小説の孵化場

鏡川伊一郎の歴史と小説に関するエッセイ

道真怨霊  7

2006-06-07 16:38:52 | 小説
 左遷された道真に代わって右大臣となったのは源光であった。時平側の公卿である。ところがこの源光は狩の途中に馬もろとも泥沼にはまって死んだ。遺体は見つからなかった。世上、これも道真のたたりとされるが、もっと別の陰の声があった。暗殺されたのではないか、というささやきだ。それと公に語られたわけではないが、暗殺の黒幕は次に右大臣になった人物だと、誰もが感じていた。
 その人物とは藤原忠平である。藤原基経の四男、つまり時平の弟である。時平と忠平の兄弟仲は悪く、忠平は宇多法皇、道真側の人間であった。 
 醍醐帝亡き後は、忠平が摂政となって、完全に彼の天下になるのだが、彼の妻に注目すべきである。名は順子(じゅんし)、宇多法皇の養女という説もあるが、菅原類子の娘とみて間違いはない。「菅原の君」と呼ばれていたからだ。そうなのだ。道真の姪である。道真が実の子以上に可愛がり、彼女もまた道真を父のように慕っていたらしい。
 道真怨霊の仕掛け人はこの忠平・順子夫妻であったように思われる。
 それに天台座主の増命(ぞうみょう)がからんでいる。増命は宇多法皇が出家したさい、受戒、受灌の師となった天台宗の僧である。玉体安泰などの祈願を宮中でしばしば行なっており、宇多法皇系の政治と軌を一にした宗教家であった。


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