まもなく団塊の世代が定年を迎える。団塊の世代が通った跡は、麦も生えないというくらいの大きな大きな塊らしい。しかしこの世代の方達は、ビートルズの洗礼を受け、学生運動の波にもまれ、けっこう話をしていると自分たちの世代よりもずっと自由で革新的でおもしろい。
精神科医の遠山高志さんも、そんな団塊の世代を代表する医師である。その遠山医師に受診している、氏と同世代のある団塊の世代のひとりの男性の話である。
患者は、当時(3年前)55歳の商社マンで5年ほど前から通院していた。
初めて精神科の門をくぐった彼は、角刈りの頭に流行遅れの金縁眼鏡、一見やくざ風だが長身で愁いのある目をしていてなかなかのナイスガイだったという。不眠と冷や汗、動悸を訴える彼は、診察室で擦り切れた「韓国語入門」という本を握り締めていた。それもそのはず、彼は小さな商社で韓国相手の取引専門に25年間働いてきた。彼を落ち込ませたのは、ほんの一見些細なことだった。課長職にも関わらず、他の課長よりも等級が低く、しかもサービス残業に対する特別給与の対象から外れていたことを知ったからだ。会社は彼の努力に全く報いなかった。
確かに小さなことに思えるが、努力が報いられない、しかもおそらく今後も、という事実には彼だけでなく絶望するだろう。
会社をやめたくなり、大学時代の夢だったサキソフォンで食べていくのが夢だったことを思い出すが、こどもの学費、家のローンの支払は無理。抗うつ剤を服用しながらがんばって会社で働いているうちに、小さな会社が大きな会社に吸収された。
仕事がデーター整理という終日パソコンに向かう仕事に替わる。真面目で、義理堅く、『カサブランカ』の映画を好む夢想家タイプの彼は、益々、夜眠れなくなった。そして体調不良により、早退した電車で土足で座席に座って騒ぐ高校生のひとりを殴って逮捕された。
彼を”精神の病”という理由で不起訴にもっていきたい検察官、彼の弁護をする遠山医師のおかげでしばらくすると彼の拘留は解けた。
そして彼は首にはならないだろうが、今度こそ会社をやめる決意をしたという。
団塊の世代の人だけではないが、高度成長期の波にのって彼らはさんざん働いてきた。そして定年までのローンを組んで郊外に小さな家を買い、こども育ててきた。会社に家族ごと養われてきたが、それ以上に会社に貢献してきた。ところが気がついてみると、組織の中で汲々としてがんじがらめになっていて、ある日突然自分はご用済みになっていた。将来の年金もあてにはならない。
就職後3年以内に転職する若者が多いのも問題だが、カイシャに酷使されるのが当り前、という風潮も問題だろう。
彼は会社を退職したら、愛と冒険に生きる海賊になりたいと冗談を言うと、医師は自分だったら、駅前で「カサブランカ」の主題歌をサキソフォンを吹きながら大道芸をしようかと会話をした。
遠山氏は、そんな疲れてぼろ雑巾のようになったおじさんたちへ、
「団塊の男たちよ。いたずらに老後を考えるな。残る人生、のびのび浪漫的自由に生きてみようではないか。」
とエールをおくっている。
精神科医の遠山高志さんも、そんな団塊の世代を代表する医師である。その遠山医師に受診している、氏と同世代のある団塊の世代のひとりの男性の話である。
患者は、当時(3年前)55歳の商社マンで5年ほど前から通院していた。
初めて精神科の門をくぐった彼は、角刈りの頭に流行遅れの金縁眼鏡、一見やくざ風だが長身で愁いのある目をしていてなかなかのナイスガイだったという。不眠と冷や汗、動悸を訴える彼は、診察室で擦り切れた「韓国語入門」という本を握り締めていた。それもそのはず、彼は小さな商社で韓国相手の取引専門に25年間働いてきた。彼を落ち込ませたのは、ほんの一見些細なことだった。課長職にも関わらず、他の課長よりも等級が低く、しかもサービス残業に対する特別給与の対象から外れていたことを知ったからだ。会社は彼の努力に全く報いなかった。
確かに小さなことに思えるが、努力が報いられない、しかもおそらく今後も、という事実には彼だけでなく絶望するだろう。
会社をやめたくなり、大学時代の夢だったサキソフォンで食べていくのが夢だったことを思い出すが、こどもの学費、家のローンの支払は無理。抗うつ剤を服用しながらがんばって会社で働いているうちに、小さな会社が大きな会社に吸収された。
