小説の孵化場

鏡川伊一郎の歴史と小説に関するエッセイ

『蘭学事始』の中の登場人物 その4

2006-01-20 07:25:11 | 小説
 栗崎流の始祖ドウが「南蛮人の種子」つまり混血児であるとして、さて、その南蛮人とはいかなる国の人をさすのか。江戸時代に渡来したヨーロッパの人たちは、南の国のマカオやフィリピンのルソンを拠点としていた。だから、中国の中華思想をまねて、彼らのことを南蛮人と称したわけだ。実際は西洋人のポルトガル、スペイン、イタリア人が一括して南蛮人とされたわけだが、オランダ人だけは「紅毛」という呼び方で、なぜか南蛮の範疇からはずれることがあった。もっとも、今も昔も、外人の国籍を私たち日本人は外観で判断することは苦手である。一般的には、オランダ人もふくめて、ヨーロッパの人たちは「南蛮人」とみなされたことであろう。
 キリスト教の布教を懸念した徳川幕府は、慶長17年(1612年)、禁教に踏みきり、以後、オランダ以外の西洋諸国との交易を禁止している。オランダだけは特別扱いだったから、南蛮の範疇からはずれたのかも知れない。だいたい、南蛮流外科とオランダ流外科そのもが区別されていたと玄白も述べていた。
 そんなことを勘案すると、「ドウ」はまずオランダ人とのハーフとは思えない。ではいずこの国の親の子であるのか。スペイン人だった可能性はないか。こんなふうに「好奇」の羽をもった心の中の蝶がひらひらと舞うのである。
 


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