シングルマザーズは、離婚、死別して子育てをしている母親、あるいは未婚の母たちのこと。この芝居に登場する直、燈子、初音、水枝はみなそれぞれの過去、現在の状況は異なりますがシングル・マザーです。
離婚して12歳の息子と暮らす直は、派遣社員として働きながらシングルマザー支援団体“ひとりママ・ネット”の事務局長役をこなしています。代表の燈子と、児童扶養手当削減を画策する行政に抗議する活動にとりくみ、ロビー活動、ネットワーク作りをしながら、国会を動かそうと奮闘しています。
事務所にはシングルマザーが訪れますが、代表の燈子と事務局長の直は彼女たちの悩みごとを聞き、その相談にのっています。水枝と初音そうしたなかで出会った仲間です。彼女たちは運動につまずき、生活にくたびれながらも、自立していきます。それは、直の励みです。
しかし、就職差別や低賃金にあえぐ実態は、なかなか改善されません。ある日、会社員の小田がこの団体の事務所に来ます。妻子が突然消えてしまったというのです。
小田は外見は実直で穏やかそうにみえます。話を聞くうちに、直は小田に惹かれますが、彼が妻に暴力を振るっていた過去を見抜きます。二人の間にあった、家庭内暴力の被害者と加害者という溝は埋まることはありません。直も家庭内暴力に苦しんでいた過去があり、この問題にかけては非常に敏感な神経をもっていました。
沢口さん、吉田さんの演技は「直球勝負」で迫力がありました。2人の衝突から男中心社会の身勝手さ、男のわがまま、甘えが見えてきます。二人の衝突の過程は、スリルがあり、緊張感がありました。水枝と初音を演じた玄覺悠子さん枝元萌さんもそれぞれ個性的で魅力がありました。とくに枝元さんの演技は笑えるところが多く、劇全体の緊張感にいい意味での緩みを醸し出していたように思います。
蛇足ながら、ストーリーの背景にあったのは、以下のような事情です。
“ひとりママ・ネット”は、児童扶養手当削減反対の運動で闘っています。児童扶養手当というのは、ひとり親家庭などの児童に支給される手当てです。所得制限がありますが、母子家庭の支えでした。
子どもひとりあたり月額上限約4万円(満額支給の場合、2人目には5000円加算)。これが小泉政権下の2002年に、母子家庭などの自立支援を進める母子寡婦福祉法「改正」にともない、5年以上受給してきた世帯は、2008年から半額を限度に削減されることになりました。反対に立ち上がったのがNPO。精力的な運動をくんで、2007年12月、削減を凍結させました。
公演のあと、沢口靖子さん、永井愛さんがロビーで、東北・関東大震災救援の募金箱をもって、呼びかけをしていましたので、募金をしてきました。
作・演出 永井愛
<出演>
沢口靖子(上村 直)
根岸季衣(高坂燈子)
枝元 萌(大平初音)
玄覺悠子(難波水枝)
吉田栄作(小田行男)
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