小説の孵化場

鏡川伊一郎の歴史と小説に関するエッセイ

横井小楠を考える 5

2007-12-25 23:49:46 | 小説
 上平主税の寓居が横井暗殺の謀議の場所であったことは確かだ。上平の素早い逮捕は、そのことがあらかじめ司直によって知られていたのではないかと思わせる。
 事件当日、上平と、前に名をあげた塩川広平のふたりが逮捕されているけれど、共同謀議の場にいた者たちは、実行犯よりも早く、つまり事件の3日後の8日には、ことごとく司直の手に落ちているのであった。もっとも中と金本のふたりは自首であった。
 では実行犯の5人(柳田を除くから5人である)はいつ逮捕されたか。
 津下四郎左衛門の自首が14日。上田と鹿島の逮捕されるのが16日。前岡は逃走すること1年半、逮捕されるのは明治3年7月であった。そして中井は逃げのびて、彼だけは逮捕されていない。その行方は不明である。
 逮捕された実行犯4人はいずれも、のちに梟首の刑を受けた。そして上平、大木(宮)、谷口は終身流罪、中と金本は禁固3年、塩川は禁固100日であった。
 さて、もっとも刑の軽い塩川広平という人物が非常に気にかかる。岩倉具視の息のかかった男なのである。
『勤皇家 塩川広平翁伝』(日吉明助編・広彰会)による(注)と、刑期を終えた塩川は岩倉を訪ねている。岩倉は歓迎し、すぐに東北13ヶ国の藩状内偵の仕事を与え、当座の手当以外にボーナスのようなものを与えている。
 なんのことはない、塩川は岩倉のスパイではないか。
 しかも岩倉は「時の警保長官大原(重徳)公に要請があって」過酷な仕打ちをしないようにと指図していたという。
 大原重徳はあとで意外な登場の仕方をする人物である。よく記憶しておいていただきたい。
 刺客たちは、はめられたと前に書いた。
 横井暗殺の逮捕者をめぐって、奇妙な展開がくりひろげられる。


(注)栗谷川虹『白墓の声 横井小楠暗殺事件の深層』(新人物往来社)よりの孫引きである。 なお「時の警保長官」というのは「時の刑法官知事」の意味であろう。


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1 コメント

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Unknown (Unknown)
2008-05-23 19:19:38
ある英語の本(1892)で実行犯は合計24人で、四つの隊に分かれた。二人は奈良の田舎に長く隠れた。
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