【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

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映画女優・若尾文子さんを論じた本

2010-01-29 00:38:46 | 評論/評伝/自伝
四方田犬彦・斎藤綾子『映画女優 若尾文子』みすず書房、2003年
      
           

 本書を作る切っ掛けを四方田さんは「はじめに」で書いています、1994年にイタリアに留学していたおりに増村保造監督の日本映画史に関する書物をみつけ、それが契機となってイタリアで増村監督の回顧上映を企画し、成功、その延長で映画会社の大映をめぐるシンポジウムを明治学院で開催、さらにその大映で増村監督と組んだ代表的女優である若尾文子に関する書物を思い立った、と。

 本書は3部からなっています。第一部は四方田の論文「欲望と民主主義」、第二部は斉藤の論文「女優は抵抗する」、そして第三部は若尾文子へとふたりの著者とのインタヴュー「自分以外の人間になりたい」(2002年9月26日、於:プリンスホテル)です。

 四方田論文は、若尾文子が増村保造監督と組んでつくった20本の映画を前半と後半と分け、さらに後半を3系列に整理して論じています。すなわち、前半の映画は「青空娘(1957)」「妻は告発する(1961)」「燗(1962)」などであり、後半は「夫が見た(1964)」から「千羽鶴(1969)」です。

 この後半は、「卍(1963)」「刺青(1966)」などの谷崎もの、「清作の妻(1965)」「赤い天使(1966)」などの戦争もの、「妻二人(1967)」「華岡青洲の妻(1967)」などの家族メロドラマものなどの系譜があります。

 もちろんこの他にも水上勉の小説の映画化「雁の寺(1962)」「越後竹人形(1963)」があります。

 若尾文子を専ら増村監督、三島由紀夫などの肩越しに捉えているのが四方田論文の特徴です。他の共演した女優、岸田今日子、岡田茉莉子、高峰秀子らと、あるいは共演はしていないが吉永小百合、京マチ子、山口百恵などと比べながら論じているのが興味深いです。

 斉藤論文は女性が女優若尾文子をどのように観るのか、男性の側から描かれた増村監督の映像のなかで彼女はどのような演じ方をしたのかという問題意識(斉藤さんはこれを<若尾文子問題>と呼んでいる)のもとに論旨を構築しています。ここでは「ホモエロチックな欲望」「両性的オマージュ」「家父長制における女性の抵抗」「ジェンダーコード」「共同体と個人」「折衝」「重力」などのタームを駆使して哲学的な考察がなされています。

 そして対談。普段着の若尾文子さんがそこに居ます。

 末尾に若尾文子が演じた160本に近い映画の詳細なフィルモグラフィー(志村三代子作成)。

 本書を読む限りでは、若尾さんにとって「妻は告発する」「夫は見た」「清作の妻」が若尾文子の作品の節目を成しているようです。アイドルから女優へ、そして複雑な陰影をもった女性の生活と人生を、あるときは折り目正しく、あるときは激情的に演じた若尾さんは日本映画史のなかでも稀有な存在です。

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