【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

時々、読書、旅、散策、映画・音楽等の鑑賞、料理とお酒で一息つきます。

「髪結いの亭主(La Mari de la Coiffuse)」( パトリス・ルコント監督、フランス、1990年)

2017-07-09 22:57:46 | 映画

            

 12才の少年アントワーヌは、床屋に行くのが大好きです。いきつけの床屋は男性専用でアルザス出身の少し太めの美女シェーファー夫人が経営しています。彼は大人になったら女の床屋さんと結婚し、髪結いの亭主になろうと胸をふくらませます。その物言いは父親をいたく怒らせ、頬を叩かれました。

 成人したアントワーヌ(ジャン・ロシュフォール)はある床屋の店を訪れ、美しい女性理容師マチルド(アンナ・ガリエラ)に出会います。一目で彼女を見初めた彼は、いきなりプロポーズをします。一端は軽くあしらわれましたが、再びその店に出向きます。そしてまたプロポーズ、そして結婚。

 理髪は彼女が担当し、彼はそれをながめる毎日です。理髪店にきてむずかる子どもを奇妙なアラブ風の踊りであやす程度が彼の役割しか果たしません。店の窓から射し込むやわらかな陽ざしのなかで、匂うような官能美を放つマチルド。二人は10年もの間、愛し合い、色褪せることのない甘い至福の暮らしを続けました。「二人が離れるのは死ぬとき」とマチルドは言います。これがこの映画の伏線になります。

 ある日突然、悲劇が訪れる。二人の男性のお客が「死」とは何かについて会話をかわし、店を出ていきます。マチルドは、彼らの背中を見ながら「また背中がまがった、人生って嫌ね」とつぶやきます。夕立を背景に店のなかでマチルドは、アントワーヌと濃厚な愛を交歓した直後、彼女は「買い物をしてくる」言い、傘もささず店をでました。そして、川に身を投げ、自ら命を絶ちました。

  遺書で語られた死の理由に、彼女の愛の深さが示されていました。「あなたが死んだり、わたしにあきる前に死ぬわ。優しさだけが残っても、それでは満足できない。不幸より死を選ぶわ。抱擁の温もりやあなたの香やまなざし、キスを胸に死にます。あなたがくれた幸せな日々とともに死んでいきます」と。残されたアントワーヌは、客とともに得意の踊りを披露しながら、一人で店を続けます。

 性愛とともにある精神的な愛。彼女が夫を求める姿に性愛の深さが示され、自殺することで永遠の精神的な愛が飛翔したのです。世話物風の味わいをみせながら、豊饒な悦楽の後の深い哀しみを結晶させた独特の美学を持った映画として記憶に残ります。


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