風評被害/中間貯蔵施設
☆☆
いやあ、参りましたね。40年ぶりって、つまえ私が20歳の時以来の大雪ってことあんですよね。浪人(ろうにん)してましたね、私。懐(なつ)かしい、って雪のことじゃなくて浪人中のことがですよ。
これは昨日の夕方で、ここから夜はさらにふぶいたんですねえ。
大体似たようなアングルでとったんですが、これでも少し雪かきしたあとです。雪の中からようやく姿を現した私の愛車(バイク)です。
オマエもこんな雪なんだから、記事内容も少しは考えろ、空気読めよなんて言われそうで、こんな書き出しです。
都知事選、投票率下がるんだろうなあ。どうなりますかね。
というわけで、今回は☆印から始まっちまいました。
雪の警報(けいほう)が出て、あわてて福島から帰ってきました。
1 風評被害
「食べないよ」
そう事も無げにいうおばちゃんの言葉に、私は耳を疑った。
もう顔なじみとなった広野の農家直販所(ちょくはんじょ)、この日は午後から冷たい風が勢いを増して、木やのぼりを大きく激しくなびかせていた。
「こんなに寒いのに、あちこち回ってんのかい?」
そうおばちゃんが聞いてくれた。私は、苦戦を続けている「ニイダヤ水産」のパンフレットを、おばちゃんやお客さんに差し出して勧(すす)めた。
「魚かい」
と、おばちゃんたちはあんまり気乗りしない笑いを浮かべる。私はやっぱりなと思う。
「どこの魚で(干物を)作ってるんだい」
と一応は聞いて来るのだが、福島産のものでないことぐらいは知っているのだ。
「孫(まご)がいるんだよ」
「娘(母親)がうるさくてさ」
という二人の店番のおばちゃんの気持ちは分かる。
しかし、そのあと話のついでに、
「米はここ(直販所/広野)のを食べるんですよね」
そう確認のつもりで聞いた。そして、私は驚いた。
「食べないよ」
二人は何でもないふうに言い、お客さんも笑っている。ここは、
「数量を測った安全なお米を売っている」
直販所ではなかったのか、ようやく生産し販売(はんばい)にこぎつけた「喜びの農家が直営(ちょくえい)する」ところではなかったのか、知らず知らず私は反芻(はんすう)した。
「孫がいるんだよ」
「娘がうるさくてさ」
また二人は同じことを言った。ホントですか、私はもう一度聞く。
「美春のを食べてんだよ」
私は三春町が、広野に比べてそんなに線量が低いはずがないことぐらい知っている。
「こっちの米の方が安心なんじゃないの」
私はそのことを言った。
もとはと言えば、国が同心円で警戒区域を決めたことから始まっている。広野や川内から郡山や福島に逃げた人たちは、あとになってみれば線量の高いところに避難(ひなん)してしまった。今や帰還(きかん)を迷っている故郷の方が線量が低い。そんなおかしなことが起きているのだ。そのことを言ってみたが、
「娘がそう言うんだよ」
同じことを言う。
「水も買ってるんだよ」
私は改めて『風評被害』の現実を見る思いだった。当の本人たちが不安に思っている。そのことを『風評被害』と言えるわけがない。
「魚も米も安全なのに、みんな不安がって買ってくれない」
と言ってる本人たちの現実がこうなのだ。これを『風評被害』なる言葉の一人歩きと言わずしてなんと言うのだ。結局は放射能という、目に見えないものとどう向き合うのか、私たちはまだ決めてとなる手だてを持っていない。
そういうことか。騙(だま)しあいかよ、そう言われるぞ、と思いつつも、この先に立ちふさがる困難の大きさを改めて思うしかないのだ。
確かにこの間まではなかったはずのモリニタリングポストが、この直販所の脇に立っていた。それは除染中の公園入り口で、向こうに火力の煙突(えんとつ)が見えた。数値は写真をとった時は「0,164」だった。
「今年になってから出来たんだよ」
おばちゃんが言う。
「みんなが安心出来るようにって作ったみたいだよ」
隣(となり)にいたおばちゃんが、
「でも山の方では高いってよ」
と付け足した。
2 町民の気持ち
次の日、楢葉の仮設で牧場主さんにこの話をすると、主さんはあきれたと言わんばかりに、声を出して笑った。
「生産してる人間や売ってる奴が、そんなんじゃしょうがねえよ」
そうして去年の秋に始まった、福島県沖での「試験操業」の時の話をした。
