千の天使がバスケットボールする

クラシック音楽、映画、本、たわいないこと、そしてGackt・・・日々感じることの事件?と記録  TB&コメントにも☆

おとうさんたちの夏休み課題図書

2006-08-13 12:57:10 | Book
夏休みだっっ!!

ビールを呑んで、ご無沙汰のお子さまたちと触れ合いたい世のお父さんたちに、「週刊東洋経済」から”この経済本がすごい!!”と課題図書が提出されているではないか。ビジネスマンだけでなく、働く女たちもいい男だけでなく経済本に触れ合うべきでしょう。というわけで、一部興味のそそられる本をリストアップ。
(*書評は、経済の専門家であられる「日々一考」econ-economeさまのブログをご一読ください。)

■「素数の音楽」マーカス・デュ・ソートイ著←ヤフー社長:井上雅博氏ご推薦
素数には、学生時代からその魅力と不思議さを感じていた。”素数”という数学に”音楽”を重ねたタイトルのネーミングの美しさに、感嘆する。井上氏曰く「単純に見えるほど奥が深い好例」というひと言は、素晴らしく的を得ている。IT経営者が語る3冊は、漫画本の「スラムダンク」などを含めて、従来のオールド・エコノミーとは一味違う。彼らの読んでいる本を読みたいとも思わないが、経済という従来のカテゴリーを超えた週刊東洋経済の本特集は、経済学の新しい潮流を予感させられて、我がさびかけたアンテナにひっかかる。
はてな社長・近藤淳也氏の推薦する非専門家である不特定多数の人が集合体に出す結論が正しいという「『みんなの意見』は案外正しい」という本は、急成長株はてなのコンセプトに一致していると思われる。「Google誕生」とともに、IT企業に勤務される方は必読だろう。

■「ウィトゲンシュタイン」藤本隆志著←外務省を休職中の佐藤優氏ご推薦
先日レンタルビデオショップでウィトゲンシュタインの思想を映画化したというDVDを発掘。その妖しい映像美に魅せられたので、いつか借りて観たいと思っていた。佐藤氏は、本書を小泉マジックを読み解く案内書としているが、論理と情緒の世界をわける必要を説いている。最近、感情に流される日本のあり方に疑問をもっていたので、一度難解な本にも挑戦すべきか。余談だが、長い獄中生活にも関わらず、慧眼、体重ともに肥えている佐藤氏の書評はおもしろい。

■「下流社会」三浦展著←大和総研:原田泰氏ご推薦
そういえば、この本家にあったな・・・。パロマ工業の湯沸し器事件で、下請け工場のパート社員100人の契約打切りという怒りたくなる報道http://www.hokkaido-np.co.jp/Php/kiji.php3?&d=20060811&j=0022&k=200608112644を読み解くためにも、一読しておこう。

■「修身教授禄」森信三著←限りなくダークなホワイトナイト・北尾吉孝氏ご推薦
本に囲まれて育った北尾氏は、読書家としても有名らしい。何度も読んでマーカーをひいてボロボロになったという本書は、人生のあらゆる課題、テーマーが記されているという。サイバード社長の堀主地ロバート氏ご推薦の新渡戸稲造の「武士道」に近い本と思われる。社会に旅立つ者への推薦書という印象。むしろ老後に読もうかな・・・。

■「米中石油戦争がはじまった」日高義樹著←丸紅経済研究所:柴田明夫氏ご推薦
先日のワシントンレポートを車の運転中に聞いたので、よくわからなかった。石油はアフリカ問題も含めて興味あるので、必ず読む予定。

■「私のパリ 私のフランス」岸惠子著
憧れの女性で最後の日本女優、岸さんの本著も。
■「物理学者、ウォール街を往く。」エマニュエル・ダーマン著
■「行動経済学」友野典男著・・・注文中
■「孤独なボウリング」ロバート・D・パットナム著・・・図書館から借りて手元にあり。次の次に読む予定。ボリュームの厚さは、夏休みに最適。
■「トリックスター」山田雄大著・・・図書館に予約予定
■「会社はだれのものか」岩井克人・・・「貨幣論」とともにほこりをかぶりつつある・・・。

以下読んでいた本↓
□「ウェブ進化論」梅田望夫
□「ベン・バーナンキ」田中秀男
□「ヤバい経済学」スティーブン・D・レヴィット・・・私に言わせれば、旧知の事実だから読む必要ないと思う。
□「ヒルズ黙示録」大鹿靖明

読みたい本、読むべく本多数あり。にも関わらず時間が足りない。先月より職場の機構が大改悪され、現場は大混乱。社員の残業時間は、ヤバくて言えない状態になっている。。。改善と対策がすすんでいるので、年内には解決しそうなのがせめての救い。
たまにはビールを呑んで、読書三昧をしたいっ。。。

