小説の孵化場

鏡川伊一郎の歴史と小説に関するエッセイ

謎の人 サヤカ  12

2006-03-16 18:47:08 | 小説
 第二次朝鮮侵略においては、いわゆる降倭が続出する。とりわけ加藤清正軍からの脱走者が多い。
「清正、大いに士卒の心を失し、軍人の日本へ逃亡する者、日に百に以って数う、兵勢甚孤なり」
 と朝鮮王朝実録が伝えるほどだ。士卒の心はなぜ離れたのか。おそらく怯懦ゆえではないはずだ。
 大河内秀元の日記によれば、秀吉は「尽く彼国人を殺し、彼国を空地となさん」と朝鮮人皆殺し作戦を指示したとある。そして朝鮮人の鼻をそぎ、首級に代えて塩漬けにし日本に送れと言った。皆殺しであるから、対象は朝鮮の民間人も含まれるのだ。加藤清正は家臣に一人当たり三つの鼻をノルマとして課した。暴虐のむごさに耐えられなくなった戦士もいて、当然である。しょせん「大義のない戦」である。出兵の意味さえ理解できていない者もいて、兵士たちのモチベーションは低いのである。さらに、秀吉の政権に反撥ないし怨念を抱く者も相当数いたと思われる。だから、たんに脱走というよりも朝鮮側に寝返るという挙にも出るわけである。
 軍勢をひきいる小西行長自身、裏切り行為といえることをしている。機密情報を朝鮮側に漏らしているのだ。再侵攻に際し、事前に家臣を通じて慶尚右兵使の金応瑞に自軍および加藤軍の進路を教えたのであった。進路に当たる地方の老人子供をあらかじめ非難させよ、また稲などは早めに刈っておけ、戦いは山城で応戦せよと伝えているというのだ。彼がキリシタン大名であったゆえんが、こんなところにあらわれていると評すべきか。


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