小説の孵化場

鏡川伊一郎の歴史と小説に関するエッセイ

新選組・大石鍬次郎ミステリー  3

2007-12-02 16:02:40 | 小説
…その節、伊豆太郎(加納道之助)より相尋ね候には、京師において土州藩坂本龍馬殺害におよび候も、私共の所業にこれあるべく、その証は場所に新選組原田佐之助差料の刀鞘落しこれあり、その上、勇捕縛の節、白状に及ぶの旨、申し聞き候えども、右はかねがね勇咄(はなし)には坂本龍馬討ち取り候ものは見廻り組今井信郎、高橋某等少人数にて、豪勇の龍馬刺留め候義は感賞いたすべくなど、おりおり酒席にて組頭のもの等へ噺候を脇聞きいたし候えども、右のとおり呪縛候上は即座に刎首いたさるべくと覚悟いたし候につき、右様の申し訳は致し候も、誓言と存じられ、私所業の趣、申し答え置きところ、はからずも同月中兵部省へ御引渡しにて…

 以上が「一橋家来大石捨次郎倅 元新選組大石鍬次郎口上」の抜粋である。
 どうやら加納は、近藤勇も龍馬殺害は新選組によるものと白状しているぞと、大石にカマをかけたようである。
 しかし、大石は龍馬をしとめたのは今井信郎ら見廻組と聞かされていたから、必死に弁明したものの、加納らには聞き入れられなかったのである。「誓言」とあるのは「虚言」のことであろうから、嘘をつくなと詰られたのであろう。結局、拷問を逃れるため、加納らの言いなりに虚偽の自白をしたというわけだ。
 さて見廻組の実行犯について、大石がフルネームで記憶していたのは今井だけで、高橋某、さらに兵部省口書では海野某ほか一名としているが、おりもおり、大石が名指ししたその今井信郎は箱館降伏人として兵部省の手中にあった。
 今井信郎の取り調べが始まり、今井は見廻組が龍馬を殺害したことを認めるのであった。ただし、自分は見張り役だったから直接手を下してはいない、と言い逃れている。
 いずれにせよ、大石が兵部省でも尋問されたのは、今井から供述を引き出すためだったと思われる。
 これで、大石の供述は龍馬暗殺に関しては裏が取れ、無実は立証されたことになった。


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