「ヒルズ黙示録」大鹿靖明著

2006-08-12 00:15:19 | Book
六本木ヒルズ38階の会議室は、新春のめでたさも吹き飛ぶような暗く、重い雰囲気に包まれていた。何しろ、どうやって会社を存続させようかと幹部達が話し合っていたのだから。キーパーソンである宮内は、「罪はすべて俺がかぶる」と彼らしい男気を見せていた。その時、会社の社長である堀江貴文はぼそっとつぶやいた。
「ひなのちゃんに迷惑がかかっちゃうなあ」
その後逮捕された事件の主役が検察にとりあげられた携帯電話の待ち受け画面は、タレントのY・H。そして発売予定のCDの録音中だった。

ライブドアが、村上世彰のささやきにそそのかされて、機関投資家が主に市場を混乱させないために行う時間外取引という手口を利用して、ニッポン放送の株を奇襲作戦で買い占めていた時に、村上の腹心の滝沢建也は「こんな面白いオペラはない。チケットは手放さないよ」とライブドア関係者にうそぶいた。この言葉を拝借すると、「ヒルズ黙示録」は、最高におもしろいオペレッタ!奥様族が最もはまっているらしいテレビドラマ「不信のとき」以上に、謀略、ホワイトナイト、罠・・・と不信のヒルズ族の人間模様は、ドラマ制作するテレビ会社よりももっともっとおもしろいドラマだった。著者の週刊誌「AERA」の記者・大鹿靖明氏が当事者であるヒルズ族に密着取材して、詳細な事実の積み上げからあぶりだした彼らの人間模様とくりだされるドラマは、迫真をもって読者に迫ってくる。

ドラマの内容は上記を予告編として、以下主役の紹介。

■堀江貴文・・・フジテレビのトップ日枝との初めての会合に遅刻して現れた彼は、でっぷりとした体にタキシードをまとい酔っ払っていた。単なる結婚式の帰りだったらしいが、これもホリエモン流奇襲作戦かと日枝は警戒した。堀江の原動力は、他に類を見ないほどの深い自己愛だという。元広報担当者によると「堀江さんは本当に女性を愛したことがない。誰かと熱烈な恋愛をしたり、失恋して傷ついたりすることができない人。あの人は、自分が一番好きだから。」その強烈な自己愛は、他者とのしがらみにしばられることもなく、普通ありえない東大中退へという思い切りのよさにつながる。HP製作をひとりで請け負っている時は、非常に真面目で納期も守り、格安値段で引き受けていたという高い評価だった。そんな優秀な技術やさんだった彼が、上場など考えも及ばなかった頃、運命的に宮内と出会う。

■宮内亮治・・・幼い頃から姉とともに祖母に育てられる。小さなお好み焼きとタコ焼きの屋台をはじめて、孫を育てる祖母のもとに小学生の頃から自宅で刻んだタコやキャベツを自転車に乗せて運んでいた。横浜商業高校を卒業してから昼間働き夜間の専門学校に通い、9年かけて税理士の資格を取得。ずっと市営住宅に住んで今はひとり暮らしをしている92歳になった祖母に、毎月30万円の仕送りを欠かさない。常に想定されるリスクをすべて提示し、揺るぎない言動と圧倒的な行動力に、絶大な支持をえて、堀江が夢見る経営者としたら、彼は会社をきりもりする事実上の社長だった。

■熊谷史人・・・岩手県出身。学生結婚していて、横浜市立大学卒業する時は、すでに2児のパパだった。学生の時から生活費稼ぎのために深夜までバイトの日々。大企業に入るよりもベンチャーを夢想するが、生活のために断念。中堅商社マン時代にライブドアグループの勧誘され、金融や証券の仕事よりもプレーヤーとして事業会社に行きたいと本体に転じる。朴訥な口調と茫洋とした風貌だが、人心をつかむのはうまかった。騒動のさなかにもちあがった女子アナとの鍋パーティ事件で、敵方の親子ほど年齢に離れた上席執行役員にコンタクトし、なかなかの好青年で奥のある人物と言わしめている。

■塩野誠・・・熊谷の相談相手になった彼は、金融機関の海外駐在員だった父をもち、慶応大学卒業後はシティバンク、ゴールドマン・サックス証券等経歴を経て、ネットサーフィンでM&Aの実務経験者を求めていたライブドアと出会う。カオス状態の時に入って、リスクをとって暴れたいと入社。大学時代、500名のメンバーを抱えるESSの代表を務め英語劇の舞台美術に携わった経験のある彼にとってライブドアは、「舞台のよう。まるで毎日、壮大な実験場で演技をしているみたい」と映る。

