小説の孵化場

鏡川伊一郎の歴史と小説に関するエッセイ

唐人お吉と呼ばれた女 6

2007-03-13 20:58:31 | 小説
 さて、いったん、お吉の写真に話を戻そう。お吉記念館のリーフレットにも使われているらしい例の写真のことだ。
 私は、竹岡範男『唐人お吉物語』の表紙を飾っている写真と、同書の本文中の写真で「お吉十九才(安政6年)」とあるモノクロの写真で彼女の風貌を知った。
 同書には「撮影者 水野半兵衛氏 出品者 水野重四郎氏」とある。さらに「水野半兵衛氏は横浜で下岡蓮杖氏より写真を学び、唐人お吉の話を聞き、下田へ来て写したもの。重四郎氏は三代目」と注記されていた。
 安政年間に撮影されたはずのないことは前に記した。
 しかし、どこかでこの写真の女性はお吉だろうと思い込んでいた私は馬鹿だった。私は妙な発見をしてしまって、いま、自分のうかつさを恥じている。
 この写真、私は以前に見ていたのに忘れていたのだ。小沢健志『幕末・明治の写真』のページをあらためてめくっていたら、お吉の写真と同じ写真に出会ってしまったのだ。なぜ気がつかなかったのだろうか。同書の本文にだけ気をとられ、挿入写真を詳しくチェックしていなかったのが残念だ。
 髪飾りを、お吉とされる写真のほうは、なぜか削除して修正している。つまり、小沢本のほうが原写真で、お吉記念館のほうがコピーなのである。写真研究の第一人者とされる小沢氏の本では、この写真は「娘 明治中期 着色」となっている。明治中期に流行した着色写真なのであった。さすがに明治中期に、お吉はこの若さではありえない。小沢本で写真番号99、ということは小沢本の巻末の写真の「所蔵者一覧」を参照するに、この写真は小沢氏ご本人が所蔵されているようだ。
(いささか法的な面での抵触懸念を憂いながら、ネット上でアップされてもいるので、当該写真を掲げておく。ほんとうは小沢氏とご連絡がとれればよいのだが) 
 





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