ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

古いお城のものがたり

2007-03-02 05:15:20 | その他の日本の音楽

 今、検索をかけてみたら、これに関してはもう何人かがウエブ上の日記に書いていて、そうか、他の人にも気になっているのだなと頷いてしまったものだが。

 NHKで、もう相当に昔から”みんなのうた”というコーナーをやっているが、歌と映像あいまって、時々妙に心に残る、それもトラウマとして残るような作品を生み出している。あれはなんなの?わざとなの?そうなってしまうの?
 まあ、いいけど。で、これもその一つとして人々の記憶に残ってしまう一作となるのではあるまいかと思われる物件に最近、出会った。

 それは”古いお城のものがたり”という歌で、どうやらウクライナの歌、ということだが、詳細は分からず。確かにスラブ色濃厚なメロディラインではある。歌っているのもエカテリーナなるロシアの女性歌手という事だが、特に外国人風でもない日本語で歌われている。

 夕暮れの街角で迷子になった子供の心の内で鳴り続けているような、短調の非常に物悲しいメロディである。歌詞は、「森の中で古城に迷い込んだ女の子が豪華な舞踏会に迎えられるのだが、それは古城が見せたつかの間の夢だった」そんな物語を詠っている。

 と言っても、どことなく納得しきれない、「え、それで終わりなの?」と拍子抜けするような説明不足の部分があり、もしかしたら当方が歌の裏に秘められた意味をつかみかねているのか、あるいは、放送では省略されているが、実は歌詞にはさらに後半部分が存在するとの事で、それを聴かねば本当のところは分からないのかも知れない。

 歌と一緒に流される映像が凄い。ハンガリーの映像作家による、サンドアートという砂に描かれた不思議なイラストによる動画なのだが、絵の中に染み透った”貧困”や”孤独”のイメージが臭気を発するが如く濃厚で、舞踏会の夢から覚めたのちの女の子を襲う空白感の表現など、ちょっと肌に泡を生じせしめる、の感がある。

 やりきれないもの悲しさを秘めたメロディと、サンドアートの強力なイメージの奔流とがあいまって、深夜、一人でテレビに向かっている際に出会うと、なんだかこちらまで見知らぬ世界に迷子として放り出されたみたいな寄る辺ない気分になってしまう。これを見て、軽いトラウマになってしまう子供がいても不思議ではないだろう。

 それにしても”みんなの歌”って、どういう製作理念でやって来ているのか。あのコーナーに関する思い出話などし合っても、「あれは良い歌だったねえ」ではなく、「あれはなんだったんだろう?」との話題ばかりが出るのだが。いや、それが不満なのではなく、その調子でずっとやっていって欲しいのだが。

 (冒頭の画像は、サンドアート作画中の映像作家、ツァコ・フェレンツ)