■村上世彰・・・大阪・道頓堀川の近くで育つ。小学生時代に株の運用資金として渡された100万円は、大学時代の広尾ガーデンヒルズの住居にまで成長。留守がちな父との共通言語は、”株”だった。「滅びゆく日本」という問題作?を官僚時代に発表。官僚時代に築いた人的財産をフル活用して、温厚で愛想の良い灘中からの友人丸木、こんなに頭のよい奴に出会ったことがないと感嘆させた秀才の滝沢らメンバーと固い絆で結ばれた村上ファンドを設立。「あざとく立ち回り、巧みに利益を追求する、したたかなファンドマネージャーの顔がある反面、株主への還元やコーポレート・ガバナンスなどを訴えるオピニオン・リーダーとしての『正義』の顔ももっている。その二面性は、前と後ろに二つの顔を有し、光と闇、善と悪などあらゆる対立物を象徴する古代ローマの神・ヤヌスを思わせる」というのが、著者の鋭い村上評である。

■三木谷浩史・・・神戸市の著名な神戸大学名誉教授の父のもと裕福に育つ。一橋大学、日本興業銀行、ハーバード大学という経歴に、財界のお稚児さんという噂の華麗なる人脈がつく。またしても村上の甘いささやきと「武器商人」持田昌典の煽りにのり、ライブドアの謀略じみたマスコミへの怪電話に、育ちのよいお坊ちゃまは翻弄されたのかもしれない。TBSへの敵対的買収と大博打に打って出たはいいが、ぎりぎりの勝負に情緒不安定と評判がたつ。

その他、貧乏貴族のようにロンドンで蟄居生活をおくる鹿内宏明、北尾吉孝なるホワイトナイトなど、オールドエコノミー軍のおじさまたちが友情出演。
時代は事件を語るというが、本当にホリエモンはやり過ぎたのだろうか。市場経済型の競争社会がもたらした錬金術の行き過ぎ、時代と社会の徒花となった事件だったのだろうか。ライブドアという会社を著者は、自由でアナーキーなパンク野郎の築いた「ガキ帝国」と見ている。
逮捕前日、熊谷は著者との最後の電話で
「こういう形でボクたちがつぶされていくのは本当に残念。でも面白かったでしょう?こんな奴ら、めったにいなかったでしょ」と語っている。

意外や意外、読了後、今まで馬鹿にしていたライブドアに魅了されている観客を発見する。それは、私だ。安定した大企業を飛び出して、ベンチャー企業で働く人の気持ちを理解した。それに、こんなにおもしろいオペレッタはめったにない。だから是非、あなたもチケットを入手されるように。

*番外編→「メディアの支配者」

ハンガリー人のおおいなる夢の実現

2006-08-10 00:14:11 | Nonsense
1975年ジョンズ・ホプキンズ大学(経済学博士課程)卒業。その後プリンストン大学助教授(経済学)に就任という華麗なる経歴を更新しながら、貧困解消の現場に憧れて世界銀行経済開発研究所を飛び出し、後に世界銀行副総裁まで登りつめた女性がいる。西水美恵子さんである。
西水さんが連載されている「思い出の国 忘れえぬ人々」を読むと、これまでいかに信念に基づいて発展途上国に尽くしてきた熱い女性だということが伝わってくる。

その連載の中で、ハンガリーでの世界銀行支援にこぎつけた話が、映画『ハンガリアン』を思い出させて、なかなか感慨深いものがある。
ハンガリーは、ソ連の抑圧と共産党独裁から逃れるために1956年にハンガリー動乱を起こしたが、ソ連軍に鎮圧されながらも、したたかに粘り強く降伏条件を交渉し、外交はソ連と完全協調路線を歩むかわりに、社会主義的市場経済をとった。83年、ハンガリー政府は世界銀行に産業構造調整プロジェクト案を提出した。当時にハンガリーでは、国営企業の独占体質により儲かる会社ほど損、勤勉な労働も損となる税制に問題があった。西水さんは、いならぶ官僚たちを前に、ハッガリー政府のプロジェクト案を無駄と徹底的に批判した。その帰り道、人通りの少ないブタペストの裏道を歩いていると、石畳に響く自分の足音に重なる音が気になり振り替えると、黒いスーツ姿がサッと路地に隠れた。なるほど、目を輝して彼女の批評を聞いていた官僚たちが、ひと言のコメントも発しなかった理由を理解した。

翌日、盗聴されない館に会議場を移すと、保険・銀行業の近代化、労働法改正と労働市場の育成、国営企業の民営化や株・債券市場の設立と、彼らは熱く経済構造大改革を語り始めた。しかし、どれもこれも社会主義のイデオロギーにひっかかる。そして計画省、大蔵省、中央銀行の高官3人は世界銀行の支援を求めた。そこから西水さんのハンガリー通勤は2年間続き、改革同士は100人以上に膨れ上がった。電話・FAXは、盗聴されることを逆手におおいに利用し、逆に聞かれたくない内容は、ピクニックの青空会議。85年春、そんな青空会議の席でゴルバチョフ政権内定の速報が入る。彼を学友と呼ぶ”同志”は、ペロストロイカの春の訪れを喜び、ハンガリー民謡を歌い踊り続けたという。
そして世界銀行の1億ドル融資が決まった。

