ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

イスタンブールの赤色エレジー

2007-03-25 02:47:46 | イスラム世界


 ”Turnalara Tutun Da Gel”by Ozhan Eren

 ウディ・アレンとエルヴィス・コステロを混ぜたみたいな黒ブチ眼鏡の青年が、ナイーヴそうな横顔を見せているジャケ写真。トルコのシンガー・ソングライター、Ozhan Eren のアルバムであります。

 まあ、ワールドミュージック泥臭派の私としては、このようなジャケは普段は怪しんで近寄らない。”トルコにもアメリカのものと変わらないようなお洒落なポップスがあるんですよ”とか誇らしげに言い放つタイプのミュージシャンっぽい雰囲気漂ってるんで。なんか、いかにもな、「欧米か!」な歌をピアノに向かいつつ歌うのではあるまいか、なんて感じなんで。

 それを何で買ってしまったかといえば。いや、自分でも良く分からないのです。なんかありそうな気配がしたとしか言いようがない。
 まあ、買ってしまったものは仕方がないので、ともかくCDを回転させてみる。と。飛び出してきたのは。意外にもトルコの民俗楽器による厳かなアンサンブルの音だったのであります。

 ありゃりゃ。ジャケのイメージとはかなり離れた土着伝統派の音作り。収められている曲はすべて自身の作詞作曲のようですが、どの曲もトルコの伝統音楽を地味に追求した、落ち着いた作風のものばかり。このしみじみとした感触は、もしかしたらこれってトルコ人の心の故郷に触れるような作品集なのかも、とまで思わせるものがあったのでした。

 ただ、想像通りだったのは、その歌声。なにやら頼りなくフラフラと揺れ動くその声は、地に足の着いた伝統音楽をやるよりは、やっぱりお洒落な都会派の無国籍音楽を歌っている方が納得できる。

 へえ、不思議な奴もいるもんだなあと、イスタンブールの街から見た、アジアとヨーロッパを隔てるポスポラスの海峡に沈む夕日など、そりゃあこちらは行ったことも見たこともないけどよ、思い起こさせる切ない曲など聴きながら首をかしげていたのですが、あっと。日本にいましたよ、こんなポジションにいるミュージシャンが。

 この歌い手、Ozhan Erenって、トルコのあがた森魚じゃないんだろうか?それも、”赤色エレジー”をヒットさせた頃の。ジーンズに長髪で、まるで場違いの演歌歌手たちに囲まれてのテレビ出演などしていた頃の、あがた森魚だ。

 うん、そんな感じがするんだよ。その”民族派”らしくもない頼りなげな歌い方や、若いくせして見事に時代の流行に背を向けて古い音楽に居場所を求めてみたりする、そんな偏屈ぶりとかね。
 いや、Ozhan Erenが本当にそんな奴かどうか、知りませんよ。ただ、その方向で理解してみると彼の存在を納得しやすいってだけの話なんですが。