仕事がデーター整理という終日パソコンに向かう仕事に替わる。真面目で、義理堅く、『カサブランカ』の映画を好む夢想家タイプの彼は、益々、夜眠れなくなった。そして体調不良により、早退した電車で土足で座席に座って騒ぐ高校生のひとりを殴って逮捕された。
彼を”精神の病”という理由で不起訴にもっていきたい検察官、彼の弁護をする遠山医師のおかげでしばらくすると彼の拘留は解けた。
そして彼は首にはならないだろうが、今度こそ会社をやめる決意をしたという。
団塊の世代の人だけではないが、高度成長期の波にのって彼らはさんざん働いてきた。そして定年までのローンを組んで郊外に小さな家を買い、こども育ててきた。会社に家族ごと養われてきたが、それ以上に会社に貢献してきた。ところが気がついてみると、組織の中で汲々としてがんじがらめになっていて、ある日突然自分はご用済みになっていた。将来の年金もあてにはならない。
就職後3年以内に転職する若者が多いのも問題だが、カイシャに酷使されるのが当り前、という風潮も問題だろう。
彼は会社を退職したら、愛と冒険に生きる海賊になりたいと冗談を言うと、医師は自分だったら、駅前で「カサブランカ」の主題歌をサキソフォンを吹きながら大道芸をしようかと会話をした。
遠山氏は、そんな疲れてぼろ雑巾のようになったおじさんたちへ、
「団塊の男たちよ。いたずらに老後を考えるな。残る人生、のびのび浪漫的自由に生きてみようではないか。」
とエールをおくっている。
>「いたずらに老後を考えるな。残る人生、のびのび浪漫的自由に生きてみようではないか。」とエールをおくっている
心のためにはのびのびするもよし、ですが、現実的には健康でいられる間だけですし、老後を心配しないでいい社会はほど遠いです。。精神科医なら将来の心配は無縁なのでしょうけど(とチクリ。笑)
どうにかならないのかこの社会。。
他人と競争ばかりしてきた世代だけではなく、誰でも”自分の価値”への評価が低いと人は落ち込みますよね。
そうそう、雅子妃は「120%」のかた、紀子妃は「80%」のかただそうですよ。
自己目標度の話です。^^
そんな遠山さんですが、時々情に溢れる文章を書かれて印象に残ったのですね。
そういえば、女性の小児科医も厳しいですが、精神科医というのもなかなか厳しいと思うのですね。
精神科医になるという方は、やはり当然ながら人の心の病に関心があり、それ故に精神病の発症率は精神科医が一番高いのです。
>どうにかならないのかこの社会
なんで、真面目に一生懸命働いても報われない社会なのでしょうか。いつからこのような世の中になったのでしょうか。社会福祉は向上していると思うのですが、今の日本社会は、おかしいと思います。
>雅子妃は「120%」のかた、紀子妃は「80%」
??自己目標度?雅子妃・・・頑張りすぎ、紀子妃・・・可能な範囲で努力して達成、ということでしょうかね。なかなか考えさせられます。
なるほど・・遠山氏はクールなかただったのですか。
憶測ですが、同世代の男性の挫折した姿に想うものが大きかったのでしょうね、、この文章に表れてますよね。。ふたりで窓ガラス越しに遠くを見つめながらフッと小さく笑いながら話している姿が目に浮かびます。。。「今までよく頑張ってきたな、俺たち」と。
昇進以外にも、心を病む原因は他にもたくさん・・・夫婦の問題から鬱になる人も多いですし。。
文春の見出しだったのです。
「120%主義」と「80%主義」(ごめんなさい、”主義”が抜けていました)
よく言い当てている気がしました(笑)
私たちもお互い肩の力を抜いて生きていきましょう(といっても、もう私は抜きすぎですが・・・笑)
消費税の話、樹衣子さまらしい理論的な分析記事を期待しております。^^
そうなんですよ。不眠、冷や汗、動悸、、、これだけで素人でもノイローゼか鬱病かと思いますよね。病気です。にも関わらず、診察室でも手離さなかったのが、擦り切れた「韓国語入門」、この部分に私はやくざ風の小さな商社の会社員に胸が衝かれるような痛ましさを感じたのです。
なんともせつない(←この単語はあまり使わないのですが)話ではないですか。
この男性も120%主義で頑張りすぎたのかもしれません。
余力を残した80%は無理でも、せめて75%主義でいきたいですね。
消費税、おっとっと・・・複雑過ぎて・・・。