89年、鉄のカーテンを自ら破って東ドイツ人の亡命目的の入国を許し、オーストリア国境での政治集会を認め、約1000人の亡命を実現させるという「汎ヨーロッパ・ピクニック事件」を起こす。この事件をきっかけに、ベルリンの壁が崩壊していった。ブタペストは美しい街だと西水さんは語る。建築物、音楽、エコノミスト官僚らの才能に、広くて深いヨーロッパ文明に圧倒されたとも。ハンガリー動乱の時に勝ち取った条件は、ハンガリー人の優秀な頭脳と愛国心が密かに賭けた、母国解放運動の戦略だった。
あの時、たった3人の高官が描いた究極の夢は、EEC(当時の欧州経済共同体)の加盟に尽きる。21年後の2004年5月、ハンガリーは欧州連合加盟国になった。

映画「ハンガリアン」は

「愚かで食い意地が張っていることを除けば
我々ハンガリー人は全く純情な国民だ
希望よ 我らに扉を開け」

という詩で始まる。
ブラームス編曲の「ハンガリー舞曲集」は、ほの暗い情熱がゆらめきに心がとらわれ、誰もが一度聴いたら忘れることができないだろう。そこには重い歴史からたちあがる民族の魂が感じられる。
ハンガリー人の母国を愛する情熱は、国民性だ。そして夢を実現するねばり強さ。ハンガリーが夢を叶えた時、西水さんは嬉し涙が止まらなかった。

地球温暖化は誤った説?

2006-08-08 23:25:26 | Nonsense
最近うっかり本音を言ってしまうと、ブログが炎上するらしい。上村愛子さんのブログも、先日のボクシングの試合結果を単純に感動しただけで炎上中とのこと。単に彼女のよみが浅かっただけで、そんなに責めることはないと思うのだが。

炎上と言えば、本当に炎上しているのが、日本列島夏の陣である。35℃。京都では、37℃になるかという天気予報を聞くたびに、我が身がかげろうのように消滅するのではないかとおびえている。確実に地球の温暖化は始まっている。そう思っていた。誰もが、地球が温暖化がすすんでいると考えているだろう。映画「ワイルド・ブルー・ヨンダー」の異星人の故郷のようにいずれ、地球の表面は海水で覆われるかもしれないと。

ところが、ところがその仮説に意義を唱える科学者がいるのである。その勇気ある御仁は、東京大学生産技術研究所副所長の渡辺正教授である。
1988年NASAの科学者ジェームズ・ハンセンさんが大気中の二酸化炭素濃度の上昇に伴う気温の上昇を証言したが、渡辺氏によると論述の基礎データーに疑問があるという。連日の猛暑の原因が、ヒートアイランド現象によるのは理解しているが、逆に長期的に気温が下降している地域も多く、”ローカル”でなく地球規模では、上昇も下降もないと断定している。

先進国では、大気汚染、水質汚染とともにほぼ改善されている。公害という言葉も過去の悪しき遺産となりつつある。それにも関わらず、地球温暖化説が環境省主導により国民に行き渡っているのは、このような環境浄化努力による成果として養成された専門家の仕事がなくなったことによるという見方もある。渡辺氏によると
①莫大な予算を使って京都議定書どおりにCO2排出抑制に成功しても、昇温抑制効果はゼロ。
②発展途上国の汚染問題はいずれ課題として残るものの、温暖化や酸性雨という地球規模の環境危機はない。

考えてみると長年、環境汚染だの、酸性雨は禿になるだの、地球温暖化だのと言われつづけ、車の運転による大気汚染、エアコン使用による温暖化、ゴミを出すこと、ひいては息を吐くことすらこの地球を汚しているような思い込みにとらわれていた。もしかしたら、予想以上に、そして心配していたよりは地球は元気で健康なのかもしれない。戦争さえなければ。

渡辺氏の解説で最も興味をひかれたのが、「先進国は無駄が多いが、すべての無駄を排斥しようとすれば環境危機論者のぎすぎす感をもたらす」という意見である。この”ぎすぎす感”の感触はよくわかる。私のようにいい加減な人間には、苦手だからだ。日本人は3割の食料を捨てていて、国内農業生産額の11兆円に匹敵する。このような悪い無駄をやめる必要はあるが、良い無駄まで排除するのはやり過ぎ、という氏の感覚をしごくまっとうだと思う。
今夜も熱帯夜だ。ローカルな現象とわかっていても、蒸し暑いっ。近頃、質量ともに睡眠が足りていない。
しかし小心ものの私は、エアコンをつけるよりは、西瓜を食することで地球に優しくしよっと。。。