線量検査のあと、このまま築地(つきじ)に出すのはどんなもんかと、もめたのだそうだ。自分たちがまず食べて平気なことを証見せてからがいいのではないかという意見が出され、その対象が町だけでなく周辺一帯へと、段々に「その方がいい」と、広がったという。
「どたばたやってる間、築地への出荷(しゅっか)はずいぶん遅れたんだよ」
この広野の直販所とはまったく逆のケースということになる。
「BSE(狂牛病)騒ぎの時は、オレたちの牛も売れなかったよ」
主さんは、その昔、銀座だったら5万円なりの肉を、
「1000円で食ったもんさ」
と振り返って言った。
読者もニュースでご存じだろうか。楢葉町の中間貯蔵施設の建設は中止となった。なんともおかしな経緯(いきさつ)だ。なぜなら、だ。住民はこの施設建設の是非(ぜひ)を問うため、住民投票をしようとした。そして驚異的(きょういてき)な数の署名を集めた。建設しないと初めから分かっていたら、こんな大変な思いをして署名など集めない。でも、町は初め、
「建設を認めたわけではない」
として「建設のための調査」を認可(にんか)した。そして次は、「保管庫」ならという話となった。住民は不安を膨(ふく)らませる。当たり前だ。そして住民投票実施要求に動く。
町長は、
「高濃度廃棄物(はいきぶつ)の受けいれは困る」
としつつも、この住民投票要求に対しては、
「私たちが決める問題ではない」
という判断をした。つまり住民投票をしないということだ。町議会はこれにならった。4対6でこの住民投票条例案は否決されたのだ。
「自分たちの町のことではあるが、自分たちで決めることは出来ない」
としたのだ。そしてその直後にこの、
「建設中止決定」
である。これで主さんも私も描(えが)いた、「議会リコール」にはならない。
「確かに住民の声に押された知事の判断ということはあるだろうな」
主さんはそう言った。
☆☆
今日は教え子の舞台です。初めての主役で、しかも彼がずっと重たく抱えてきたことが主題です。いつもなら小一時間で行ける場所ですが、今日は二時間、と余裕をみての出発です。どう彼が自分の中で出口を、または入り口を見いだしたのか、見届けて来ようと思います。
☆☆
都知事選、どうなりますかね。
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いやあ、参りましたね。40年ぶりって、つまえ私が20歳の時以来の大雪ってことあんですよね。浪人(ろうにん)してましたね、私。懐(なつ)かしい、って雪のことじゃなくて浪人中のことがですよ。
これは昨日の夕方で、ここから夜はさらにふぶいたんですねえ。
大体似たようなアングルでとったんですが、これでも少し雪かきしたあとです。雪の中からようやく姿を現した私の愛車(バイク)です。
オマエもこんな雪なんだから、記事内容も少しは考えろ、空気読めよなんて言われそうで、こんな書き出しです。
都知事選、投票率下がるんだろうなあ。どうなりますかね。
というわけで、今回は☆印から始まっちまいました。
雪の警報(けいほう)が出て、あわてて福島から帰ってきました。
1 風評被害
「食べないよ」
そう事も無げにいうおばちゃんの言葉に、私は耳を疑った。
もう顔なじみとなった広野の農家直販所(ちょくはんじょ)、この日は午後から冷たい風が勢いを増して、木やのぼりを大きく激しくなびかせていた。
「こんなに寒いのに、あちこち回ってんのかい?」
そうおばちゃんが聞いてくれた。私は、苦戦を続けている「ニイダヤ水産」のパンフレットを、おばちゃんやお客さんに差し出して勧(すす)めた。
「魚かい」
と、おばちゃんたちはあんまり気乗りしない笑いを浮かべる。私はやっぱりなと思う。
「どこの魚で(干物を)作ってるんだい」
と一応は聞いて来るのだが、福島産のものでないことぐらいは知っているのだ。
「孫(まご)がいるんだよ」
「娘(母親)がうるさくてさ」
という二人の店番のおばちゃんの気持ちは分かる。
しかし、そのあと話のついでに、
「米はここ(直販所/広野)のを食べるんですよね」
そう確認のつもりで聞いた。そして、私は驚いた。
「食べないよ」
二人は何でもないふうに言い、お客さんも笑っている。ここは、
「数量を測った安全なお米を売っている」
直販所ではなかったのか、ようやく生産し販売(はんばい)にこぎつけた「喜びの農家が直営(ちょくえい)する」ところではなかったのか、知らず知らず私は反芻(はんすう)した。
