田中貴子『悪女論』紀伊国屋書店、1992年
「悪女(性的魔力で男を破滅させる女)」は男性の視点から作られた言葉だということの洞察が本書の主眼です。その事実関係を説話を含む中世,近世の過去の文献のなかで追跡していくという方法がとられています。
全体の構成は・・・
「Ⅰ帝という名の<悪女> 称徳天皇と道鏡」
「Ⅱ鬼にとりつかれた<悪女> 染殿后と位争い」
「Ⅲ竜蛇となった<悪女> 『道成寺縁起絵巻』から『華厳縁起絵巻』へ」です。
<悪女>の呼称の本質は性差別であり,女帝忌避観,天皇の血の系譜,権力からの女性の排除の思想が背景にありますが,女性に固有とされた不浄観,罪状観の要素と結び付けて語られてきました。
「平安,鎌倉,室町と時代を経るにつれ,女性の悪行と蛇が強固につなぎ合わされていった」「蛇を身に養う女性は,普段の生活をしている限りにおいて何ら問題はない。だが,いったん嫉妬を起こすが最後,腹の底に眠っていた邪悪な蛇がゆっくりと鎌首をもたげ始めるのだ」(p.182)。こうした偏見は男性中心の権力構造,社会制度のなかで流布されました。
<悪女>たちの物語を取り上げるに際し,著者が真っ先に思い出したのは,中上健次の小説「浮島」の次の一節だったと「あとがき」で書いています。
「よしんば女が,蛇の化身で,淫乱で,さかしらずで,邪悪であっても,女とともに果ての果てまで行ってこそ・・・・男というものである。道成寺の安珍も,蛇性の婬の豊雄もふがいない。逃げ出すことは要らない」(p.219)。
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