ドルの威光にも陰り

2006-08-07 23:35:17 | Nonsense
小説「ウルトラ・ダラー」で渋い名脇役だったアジア大洋州局長の瀧澤が残した言葉のとおり、ドルに支配される世の中はやはり不健全だろう。
そんな不満を打開しようと、3月8日の石油輸出機構(OPEC)通常会議の席で、日量400万バレルの原油生産に達するイランは、中東産原油価格をユーロ建てにすることを大胆にも提案した。しかし、中東の産油国の多くは、米国の庇護のもとに国家の安全保障をかろうじて維持しているだけに、この提案を受け入れるのは難しい。

石油の世界は、1859年米国ペンシルベニア州で商業油田が生産をはじめて以後、米国を中心に回ってきた。原油価格はすべて米ドル建てであることによって為替リスクもなくエクソンモービルの昨年の純利益は361億ドルに達した。現在の原油価格は、ニューヨークの原油先物市場(NYMEX)に上場されたWTI原油先物価格が事実上決定している。日本でもガソリン価格が高騰している。ご近所のガソリンスタンドでは、ハイオクが1㍑150円に値上していた。しかし、原油が不足しているわけではないのは誰もが知っているだろう。WTIの生産量が日量30万バレルに比して、NYMEXでの一日の先物取引はその700倍の取引の2億バレルになる。この先物市場で決められた価格が、世界中の原油取引の基礎になることを考えたら、米国のヘッジファンドや年金基金といった投機筋に、石油価格が支配されていることがわかる。
彼らは、為替リスクを負わずに、原油を投資の対象として巨額の利益を得ている。

イランのユーロ建て取引の提案に関し、大賛成したのがロシアと反米を示す国にすりより石油資源の確保をめざす中国、欧州の石油企業だった。ユーロ高のため、原油収入をドルで受け取りユーロに転換する時に為替損が発生するロイヤル・ダッチュシェルにとってもユーロ建てが望ましい。ただユーロ建ての取引を推進するためには、NYMEXのような先物市場の創設などの様々な整備が必要であるが、いまだ動く気配はない。

ライス国務長官は、2月のイランの核開発協議において、原油価格のドル建て維持を働きかけたという。安全保障と引き換えに。
日本でも、ホテル業を廃止する予定のプラザホテルで行われた85年のプラザ合意により、1ドル240円が一挙に円高に進み、円建てにより調達した石油企業の開発資金の借金がなかなか減らず、05年には1兆円を超える不良債権問題で石油公団が廃止された。
今後、石油覇権に向けてドルとユーロの戦いが始まる。

米「偽ドル札」への厳しい制裁

2006-08-06 23:13:16 | Nonsense
「ウルトラ・ダラー」のすべての男たちの理想ともいえる女性のハニートラップにつかまったスティーブンの友人、オクラホマの牛であるコリンズは、大量の偽札造りに励んだ北朝鮮にどのような対応したかの後日談。

******************************************************************************************************
「追い詰められた末の瀬戸際戦術だろう」
ミサイル発射の背景について、警察庁幹部は、米国による金融制裁が北朝鮮に深刻な影響を与えているとの見方を改めて示した 偽ドル札や覚せい剤密売で北朝鮮が得た利益のマネーロンダリング(資金洗浄)に関与したとして、米財務省は昨年9月、マカオの金融機関「バンコ・デルタ・アジア」に対し、米金融機関との取引や米市場での金融活動を禁じた。その結果、取り付け騒ぎが起き、マカオ当局は同行の北朝鮮関連口座を凍結。
6か国協議の米首席代表、クリストファー・ヒル国務次官補によると、凍結口座の預金総額は約2000万ドル(約23億7400万円)に上った。香港にある中国銀行香港の系列銀行もまた、米司法当局の要請で、北朝鮮関連口座の計267万ドル(約3億円)以上を凍結したという。(中略)
こうした「北朝鮮マネー」の封じ込めは効果を上げており、警察庁幹部は「最大の財布である金正日総書記の秘密口座が凍結されたことで、北朝鮮経済自体が回らなくなっている」と指摘する。制裁措置は、闇市場の物価が上昇するなど、国内経済にも影響を与えており、5月11日には、昨年末から中断していた世界食糧計画(WFP)の食糧支援の再開が決まった。 「逼迫(ひっぱく)した経済に金融制裁が追い打ちをかけている。状況の打開を図るため、米国を交渉の舞台に引き出すのが目的ではないか」。警察庁幹部はこう分析している。(2006年7月5日 読売新聞)


**********************************************************************************************************

銀行の監督権は、国家主権として財務省や中央銀行に相当する金融機関がもつところ、他国の米国がこのように中国の金融機関でドル流通を封鎖できたのは、コルレス口座というシステムによる。中国の銀行がドルの現金を受け取っても自国内では流通していないので、コルレス制度を利用することになる。このコルレス制度とは、コルレス契約という提携関係を外国の銀行と設定し、コルレス口座をその通貨が流通している国の銀行に開設する。($なら米国)企業間でドルの決済をする場合、米国の銀行に開設されたコルレス口座に振り込むことになる。送金する時は、送金指図を行って、銀行間のコルレス口座を付け替える。
北朝鮮が自国内で受け取ったキャッシュのドルも、ドル札である限りは米国の銀行すべての取引履歴でその資金の動きを把握される。米国としては、北朝鮮だけでなく、中国のコルレス口座からの支払を禁止して封じ込めることも可能だ。お金をもっていても、口座を封鎖されてしまったら意味がない。
今回だけでなく、米国はイラン、リビアに対してもドル預金口座を凍結して、テロ支援国の国家経済を締めてきた。それも世界に流通するハードカレンシーとしてのドルの強さからくる自信である。

