ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

OK牧場の面影

2010-05-25 01:47:15 | アジア

 ”OK牧場の乳牛”by Crying Nut

 この時期、このジャケにこのタイトルはヤバかろうよ。とはいえ、2006年に出た実在のアルバムなんだから仕方あるまい。
 一部で噂の韓国のパンクロック・バンド、クライング・ナットである。昨年、来日もしているとかで、彼らのステージをご覧になった方もおられるだろう。

 音を聴いてみると、歪んだ音のギターが乱雑にかき鳴らされ、怒号と言うしかないようなヤケクソのボーカルがツバを飛ばして襲い掛かってくる。
 一瞬、頭がカラの、世界中どこにまいりましても普通に見かけるようなガキ臭漂うバンドかと思うんだけど、そのうち、もう少し奥行きのある表現も心得ているバンドであることが分る。
 その”奥行き”は、主にアコーディオン担当(そういうメンバーがいるのだ)のキム・インスあたりから発せられているようだ。とか言っているうち、ティン・ホイッスルがアイリッシュ・トラッドっぽいメロディを吹き鳴らしたりし始める。

 まあ、早い話が欧米の、ポーグスとかブレイブ・コンボみたいなバンドに対する韓国人からの回答がこのバンドなんだろう。などと言っているうちにも、ガサツなパンク・サウンドの狭間から出所不明の民族調の哀感などちらつき始め、そして飛び出すレゲやらポルカやらのリズム。確かにタダモノではなさそうな連中だ。

 ことに8曲目、女性歌手をゲストに、マイナー・キイのワルツを切々と聴かせるあたり、表現の幅がグンと広がる。
 何を歌っているのかはもちろん分らないのだが、聴いているうちに、雲が灰色に垂れ込める薄ら寒い空の下、海風吹き寄せるうらぶれた漁港などに佇み、許されない愛に悩む男女の演ずる安いメロドラマ風景などが浮んで、このバンドが踏みしめている魚臭い大地の広がりがリアルにリアルに感ぜられるようになって来るのだ。

 そして最後は渋いソウルっぽいバラードで粋に決めてみせる。おお、たいした余裕じゃないかと感心すれば、なんともう10数年のキャリアのある実力派バンドなんだそうで。なるほどね。
 それにしても、タイトルナンバーはどんな事を歌っているんだろうなあとやはりこのご時世、気になりつつも、これにて。