【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

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松岡正剛『知の編集工学』(文庫)朝日新聞社、2001年

2018-03-08 22:14:47 | 地理/風土/気象/文化
          
 「編集工学」方法論の入門書です。編集という人間の知的営為の意味、その構造が多角的に考察されています。

 編集は情報の整理であり、情報の圧縮であり、記憶された情報を再生することです。著者の言葉によれば、「編集は人間の活動にひそむ最も基本的な情報技術」(p.338)ですが、より正確には「(編集とは)該当する対象の情報の構造を読みとき、それを新たな意匠で再生するもの」です(p.19)。

 編集という営為のなかでは、「情報は情報を誘導する」「情報は孤立していない」「情報はひとりではいられない」「情報は行先をもっている」(p.37)、要するに、情報は連携しあっているということです。

 情報のこの性質をたぐることによって、「<意味単位のネットワーク>を進むことを、私たちはごく一般的に『考える』と言っている。・・・このジグザグした進行が『考える』ということの正体なのだ。それが<ハイパーリンク状態>である。思想とは、畢竟、そのジグザグとした進行の航跡のことに他ならない」(pp.57-58)という見方も出てきます。

 編集とは実は日常的に誰もが無意識的にせよ行っていることなのです。著者はこれを自覚的に方法論の次元にまで昇華させ、新しい知の創案という世界を拓く武器にしようとしているのです。

 それでは編集は具体的にどのようプロセスを経て成立するのでしょうか? 著者はまず、「文節化は重要な編集の第一歩である」(p.73)。「文節化は情報編集のプロセスにとって最も基本的な基礎作業である」(p.75)。「比較や比喩や、推理や類推も<編集>なのである」(p.85)、と書きます。

 しかし、編集は多様です。何かひとつの方法が編集なのではありません。編集には「編集の背景に関する領域」、すなわちマザーコードがある(p.184)と言います。編集工学の「編集技術マトリックス」には8段階のエディティング・プロセス(p.189)があり、いくつかの作業仮説があります(p.192)。

 この<情報文化技術>が相手にする素材は、数値情報をはじめとする情報群があり、これらが64の「編集技法」によって編集されています。

 とにかく、編集という壮大なプランが、編集のフライジャルでノン・リニアな性格、編集における主語と述語の関係といった軸にそって分析されています。

 マルクス、トマス・モア、ダンテ、ソシュール、フーコー、ユング、ウィトゲンシュタイン、ミンスキー、クーン(パラダイム論の)が出てきたかと思えば、西田幾多郎、歌舞伎、浄瑠璃も登場するなど、著者の該博な知識には圧倒されます。それが自在な語り口で紡がれ、思想と方法が編まれていきます。

 著者が一番言いたかったことは、インターネットの進化が強調されながら、しかしそこに一向に文化的な芽が育っていない、編集工学の方法論の構築がその遅れをとりもどす契機になるのではないか、掛け声だけでなくそのための基礎的な議論(と言ってもかなり難解ですが)をこの本でしておきたかった、まとめておきたかった、ということなのではないでしょうか?


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