石油、金、ウランだけでなく、日本が輸出する自動車や家電、その殆どがドル建てである。また発展途上国では、自国通貨よりもドルをもちたいという資産家の気持ちもわかる。流通性、安全性(ニセ札は出回るけれど)、安定性という点で、ドルは世界最強のお札なのである。それ故に、せっせとニセ札づくりに励む国も出現するという皮肉。
現在米銀行におけるコルレス口座の記帳額は、米国以外の全世界のドル建て外貨準備高に一致する。その額は、なんと3兆4千億ドルに達するという。
ドルは米政府発行ではなく、今は不換紙幣であるが、米国は、このようにドルの国際機軸通貨としての威光と実力を維持することによって世界を支配することも可能だ。そして実際コルレス口座封鎖となれば、日本も含めて米国に経済的に支配されることになる。
「ウルトラ・ダラー」でアジア大洋州局長の瀧澤が旅立つ時にスティーブンに宛てた手紙で、ドルの強さを批判するくだりがあるが、だからと言って外交官の身分で国益に反する行為に温情をわりこめないが、その主張には確かに一理ある。

「ウルトラ・ダラー」手嶋龍一著

2006-08-05 00:39:49 | Book
北朝鮮の「ブラックマネー」5千万ドル、マカオ銀行からまた発見

マカオのバンコデルタアシア(BDA)が60の北朝鮮口座が追加で発見されし、ここには5千万ドル(約57億円)が入っていたと米国行政部消息筋が25日、明らかにした。 この銀行は米国の圧迫によって昨年9月、北朝鮮の不法行為と関わっていると推定される50の口座、2400万ドルを発見し、凍結した。これでBDAで発見された北朝鮮資金は約110口座、7400万ドルになる。 (06/4/27中央日報)

********************************************************************************************

「本書を小説だと言っているのは著者だけだ!」
新潮社らしからぬアグレッシブなコピーが示すように、現実がフィクションを追いかけるような印象を与える。

北朝鮮の知能と技術の果実であるウルトラ・ダラーは大量に存在する。それらの確かな手ごたえのある果実は、飢えた国民の口に運ばれることもなく、日本、ひいてはその背後に控える米国に向けたウクライナ製の巡航ミサイルX55の購入に遣われたというフィクションは、映画好きなこの国の首席の描く下手なシナリオ以上に読ませる。

プロローグは、現代の日本。京都馬町の旧小林古径邸での浮世絵のオークションから始まる。その道の趣味人の背後から、オークションのなりゆきを見届けているのは、英国・BBC東京特派員のスティーブンだった。そこへ一本の極秘情報が入る。ダブリンで新種の偽ドル札「ウルトラ・ダラー」あらわる。彼のもうひとつの裏の顔は、秘密諜報部員だったのだ。そして物語は、一気に1968年12月14日、荒川の小さな町工場に飛ぶ。青森の中学を卒業してこの親方とふたりっきりの工場に就職して8年目。真面目で腕の良いひとりの彫刻職人が、ある日忽然と失踪する。間借りしていた小部屋は、朝出かけたままになっており、通帳と印鑑もそのまま残されていた。。。

英国の資産家という恵まれた境遇に育ち、72年製のMGBロードスターを乗り回して趣味が篠笛(福原流)という主人公のスティーブンを軸に、篠笛の師匠でもある恋人の麻子、米国のオクラホマ出身で友人の財務省・シークレットサービスの捜査官コリンズや日本の内閣官房副長官、そしてアジア大洋州局長などが舞台をロンドン、米国、パリと移しながら、ウルトラ・ダラーの震源地をめぐって、国益とそれぞれの信念を元に、ウルトラ・ダラーという最高のヒロインに結集する。いやむしろ、吸い寄せられていく、という表現の方がふさわしいかもしれない。笑えるくらい、その性格の幼児性と、それゆえに危険をこころみない凍土の主たちの非常識なふるまいの背後に見えるある大国の思惑。物語をひと言で言えば、国家の謀略と闘うスパイ小説になるのだろうが、著者のインテリジュンスで彫塑された本書は、現代の国家論にも一脈通じるものもある。新潮の大ヒット作品であるのも、納得がいく。

日本人にもすっかり耳になじんでいるインテリジェンスとは、なんなのか。一般的に”知性”と約されるが、その言葉の奥は深い。主人公のスティーブンが、インテリジェンス界に入る時、教授に尋ねる場面がある。