「孫がいるんだよ」
「娘がうるさくてさ」
また二人は同じことを言った。ホントですか、私はもう一度聞く。
「美春のを食べてんだよ」
私は三春町が、広野に比べてそんなに線量が低いはずがないことぐらい知っている。
「こっちの米の方が安心なんじゃないの」
私はそのことを言った。
もとはと言えば、国が同心円で警戒区域を決めたことから始まっている。広野や川内から郡山や福島に逃げた人たちは、あとになってみれば線量の高いところに避難(ひなん)してしまった。今や帰還(きかん)を迷っている故郷の方が線量が低い。そんなおかしなことが起きているのだ。そのことを言ってみたが、
「娘がそう言うんだよ」
同じことを言う。
「水も買ってるんだよ」
私は改めて『風評被害』の現実を見る思いだった。当の本人たちが不安に思っている。そのことを『風評被害』と言えるわけがない。
「魚も米も安全なのに、みんな不安がって買ってくれない」
と言ってる本人たちの現実がこうなのだ。これを『風評被害』なる言葉の一人歩きと言わずしてなんと言うのだ。結局は放射能という、目に見えないものとどう向き合うのか、私たちはまだ決めてとなる手だてを持っていない。
そういうことか。騙(だま)しあいかよ、そう言われるぞ、と思いつつも、この先に立ちふさがる困難の大きさを改めて思うしかないのだ。
確かにこの間まではなかったはずのモリニタリングポストが、この直販所の脇に立っていた。それは除染中の公園入り口で、向こうに火力の煙突(えんとつ)が見えた。数値は写真をとった時は「0,164」だった。
「今年になってから出来たんだよ」
おばちゃんが言う。
「みんなが安心出来るようにって作ったみたいだよ」
隣(となり)にいたおばちゃんが、
「でも山の方では高いってよ」
と付け足した。
2 町民の気持ち
次の日、楢葉の仮設で牧場主さんにこの話をすると、主さんはあきれたと言わんばかりに、声を出して笑った。
「生産してる人間や売ってる奴が、そんなんじゃしょうがねえよ」
そうして去年の秋に始まった、福島県沖での「試験操業」の時の話をした。
線量検査のあと、このまま築地(つきじ)に出すのはどんなもんかと、もめたのだそうだ。自分たちがまず食べて平気なことを証見せてからがいいのではないかという意見が出され、その対象が町だけでなく周辺一帯へと、段々に「その方がいい」と、広がったという。
「どたばたやってる間、築地への出荷(しゅっか)はずいぶん遅れたんだよ」
この広野の直販所とはまったく逆のケースということになる。
「BSE(狂牛病)騒ぎの時は、オレたちの牛も売れなかったよ」
主さんは、その昔、銀座だったら5万円なりの肉を、
「1000円で食ったもんさ」
と振り返って言った。
読者もニュースでご存じだろうか。楢葉町の中間貯蔵施設の建設は中止となった。なんともおかしな経緯(いきさつ)だ。なぜなら、だ。住民はこの施設建設の是非(ぜひ)を問うため、住民投票をしようとした。そして驚異的(きょういてき)な数の署名を集めた。建設しないと初めから分かっていたら、こんな大変な思いをして署名など集めない。でも、町は初め、
「建設を認めたわけではない」
として「建設のための調査」を認可(にんか)した。そして次は、「保管庫」ならという話となった。住民は不安を膨(ふく)らませる。当たり前だ。そして住民投票実施要求に動く。
町長は、
「高濃度廃棄物(はいきぶつ)の受けいれは困る」
としつつも、この住民投票要求に対しては、
「私たちが決める問題ではない」
という判断をした。つまり住民投票をしないということだ。町議会はこれにならった。4対6でこの住民投票条例案は否決されたのだ。
「自分たちの町のことではあるが、自分たちで決めることは出来ない」
としたのだ。そしてその直後にこの、
「建設中止決定」
である。これで主さんも私も描(えが)いた、「議会リコール」にはならない。
「確かに住民の声に押された知事の判断ということはあるだろうな」
主さんはそう言った。
☆☆
今日は教え子の舞台です。初めての主役で、しかも彼がずっと重たく抱えてきたことが主題です。いつもなら小一時間で行ける場所ですが、今日は二時間、と余裕をみての出発です。どう彼が自分の中で出口を、または入り口を見いだしたのか、見届けて来ようと思います。
☆☆
都知事選、どうなりますかね。