千の天使がバスケットボールする

クラシック音楽、映画、本、たわいないこと、そしてGackt・・・日々感じることの事件?と記録  TB&コメントにも☆

ES細胞の光と影

2006-07-28 00:58:00 | Nonsense
両親のいない迷える子羊ドリーは、平均寿命のわずか半分を生きて病死した。今では、博物館でその画期的なる”偉業”を証明すべく、標本となって静かに眠っている。
アトム好きの科学万能主義とまではいかないが、幸運にもニーチェのように神は死んだとつぶやく者にとって、いつも生命倫理に関わる科学研究において謎なのが、科学者の信仰と科学とのおりあいである。

ES細胞の研究に関して、米国欧州では異なる決断をした。ES細胞の研究は、生物界において金の鉱脈であると感じている私にとって、今回のブッシュ米大統領の拒否権発動は、番狂わせの感がある。それだけ、かなりの政治献金が保守的な宗教団体から大統領に流れて、身動きできないのだろうか。それでは、我が国においては、どうであろうか。
すでに旧聞になっているが、一昨年7月23日総合科学技術会議において、「ヒトクローン胚研究」を条件つきで解禁している。

今から10年前の7月、英国ロスリン研究所でクローン羊「ドリー」が誕生した。受精というプロセスとは無関係に生まれたドリーに、世界は驚嘆した。その後98年に、ウィスコンシン大学で、ヒトES細胞(万能細胞)を、ヒト受精胚の中から取り出すことに成功。これが、人間の身体のあらゆる組織や器官に文化する能力をもち、尚且つ未分化のまま増殖できることを証明した。例えば、Gacktさんの体細胞からクローン胚をつくり、これからES細胞を得れば、Gacktさんの組織・器官を拒否反応なしで製造することができる。誕生日、クリスマスにはワインを大量に浴びる彼ではあるが、呑み過ぎで肝不全を患って瀕死状態になっても、ES細胞から製造した新品の自分の部品と交換できるようになる。このテクノロジーには当然細かく特許がぶらさがり、自分の部品交換を希望する者は、その発明の対価への高額の医療費を支払うことになる。だから日本政府では、賛否両論の討議を中断して、多数決という異例の採択を宣言して強行採決にうってでも「ヒトクローン胚研究」解禁に走らざるをえなかったのだ。

日本の優秀な技術の成果として、人口皮膚、人口血管、人口骨などを活用した再生技術も着々と浸透している。脳死状態の患者からの移植とは別ルートのこの再生医療は、倫理上からも比較的広く受け入れやすい。また、生きた細胞を素材として質の高い組織・器官を提供する組織生体工学や、ヒト遺伝子を動物の臓器に組み込んで移植用臓器をつくるトランスジェニックという手法もあり、熊本市の大学発ベンチャー企業のトランスジェニック社は東証マザーズに上場している。
しかし、このような移植臓器の究極は、やはり体細胞クローンからつくられたES細胞による臓器であろう。なにしろ自分の肉体の一部ゆえ、拒否反応がないのだから。

ブッシュ米国大統領のような敬虔な信仰心をあいにくもちあわせていない不埒な私であるが、難病患者にとっては今回の拒否は延命の拒否にも聞こえただろう。ジョン・ケリー米上院議員は、この度のブッシュ米大統領の就任以来初の拒否権発動に関し、「11月には国民が大統領に拒否権を行使する」と、中間選挙にからめて厳しく批判した。
その一方で、高額な研究費や創薬の経費の回収のため、医療費も高額にのぼることが予測される。国民健康保険制度でカバーするには限界がある。そのため貧しい者がうける医療と富める者の医療との間に格差が生じるという懸念もある。医療の質の経済的格差社会の到来だ。ES細胞に関しては、難病治療への福音や生命倫理からの可否という哲学や宗教観だけでなく、聞き逃せないのが現実的な国家レベルでのビジネス・チャンス。
いずれにせよ、たとえ米国が今回の対応でバスに乗り遅れたとしても、バスは走り始めている。しかも、そのバスをもはや誰にもとめることができない。それが、世界の流れだ。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