「大文字で始まるインテリジェンス、これは知の神を意味する。神の如き視座とでもいおうか。さかしらぬ人間の知恵を離れ、神のような高みにまで飛翔し、人間界の本質をとらえる。これがインテリジェンス・サービスを志した者の目指すものだ。」

知性によって彫塑しぬいた情報。それがもうひとつのインテリジェンスの本質である。すべては国益のからんだ話である。それでは、外交とは。外交官の役割とは。知的で高尚なウィットにとんだ会話の応酬が、様々な示唆を含んで浮かび上がる。今だに進展しない北朝鮮拉致被害者の救済、ミサイル発射による孤立化、国家レベルでの偽札造りも常人には想像できない事件だ。しかし戦略的思考の要諦が、”想像すらできないことをひたすら想起せよ”になるならば、自分の想像力が欠けていたということか。

著者の手嶋龍一さんは、calafさまのご指摘のように1987年NHKワシントン特派員として活躍されたジャーナリスト。ジャーナリストといっても活字よりもテレビの中で育ったためであろうか、一遍の映画を観るような作品だった。小説家としては露出度が高く、道産子にしてはおしゃれな粋人。ちょいワル親父雑誌のモデルのような武装ではあるが、女性の毒者としては、少々登場する女性たちがあまりにも男性にとって都合のよい理想の女性という失笑する感もなきにしもあらず。また、国際派ジャーナリストの生活の一部を垣間見るような部分もある。それでも冒頭の浮世絵の真贋と本編の偽札がつながるあたりは、うまいとうならせる。
大局的な思考をえるための栄養になる果実ともいえる本書をお試しあれ。

手嶋龍一氏のHP
  

名人戦は「朝日」主催で決着

2006-08-02 23:55:52 | Nonsense
神奈川県の某所に、昔から有名な温泉地にある老舗旅館がある。最初に訪問したのは2年前の春だったが、静かで老朽化した建物のノスタルジックな雰囲気をすっかり気に入ってしまった。つい先日宿泊して、ロビーや廊下にある将棋名人戦の写真や、名だたる名人たちの色紙(谷川浩司氏の「切磋琢磨」など)が飾ってあることから、この和田義盛公の別邸跡を敷地とした格式ある旅館が何度も名人戦の舞台となったことを知った。
将棋のルールすらも知らないが、『将棋の子』『聖の青春』に深い感動を覚えた記憶がよみがえり、粛然とした気持ちになった。

さて、3月より紛糾していた名人戦の主催新聞社変更問題には、朝日新聞主催ということで一応の決着がついた。

**************************************************************************************************
(06/8/1 共同通信)
名人戦は朝日主催で決着 将棋連盟の臨時棋士総会

日本将棋連盟(米長邦雄会長)は1日、東京都渋谷区の「けんぽプラザ」で名人戦主催問題に関する臨時棋士総会を開き、投票による表決で毎日新聞社の7年契約案を否決、2007年に予選が始まる第66期以降の主催は、5年契約案を提示していた朝日新聞社に移ることが決まった。
名人戦問題は、苦しい財政事情を背景に、連盟理事会が主催を毎日から朝日へ移管する方針を決定したことから紛糾。5年契約での高額案を提示した朝日に対し、毎日は現行の契約を大きく上回る額の7年契約を提案し、この日の表決で毎日案の賛否が問われた。
将棋界で最高の権威がある名人戦は1935年に創設。毎日の主催で始まり、一時は朝日に移ったが、第36期から再び毎日が主催を続けていた。


*************************************************************************************************************************

但し、名人戦という将棋界において、最も価値の高い文化にふさわしくないふるまいは、ずっと汚点として残るだろう。
今の名人戦を創設したのは、71年ほど前、東京日日新聞(後の毎日新聞)の学芸部長、阿部真之介だった。当時生活が不安定だった棋士たちの生活基盤の安定を図り、優勝者への賞金や予選出場者にもギャラを支払うこととした。最初に将棋の世界に秩序と伝統という文化を形成したのが、東京日日新聞主催の名人戦だったとも言えよう。
そして戦後の46年、段位とは無関係に一年間の成績によって級を決め、それを基準に対局料などを決める徹底的な実力主義制度を貫くにあたり、確固たる基盤を築いた。

新参の読売新聞主催の竜王戦がより高額な報奨金をはずんでも、閉鎖的で保守的な日本独自の将棋の世界においては、名人位のもつ絶対性と威光には及ばない。米長会長がとりしきる日本将棋連盟が、事前に何の挨拶も、契約金引上げの交渉もなく、30年間主催していた毎日新聞に縁切状をたたきつけことに対し、怒り涙ぐむ若手棋士の姿も見られたという。勝敗を分けたのは、36通の委任状のうちのベテラン棋士中心の20通が、毎日案の否決に使われた組織票だった。また札束を積んで連盟と密かに密約していきなり名人戦を簒奪した朝日新聞も、天下の公器にしては、その器はあまりにも小さい。

