュージックとなるのか、そんなものであるのだが。
 その中でもひときわ心に残る存在であるのが、この英国は南ロンドン出身の少年合唱団、リベラだった。英国の、7歳から14歳の少年たちからなるという彼らの、旧来の少年合唱団とはまるで違う音処理を施された硬質なコーラスの世界は、この世のものとも思えぬ異次元の美を咲き誇らせる。まさに、現実と非現実の皮膜の間で揺れているような超深夜にはふさわしい、非現実的な音の美学の世界だ。

 ことに記憶に残っているのは、「映像散歩」の中でも特に名作との評価の高い、日本各地の都市の夜の美しい光のランドスケープを写し撮った「日本夜景めぐり」での、忘れられぬ使われ方。
 暮れ行く地表に都市の明かりが地平線まで、驚くほどのきらびやかさで広がっている。それを上空からカメラは舐め撮るように愛しむようにフィルムに焼き付けて行く。そこに被る、”リベラ”の少年たちの金属的とも言いたい冷たい煌きに満ちたボーイ・ソプラノ。夜の都市は、まさに巨大な宝石箱に姿を変える。
 その歌声は旧来の少年合唱団ものと違い、どちらかと言えば高音のコーラスを得意とするロックバンドのそれを録る際のテクニックを流用しているように感じられた。その響きは、バックに控えめに流れるエレクトリック・ポップのサウンド展開と相まって、少年合唱団より出でて、もはや少年合唱団ではない、非常に今日的な一個のポップサウンドを形成していると言えるだろう。

 少年たちのバックに控えるプロデューサー、なかなかのクセモノかと。合唱団の売り出し方もずいぶんとアイドルっぽいし、メンバーに黒人やアジア人種の少年も何人か加え、修道写真を撮る際には”中央ではないが目立つ場所”にポジションを取らせるなど、ある意味、狡猾な行動ではある。
 などとめちゃくちゃな事を言っている間にも時は流れ、太陽は昇り夜は敗れ果て、現実に適応できぬ夢想家のくだらねえ妄想など踏み潰して朝は姿を現し、この地上に君臨するのである。