豊富な謝礼金と発行部数が毎日の二倍という朝日新聞にこうした経緯でうつることによって、将棋の世界も文化という香りが薄らぎ、将棋も所詮ひとつのビジネスという局面が浮かび上がった。10年前には33億円の収入があった連盟も2004年には、28億円に落ち込み赤字決済をだした台所事情から、「朝日から将棋文化のためにこれだけのおカネをだすと言っている。ほかに選択肢はない」と語る棋士の説明も一理ある。しかし、宮崎峻監督の映画「となりのトトロ」の舞台にもなったと説明する旅館の女将の品格のただよう表情を思い出すと、失った駒も多いと感じる今回の名人戦顛末記だった。

患者たちの孤独なボウリング

2006-08-01 23:20:27 | Nonsense
「母の命を奪ったが、もう一度母の子に生まれたい」

認知症の母親を合意の上で殺害したとして、承諾殺人 の罪に問われた無職K被告(54)京都市伏見区=の京都地裁の公判は、検察側が被告の母への愛情を 詳述するなど、異例の展開をたどっている。
15日に開かれる第2回公判には、K被告の親類が出廷。献身的な介護の末に、失業などによる生活苦で追 い詰められていく被告の様子を証言する予定だ。 被告は生活苦から母親当時(86)との無理心中を計画。ことし2月1日、伏見区内を流れる桂川の河川敷で、母親の首を絞めて殺害したとして起訴された。自分も自殺を図ったが死にきれなかった。
(06/5/10共同通信)
********************************************************************************
この平成8年に父が亡くなり、母ひとり子ひとりとなった被告が母を手にかけるまでの経緯をもう少し詳しく報道したスポーツ新聞を読むと、K被告、そして亡くなった方に同情を禁じえない。検察官の異例の対応に同調したい。大家族から核家族へ、子沢山から少子化、そして地域社会の相互援助の限界を感じる事件だった。それはまた逆に、子どもを育てる親としての地域の子育て援助の消失とあわせ鏡のようになっているのではないだろうか。今月号の『選択』に掲載されていた精神科医の遠山高司氏のエッセイに、考えさせられた。

近年、50歳過ぎの精神患者の入院が増えているという。その年齢で入院するはめになった経緯をたどると、80歳過ぎの母(もしくは父)の高齢化に伴い、食事の世話や家事ができなくなることによる病状の悪化にある。不幸にして、地域社会を含めた受入先を失った中高年の患者は、そのまま病院で社会的な死を迎えることになる。精神科の治療技術の向上に伴い、重い精神患者でも自宅での生活や就労もできるようになってきたのだが、それも親の援助と支援があっての可能性だった。親が高齢で倒れたら、それに代わる内容を担う行政も民間施設もない。例えば、病状悪化による一回の受診援助を民間機関が行うためには、300万円もかかるそうだ。単身の精神障害者の生活援助には、月数10万。地域で支えるには、莫大な費用がかかる。しかし、それは今の地域での話である。かっての相互援助の習慣をもちえた地域社会だったら、もう少し安くなっただろう。

以前、病院で30代半ばの精神患者の男性と知り合ったことがある。その方は明るく、饒舌で(この饒舌には、日常生活で社会との接点が少ないことを感じさせられた)、お話もうまくて、精神患者には見えない。20代に仕事の激務で鬱病になり、やがて精神障害者になったという。症状が悪化すると入院して、結局入退院を繰り返し、障害者手帳もちゃんともっている。ご両親や妹と団地に住み、もらっている年金の金額まで教えてくれる彼の表情は、なんの屈託もない。けれども楽しい会話の中で、まだ現役で働いてらっしゃるというご両親が高齢になった時のことを、内心案じてもいた。

確かに疫病は減少し、この国では乳幼児が病気で亡くなることは、確実に減少している。にも関わらず、病そのものは少しも減ってはいなく、むしろ増えている傾向にあると遠山氏は言う。驚くことに、何らかの身体的な障碍をもって生まれてくるこどもは出産の10%にも及び、更に成人するまでに表面化する精神的な疾患も相当数ある。治療し問題なく生活できるこどもの方が多いが、自立した生活を送れない方も少なからず存在する。地域コミュニティの崩壊は、こうした偶然のアクシデントがうんだ様々な個性をもつ人々の親の援助を増やした。どんなに愛情があっても、自分が高齢になれば体力の限界とともに”援助”が”負担”となることもありえる。もっとも近隣共同体の衰退は、日本だけのことではない。ロバート・D・パットナムの著書『孤独なボウリング』内にあるリーグボーリングの現象が象徴する一般的互酬性の拠らない社会が、効率が悪いことと重なる。
今は会う機会のなくなった母の友人だったその方のことを、寄る辺なく思い出した夜だった。